短編④
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「何してんだ?」
彼はそう言って不思議そうな顔で私の肩を掴んだ。
「・・・・何、してるんだろう」
むしろ私は何をすればいいんだろう。
何が出来るんだろう私に。
・・・・・私は、どうしたら。
「な、腹減ってねェ?」
「・・・・・・へ?」
・・・・・見知らぬ男と肩を並べてラーメンを啜った。
「あ。美味しい」
「だろ?ここ美味いんだよなァ」
「・・・・・驕り?」
「男に二言はねェ。ちゃんと奢る」
・・・彼は私を、奢るから、と食事に誘った。
言われてみれば何となくお腹が空いている気がして頷いてついて来てしまった。
「・・・・何で?」
「俺から誘ったからな。出すのが礼儀だろ?」
「・・・・・じゃあ、何で私を誘ったの?」
食べて少しずつ頭がはっきりして、思い出した。
私はさっき、あそこで。
車に飛び込もうとしてたんだ。
そこをこの彼に肩を掴まれて止められた。
・・・・・わかってたのかな、私のやろうとしてたこと。
「腹減ってそうな顔してたから」
「・・・・・・・・・・・してた?そんな顔」
「美味い飯は1人で食うより誰かと一緒に食った方がもっと美味い、だろ?」
にしし。
・・・・・幸せそうに、笑う。
「・・・・名前、聞いても?」
「ああ。俺はエースだ」
「私は・・・アコ。いつもこういうことしてるの?」
自分も名乗って素朴な疑問を口にしてみた。
「こういうこと?」
「・・・・簡単に女の子ご飯に誘ったり」
はねっ毛の黒髪。そばかす。
純粋そうに見えるけど意外とチャラいのかと思えば。
「いや、しねェけど」
・・・しないんだ。
うん、見た目通り?
「何で今日は私を誘ったの?」
「何となく」
アッサリと言い切ったエースがおかしくて思わず笑った。
「一目惚れした、とか言って欲しかったなあそこは」
なんて会ったばかりの彼に軽口叩ける自分に驚いた。
「ははっ、そんなナンパ野郎についていかねェだろ?」
「・・・・まあね」
でもエースならついて行ったかもしれない、と思っていたら、
突然横でごつん!!と音がした。
「・・・・エース?」
エースがテーブルに顔を伏せた。
ど、どうしたの!?突然意識を失った!?
と思いきや聞こえ来たのは寝息。
・・・・・・嘘、寝てる?
「ああ、そのお客さんいつもだよ」
「へ!?いつも!?」
店主さんがカラカラと笑いながら説明してくれた。
ラーメンを食べてる途中でよく寝てしまうのだと。
でもすぐ起きるからほっときな、と。
・・・・・・にわかには信じがたい状況に待つこと1分。
がばりと突然エースが顔を上げた。
「・・・・・お、おはよう?」
「ん。起きた」
「・・・・・だね」
何事もなかったかのようにエースはスープを飲み干し、
私の器を覗きこんだ。
「お、もう食い終わってんな?」
「あ、うん。美味しかった」
エースは丁寧にご馳走様でした、とお辞儀をして。
「おっちゃんごちそーさん」
「まいどォ!」
私の分までお金を払ってくれて、
一緒にお店を出た。
「・・・ほんとにいいの?お金」
「言ったろ?ちゃんと奢るって」
「ご馳走様・・・・有難う」
・・・これで、エースとはお別れか。
少し寂しいなと思いつつ、改めてお礼を言おうと思っていたら、
「なァアコ、このあと時間ねェ?」
「え・・・・・・大丈夫、だけど」
「じゃあデートしようぜ」
「は!?」
「食った後は動かないとな!」
「へ!?」
いい笑顔のエースについて行ったら。
カキーン、といい音がした。
「あ・・・・当たった」
「よそ見してると危ねェぞ、次来るんだからよ」
「あ、うん」
飛んで行った球を見つめていたらすぐに新しい球が飛んできたので慌ててバッドを降った。
・・・・バッティングセンターなんて初めてきた。
「わわっ・・・・・わ・・・・・・・!!」
また当たった!
「お、すげェ!」
「・・・手が、痺れてる」
「おし、じゃあ次は俺な」
「が、頑張って!」
選手交代。
私は10球中4回当てられたけど、エースは。
「・・・・・すごい」
全部当ててた。
「っしゃ!行こうぜ」
「え、何処に」
「交換」
「交換?」
「ここで待ってろよ?」
エースは満面の笑みでそう言い残して、
すぐに帰って来た。
「ほら」
「・・・ジュース?」
「ホームランで景品と交換出来るんだ」
「そうなの!?」
有難く頂いて、ごくり。
・・・美味しい。
・・・私の知らないこと、たくさんあるんだなあ。
「・・・・あのさ」
「うん」
エースが急に真顔になった。
あの時のことを聞かれるのだろうかと覚悟して。
耳を澄ませた。
「俺、嘘ついた」
「嘘?」
「ホントは一目惚れだったんだ」
「・・・・・・・・・・・・え」
「正直言えば、最初にアコ見た時はつまんなさそうな顔してんな、だったけど」
「・・・・それは、わかる」
たぶんつまらないなって思ってたから。
私はもうこの世界を満喫した、だからもういいかと思ったから。
でもそれは愚かな驕りだったなあ。
「でもなんつーか、俺が笑顔にしてェって思って、ナンパした」
悪ィ、とエースが寂しそうに笑った。
「わ・・・・私は嬉しかった、よ」
「・・・・じゃあもう1回、ナンパしてもいいか?」
「ど、どうやって!?」
「一目惚れしました、俺と付き合って下さい」
・・・・深々と下げられた頭。
真っ赤な耳。
これの何処がナンパ?
・・・・・面白い。
「有難う、これからも美味しいお店と楽しいお店連れて行ってください」
私も彼の為に楽しいこと、探さないと。
世界は広いなあ、と車の音を聞きながら思った。