短編①
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「そりゃ私も悪いとこはありますけど」
「けど、何だい」
仕事帰り、私の直属の上司であるマルコさんと一緒に居酒屋の個室。
向かい合って座って、私は真っ直ぐマルコさんを見つめた。
私はたまにこうしてマルコさんに愚痴を聞いてもらったり、相談に乗ってもらったりする。
「けど!人の話を最後まで聞かないででも、とかだってとか、そんなんばっかで!」
普段あまりお酒を飲まない上にアルコールに強くない私は、
ピーチフィズ3杯で既に酔っている。
「しかも問い詰めると何も言わないから何か言いなさいって言ったら、
『あ、発言していーんすかぁ?』ですよ!?」
今日の愚痴内容は主に新入社員のこと。
「いい年した大人がはいどうぞって言われなきゃ発言出来ないっておかしくないですか!?」
やる気を感じられず、失敗しても謝罪もせず。
態度に問題大有りな新入社員に、私は社会人としての常識を問うた。
けれども私はやり過ぎだ、と言われてしまった。
「あー、そりゃあ捻くれたガキだねい」
「ですよね!?・・・・でもサッチさんやエースが、私は言いすぎだって。
逃げ道も作ってやれよって」
「俺もそう思うよい。逃げ道くらいは作ってやれ」
言って、マルコさんは5杯目の生ビールに口を付ける。
けれども酔っている様子はない。
「でもっそしたら逃げられちゃうじゃないですか!こっちは伝えたいから話してるのに!」
「アコ、お前ェの気持ちもわかる。だが逃げ道も作ってやらずに
お前の気持ちだけを押し付けたら駄目だよい」
「・・・・・なんでですか」
「でなきゃいつか相手がどうにかなっちまうだろい。爆発するか、潰れるか」
「・・・・・・・・・・・・・・そんなの私だって潰されそうです」
私だって我慢してる。
怒る時だって頭ごなしに叱る訳じゃない。
相手の言葉を聞いて、気持ちを聞いて。
なのに。
マルコさんは軽くため息を吐いて、呆れたように笑う。
「お前が潰れたら俺が困るよい」
絶対呆れてるよね、マルコさん。
ああ、もう泣きそう。
「んな顔するな、俺まで潰れちまう」
「すみません、です」
こうして私の愚痴聞いたりとか、やっぱ重いんだ。
泣きそうな自分を叱咤する。
この上泣いたりなんかしたらきっとほんとに潰れちゃう。
「なあアコ」
「・・・・はい」
「経験してみるかい?逃げ場がないってのをよい」
「・・・・・・・・・・・・はい?」
そう言ってマルコさんは立ち上がり、
私のほうへと近づいてきて、
「ぅえ?」
顔が近くなって。
私は壁とマルコさんの間に挟まれた。
その距離は、近い。
「・・・マルコさ、」
ああこれが巷で噂の『壁ドン』ってやつか。
なんて頭の隅で考えながら、
それにしても近すぎだろう!と焦る自分が居る。
キス、されそう。
「・・・アコ、逃げてみろよい」
と言うものの、後ろは壁、前はマルコさん。
横は隙間がないくらい距離が詰められていて、逃げ道なんかない。
「え、と。逃げられません、です・・・ね」
素直にそれを認めると、マルコさんは少しだけ寂しそうに笑って、私から離れた。
「これでわかったろい?」
ううん、でも。
私。
「わかんないです」
「・・・お前な」
「だって確かに逃げられなかったけど、嫌じゃなかったですもん」
「・・・・は、」
「でもおっしゃりたいことは何となくわかりました。・・・・たぶん」
「もういいよい」
「え、あの、マルコさん」
あれ、私怒らせちゃったかな?
マルコさんの眉間の皺が気になる。
「元々俺は逃げる気もねえよい。簡単に潰れるつもりもねえ。
・・・・アコも逃がすつもりはねえから、覚悟しろよい」
なんか告白みたい、今の。
告白だったらいいのに。
「・・・マルコさん酔ってます?」
「じゃなきゃこんなこと言えねえよい」
「・・・・こんなこと、って?」
ああ、まさかそんな。
「アコが好きだ、ってことだよい」
「・・・・じゃあ今の台詞、明日素面でもっかい言ってくれたら真面目に考えます」
「言ったな?覚えてろよい」
覚えてますよ。
逃がさないし、
逃げない。
逃げ道なんて私達にはない。