短編④
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朝起きたら何やら大変なことになっていた。
「お頭が記憶喪失?」
「・・・・らしい」
苦々しい顔で頷くベンさん。
でも完全な記憶喪失ではないらしく、
ヤソップさんやベンさんのことは覚えてるそうで。
わかる人もいるけどわからない人も多い、とのこと。
俺は駄目だった、
俺は覚えてもらってたぞ、と声が騒がしく響いてる甲板。
・・・・・で、私は、というと。
「お嬢さんもうちのクルーか」
と驚かれたのが答え。
「こんな可愛いお嬢さんが船にいるなんて俺は幸せモンだなァ」
と笑ってくれたけど。
・・・・正直、何でお前みたいな小娘が居るんだと言われなくてほっとしたのが半分。
わかってくれなくて寂しかったのが半分。
「まさかお頭がアコのことを忘れるたァなぁ」
とヤソップさんが慰めてくれたけど、
「お頭の意思でどうこう出来るものじゃないし仕方ないですよ」
と、自分にも言い聞かせた。
「意外と落ち込んでねェみたいだな、安心したわ」
「・・・ところで記憶喪失の原因は何なんですか?」
「今んとこ不明だそうだ」
「不明?そんなことあります?」
「ま、お頭のこった、酒の飲み過ぎじゃねェのか?」
かっかっか、と笑いながらヤソップさんは去って行った。
・・・・・・まあ、海賊として、お頭としての自覚があるなら。
クルー何人かを覚えてないことくらい些末なことなのかもしれないけど。
かと思いきや。
夜の宴で見たお頭は落ち込んでるように見えた。
「どうぞ」
お酒を注ぎながら近づいてみる。
「アコ」
「はい」
「怒ってないのか?」
「・・・今度は何やったんです?」
思い当たることはないんだけど、と聞いてみればお頭が苦笑した。
「大事なクルーの記憶がねェことにさ」
「怒ることじゃないですよ。仕方ないことです」
「生憎とまだ思い出せねェ。すまん」
・・・・なるほど、お頭らしい。
「大丈夫です、すぐ思い出せますよ」
「アコは優しいな」
・・・・不思議と、お頭本人であるのは間違いないはずなのに。
声も同じはずなのに。
違う人に名前を呼ばれているような気がした。
「・・・・お頭の方が、優しいですよ」
「そうか?」
なんて照れくさそうに笑って。
・・・私を知らない、お頭。
「でも不思議ですよね・・・外傷はないのに記憶喪失って」
船医さんが言ってた。
外傷がないということは精神的なものによる記憶喪失だろうって。
何ともないように見えて結構ストレス溜まってたんだろうか。
それとも何か他にあったとか?
「ヤソップは酒の飲み過ぎだと笑っていたが」
「・・・・まったくもう」
私にも同じこと言ってたけど、ヤソップさん。
「一時的なものだと言われたが、それでも不安にさせているな、俺は」
「・・・・ていうか原因がほんとにお酒なら絶対許しませんからね」
「しばらく宴禁止令が出そうだな」
「出します、間違いなく」
「・・・・・1つ、聞いても?」
「はい、どうぞ?」
お頭はお酒を置いて、
私の顎に手をやった。
「おか・・・・・・・」
「・・・・俺達はこういう関係、か?」
・・・・ふざけてるように見えて酷く真面目な視線。
「・・・・・いいえ」
「・・・・・そうか、そりゃ残念だ」
そう言ってぱっと手を離して、
再びお酒をぐびり。
・・・記憶をなくす前も、なくしたあとも。
何を考えてるのかわかんないなあ。
「アコも飲まないか?飲めるんだろう?」
「・・・・じゃあ少しだけ、頂きます」
もらったお酒に口をつけながら、
何とかお頭を元気づけたいと考える。
「あ、何かおつまみ貰って来ましょうか?」
「いや、いい」
「えーと・・・・・じゃあ新しいお酒持って来ますね」
「・・・・いや」
「・・・・いいんですか?お酒、もう残り少ないですけど」
「いいんだ。アコはここに居てくれ」
・・・たまに甘えるお頭モード。
記憶がないのもやっぱり不安なのかな。
「・・・・・はい」
「俺との1番思い出話、聞かせてくれないか?」
「お頭との1番の思い出・・・・?」
・・・・思い返せば色々あるけど。
「今ですね」
「今?」
「私の記憶がないお頭とお酒を飲んだこと。1番に思い出になります」
「・・・・すまん」
「あははっ、別に怒ってる訳じゃないですよ。でも・・・・そうですね」
私の中の1番の思い出、は。
「毎日ですね」
「・・・・面白い答えだな」
「お頭とこうしてお酒飲んだり、冗談言い合ったり。怒ったり怒られたり」
喧嘩したり、仲直りしたり。
笑ったり泣いたり。
毎日が1番楽しいと思えてる。
・・・・幸せなこと。
「お頭にとってもそうだったら嬉しいんですけどね」
「俺も・・・・同じだ、アコ」
優しい笑みのお頭。
「・・・・・・・え?」
「アコと過ごす毎日が俺の1番の思い出だ・・・・って、らしくもねェか」
・・・・私の知ってるお頭、だ。
「お頭?記憶・・・・・」
「思い出した、今」
「えええええ!?」
「アコがあんまりにも寂しそうな顔してるもんで必死に思い出そうとしちゃいたんだが」
「ほえええええ・・・・・・」
「今のアコの顔見てな。俺はこんな愛おしい存在を忘れてたとはなァ」
よしよし、と頭を撫でてくれた、大きくて優しい手。
「・・・・お酒の飲み過ぎです、絶対」
「明日は控えめにする」
「駄目です」
「宴禁止令発令、か?」
「・・・・・・・もう、いいです」
私のことを思い出してくれたから。
それだけで。
「もう忘れねェさ、何があってもな」
「忘れてもまた思い出させます」
「ついでに頼みがある」
「・・・・何です?」
お頭の手が私の唇に触れた。
「こういう関係になりたい、と言ったら?」
「・・・・今日が1番の思い出に塗り替わりますね」
いつだって今が1番の思い出。