短編①
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「おばーちゃんまだ!?」
「ほら動かない!」
「はいッ!」
勢い良く返事はしたものの、内心ものすごーく焦ってる。
もうすぐエースが来ちゃうよう。
「しゃんとして!・・・・・よし、いいでしょ!」
「有り難うおばあちゃん!」
おばあちゃんのOKをもらったところで、私は急いで巾着を手に取った。
今日はこれから、
エースとお祭り。
しかも浴衣で。
ことの始まりは昨日。
『ね、明日駅前のお祭り行かない?』
『アコの奢りなら行ってもいい』
『破産するからヤダ。・・・・行こうよエース』
3年間同じクラスだったエースとは、
仲はいいけど別に付き合ってる訳じゃない。
それでも家も近いし、エースとお祭りに行きたかった。
『仕方ねェな。・・・・じゃあちゃんと浴衣着て来いよ』
『え』
『明日5時。お前ん家の前集合な』
『え?え、浴衣?』
戸惑う私を知らん顔で、エースは颯爽と去っていった。
嘘でしょ、という私の言葉だけが残されて。
私はそれからすぐに帰って、タンスの奥の浴衣を探し当てた。
「行って来ます!」
慌てて玄関を飛び出ると、ちょうどエースが来たとこだった様子。
「あ・・・・・お、お待たせ」
「・・・・・・へェ」
エースは私の姿を確認すると、まじまじと見つめてくる。
でもそんなエースも、
「・・・・・エース、甚平」
そんなエースも今日は普通の服じゃなくて。
甚平を着ていた。
「何だよ」
「カッコイイ、よ」
思ったままを伝えれば、エースは何処か気まずそうに顔を背けて、
「・・・・・・アコも」
とぽつり。
「・・・・・・私も、何?」
エースの口から聞きたくて、思い切って聞いてみる。
すると私の顔をじっとみつめて、満面の笑みを浮かべた。
「アコも、すっげェ可愛い」
「あ・・・・っ有り難う」
・・・・・・・・・・いざ言われると照れる。
すんごい照れる!
真っ赤になった私なんてお構いなしに、
「うし、行くぞ」
とエース。
「・・・・・・・・うん」
心臓、破裂しないといいなと祈りつつお祭りの会場へ向かった。
「焼きソバにフランクフルトにたこ焼きにわた飴、チョコバナナにカキ氷・・・・」
「まだイカ焼き食ってねェ」
「しかもその手に持ってるのは何?」
「ルフィへの土産」
にしし、と満足そうな笑みで袋を見るエースは、完全に『お兄ちゃん』の顔。
「いいなあルフィは、エースみたいなお兄ちゃんがいて」
「俺はお前みたいな妹は持ちたくねェ」
「ケチ。あ、エースくじやろっ」
露店でくじを見つけた私はそこに駆け寄った。
すると、
「馬鹿、走んな。転ぶだろ」
と腕を捕まれた。
「うひゃっ・・・・ごめん」
「つーかこういうとこのクジって当たんのか?何が欲しいんだよ?」
お店の前に着くとぱっと離れた手にドキドキしながら、私は景品を指さす。
「・・・・・・あれ」
「あれって、あのたぬきのストラップか?」
「いやトナカイだから!たぬきじゃないから!」
エースがたぬき、といったのはトナカイのストラップ。
私の好きなマスコットキャラクター。
「俺は当たらないと思う」
「いい。やってみる。おじさん1回!」
おじさんにお金を払って、箱から1枚紙を引く。
・・・・・・・・・・・・当たりますように!
これだ、と思った紙を引いて恐る恐る開く。
そこには、
『ハズレ』
「やっぱな」
「・・・・・・うっさいよエース」
がっくりと肩を落として、残念賞の駄菓子をもらった。
「あれ人気商品だろ?簡単に当たらねェよ」
言いながらエースは拗ねた私に、よしよしと頭を撫でてくれた。
・・・・・・・・・・何かいつもと違う。
「あっ射的!!」
「切り替え早ェな」
「違う違う、射的の景品にも同じのがあるの!」
近くにあった射的の露店に同じものを見つけた私は早速飛びつく、けど。
「射的、ねェ。それならまあ何とかなるか」
「おじさん1回!」
同じようにお金を払って、もらった銃にコルクの弾を詰めた。
「い、けっ」
ポン、と何とも情けない音で飛び出た弾は、当然のように壁に当たった。
「・・・・下手くそ」
「・・・・・・知ってた」
残念なことに私の射的の腕はからっきし。
「ごめんねエース付き合わせて。イカ焼き行く?」
「おっちゃん、1回」
「え?」
謝りながら隣のエースを見ると、
真っ直ぐにトナカイのストラップを見るめるエース。
弾を込め、そのまま銃を向けたエースの横顔がカッコ良くて。
パン、と私とは違う音に聞こえた発砲音。
ぼと、と落ちたその景品。
「おお!当たり!いい腕してるねえ兄ちゃん」
私にはその光景がスローモーションにすら見えた。
「ほら、アコ。欲しかったんだろ?これ」
何事もなかったかのようにストラップを私に差し出してくれたエースに、私はただ呆然とするばかりで。
「・・・・・・おーいアコ?」
「え?」
「何ぼーっとしてんだよ。具合悪ィか?」
「え、あ、ううん大丈夫。ありがと、エース」
ストラップを受け取って、笑みが零れる。
・・・・嬉しすぎる。
「よし、じゃあイカ焼き行くぞ」
「よーし、私が奢る!」
「マジで!?」
ストラップのお礼にイカ焼きをエースに奢って。
浴衣のエースがすごくカッコ良くて。
「なァアコ」
「ん?」
「次は花火大会行くか」
「・・・・・・・うん」
2人の関係が変わりそうな、暑い夏。
トナカイのストラップが揺れた。