短編④
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ときめきを取り戻せ。
そう言って友人が勝手に連絡をして決まった、デート。
ただのデートではなかった。
何て言ったって相手は商売。
・・・・レンタル彼氏、なのだから。
憧れていた大学の先輩が結構な悪だったことが判明して。
もう恋なんてしないと何処かの歌のようなことを本気で思った。
そんな私を心配してくれた友人の優しさ。
・・・・・・で、レンタル彼氏。
私のお相手は、
「行きたいとこ、海だったよな」
「あ、うん」
エース君という自称私と同じ年齢の男の子。
事前のやりとりで行きたいところは、と聞かれてとりあえず希望がなかったので、
海、と答えてみた。
「行こうぜ、アコ」
と、自然に差し出された手。
今まで何人の女の子と繋いできたんだろう。
なんて思いながら、手を重ねた。
「何か照れるな」
という彼の言葉を信じることは出来なくて。
「海で何がしたいんだ?」
「んー・・・・波の音、聞いていたいかなあって」
たぶんこんなこと普通の男の子に言ったら呆れられる。
つまらない、と言われる。
「いいよな、波の音」
「・・・・落ち着くよね」
手を繋いで歩きながら会話。
「海って言ったらラーメンだな」
急に食べ物の話し!?
「あははっ、海の家って言ったらそうかも」
「あとは焼きそばとかカレーも美味い」
「ラーメンどこ行ったの?」
「全部食う」
「うわあ・・・・細いのに結構食べるんだ?」
「食うのは好きだな」
「じゃあ今日も何か食べ物あるといいね」
「アコは甘いのが好きか?」
「私は海ではたこ焼き派」
「お、いいな。たこ焼きかあ・・・・」
緊張してた割に会話が弾んで、楽しいと思った。
「自販機のアイスしかないね・・・・」
時期はずれの海の残酷さ。
今はもう寒いし。
散々食べ物の話しをしてきたのに。
「アイスがあれば十分」
「・・・・寒くない?」
「アコは食わねェの?」
エース君が挑戦的な笑みでアイスを買ったから私も思わず、
「食べるっ!!」
「何味?」
「チョコのやつっ」
「これ?」
私も買おうとしたんだけど、
エース君がお金を出したので。
「あ、お金」
「いいって。これくらい出す」
「・・・・・ご馳走様」
彼はそんなに人気の人なんだろうか。
「ん」
「・・・ありがとう」
それから大好きだった先輩の話しをしたり、
友達の話しをしたり。
彼の弟の話しを聞いたり。
海を見ながらたくさんの話しをした。
トキメキこそなかったけど、長い時間ではなかったけど。
スッキリした気分。
・・・・とても、楽しかった。
2週間後、今度は自分で彼を指名してレンタルをした。
デートのメイン内容はラーメンを食べる。
「この間アイスしか食べられなかったから。エース君と食べてみたいと思って」
なんて言い訳をして。
・・・ただ、彼に会いたかっただけだと言えなかった。
エース君は、
「俺はアコにまた会えるだけで嬉しいから何でも大歓迎」
と笑ってくれたけど。
手も繋いでくれたけど、全部営業なんだなと思ったら少し寂しくなった。
彼氏、というだけあって一緒にいる間は距離も近いし頭を撫でてくれたり、
これがレンタルでなければ素敵な時間だったと思う。
エース君はちゃんと頂きますとご馳走様を言って、
醤油より味噌が美味い、とスープを飲ませてくれた。
・・・・・食べたラーメンは美味しかったし、
過ごした時間は短くても楽しかったけど。
エース君は帰りも私の最寄り駅まで送ってくれて(仕事内容にはない)。
こういうところが人気の秘訣なんだろうなあと思いながらモヤモヤした。
彼とは、彼氏でも友達でもない。
お金を払う時にそれを思い知るから。
「ときめき取り戻せた?レンタル彼氏ってハマっちゃうコ多いからキリのいいところでやめた方がいいよ」
友人のアドバイスに考える。
ときめいたりはしてない。
でも落ち着く。もっと側に居て欲しい。
彼が今日は別の誰かの彼氏になっているんだと思うとモヤモヤする。
・・・・もう、レンタルはやめようと決意した。
彼は夢の中の人。
もう、会えない。もう、会わない。
そう、思ってたのに。
『今、何してる?』
まさかのエース君から電話。
「ええええエースく、何してんの!?」
『電話』
「それはわかる!!いやでもお仕事上こういうのって駄目でしょ!?」
待ち合わせの為に最初に電話番号は教えておいた、けど。
『俺やめた』
「は!?」
『な、アコ。海行きてェ』
「海・・・?」
『待ってる』
短くそれだけ言って通話が途切れた。
海に走ったら、エース君が居た。
「何で居るの!?てか辞めたってどしたの!?何で私に・・・・っ」
私に、電話、くれたの?
「俺向いてなかったんだよな、あの仕事」
「そ、そう・・・・?」
「マナー悪い奴とかにすぐ口に出しちまうし。途中で怒って帰る奴とかも結構いる」
「そうなの!?」
「アコとのデートが1番楽しかった」
「あ・・・・有難う・・・・」
「落ち着くっつーか。金関係なく話したくなって、んで辞めた」
「私と・・・・同じ・・・・」
「・・・・なァ、友達から始めてくれませんか?」
「・・・・・・あ、ときめいた」
こちらこそよろしくお願い致します。
海の香りが鼻をくすぐった。