短編④
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「別れてくれアコ」
・・・・・それはあまりに突然だった。
「え、何で」
何の前触れもなく、1年付き合った恋人、エースからの別れの言葉。
私はと言えばショックだとか悲しいとかより、
まず先に浮かんだのは単純な疑問。
昨日の夜までは普通だった。
喧嘩はまあしたりするけど、仲直りもしてきた。
突然の心変わりにしては妙だし。
「俺・・・・お前が大切なんだ」
「・・・・有難う」
「好きだし、守りてェ」
「私も好き。・・・・それで何で別れなきゃいけないの?」
「守る為なんだ」
エースは真剣な顔。
カッコイイなあ・・・・・・じゃなくて。
「えーっと、どういうことかな」
「占いで俺達は結ばれねェんだ」
「占いで?」
「あァ・・・・俺達が結ばれちまったらお前に災いが降りかかるんだってよ・・・・」
・・・・なんともまあ、ここまで意気消沈したエースは初めて見たかもしれない。
いつも笑顔で、自信たっぷりなエースが。
ちょっと可愛いかもしれない。
とか言ってる場合じゃない。
エースは単純で優しいから。
占いでも真に受けちゃうんだよね・・・・。
「大丈夫だよエース。災いなんかに私負けないから。むしろエースが側に居てくれればそれで」
「ホントは誰より側に居て俺が守ってやりてェ」
「うんうん、守って?」
「でも目の前で傷つく姿を見たくねェんだよ・・・・・」
・・・・・これ重症だ。
「その占いっていつやったの?」
「さっき」
「・・・・さっき?」
「早めに着いちまって、その辺うろうろしてたら占いしてるやつが声かけてきてよ」
「うんうん」
「特別に無料で占ってくれるっつーから頼んだらそう言われた」
無料の占いってそれ怪し過ぎじゃないか。
「手相か何か・・・・?」
「いや、生年月日と名前」
・・・・それだけで運命がわかってたまるか。
「・・・・それでエースは私を離すの?」
「俺だって離れたくねェ・・・・」
「エースはまだ私のこと好きでいてくれて、私もエースのことが好きなのに別れなきゃいけないの・・・・?」
「でも災いが降りかかるかもしれないんだぜ?」
「大丈夫負けない。ていうか今までも何もなかったでしょ?」
「この間指怪我してただろ」
「単なる私のドジです」
「もっと酷い怪我になったらどうすんだ!?」
「なったとしても私のドジのせい。それだけ」
「・・・・俺、不安なんだ」
「何がそんなに不安なの?」
「アコを傷つけたくねェ」
・・・・優しいエース、本当に好き。
「私のこと好きだって言ってくれるならエースが守って、私のこと」
「俺・・・守れるか?」
「エースが私を守れなかったらもう誰も守れない」
「・・・・・信じて、くれんのか」
「信じてるに決まってる」
「さんきゅ。絶対守る」
「じゃあ別れるっていうのはナシね?」
「ああ、悪ィ」
俺臆病になってた、とエースが苦笑した。
「じゃ、ご飯行こっか」
ひと安心してエースと手を繋いで、
歩き出したその瞬間だった。
「・・・・・っぶね!!」
自転車がものすごいスピードで私の真横を通り過ぎて、
エースが私の身体を自分の方に引き寄せてくれた。
「無事かアコ!?怪我してねェか!?」
「大丈夫、びっくりしただけ」
「・・・・・やっぱり」
エースはそう言って下を向いた。
何か今日のエース妙にネガティブだなあ。
「やっぱりも何もないでしょ?ただマナーが悪い人が居ただけ」
「ホントに怪我、ねェんだな?」
「エースが咄嗟に引き寄せてくれたおかげでね」
ね?と無傷の証拠を見せればエースは少しだけ安堵した顔を見せてくれた。
「・・・良かった」
そして大袈裟に強く抱きしめられた。
「ありがとね、エース」
「・・・・俺達」
再びエースが不安になったようなので、
慌てて腕を組んだ。
「エースが居てくれて私は幸せ。この幸せは誰にも奪わせない。・・・・でしょ」
「・・・・おう」
良し、戻った。
「美味しいの食べて元気出そう?今日何処行こっか」
「あー・・・・・」
「・・・・今度はどしたの?」
「実はもう決めてあるっつーか」
「そうなの?何処?」
「・・・・うちの店」
・・・エースは確かにレストランでバイトしてるけど。
「もしかして経営不振、だったり・・・・?」
「そんなんじゃねェけど・・・・」
「・・・・けど?」
「・・・参ったな」
エースは困った時によくする癖で、
頬をぽりぽりと掻いた。
「・・・・・何?」
「食わせたいモンがあるんだ」
「そっか。楽しみにしてる」
・・・・・で。
エースはそわそわ。
結局食べさせたいというのは食後のケーキのことらしい。
「サッチ、あれ・・・・」
と難しい顔で料理人のサッチさんに注文していて。
サッチさんは、あいよ、と笑顔でそれに答えた。
それからすぐに出て来たのは可愛いチョコレートケーキ。
「わー可愛い」
「よ・・・・よく噛んで食えよ」
「子供じゃないんだから、何その注意」
今日は本当におかしなエースだ。
ケーキはふんわりとした生地に、甘さ控えめのチョコレートが最高。
と、その途端。
がりっとした食感。
・・・・噛めない。
「・・・エース、何かこれ」
口から出して驚いた。
「占いなんかに左右されたら駄目だよな・・・俺」
「・・・・エース?」
「情けねェよな、覚悟決めて来た筈だったのによ」
私の手の中の、ダイヤモンドのついたリング。
「どんなことからも絶対俺が守る。やっぱ離したくねェ」
「・・・・うん」
「だから俺と・・・・結婚して下さい」
さっきまでの不安そうなエースは何処へやら。
一瞬でカッコイイエースへ早変わり。
「・・・・はい、喜んで」
占いに一喜一憂されちゃうエースも。
絶対守ると宣言してくれるエースも。
大好きだから。