短編①
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3日前、私は学校の帰りに確かにそれを見た。
そして今に至る。
「お願いっエース!」
「・・・・・・・・・・・・・嫌だ」
「そこを何とか!」
と、エースを拝み倒してやって来た喫茶店。
喫茶バラティエ。
「・・・・・・・・・・・・何だこれ」
店先に飾ってあったポスターと、
中の様子を見て呆然と呟くエースに苦笑して。
「さ!エース行くよっ」
「ほんとに行くつもりかよアコ」
「勿論!その為にエースに来てもらったんだからね!」
行きたくなさそうなエースの手を繋いで、
いざ。
「っおいアコ!」
「ここまで来たら引き返せません。問答無用!」
「だからってここまでしなくていいだろ!」
中に入って、空いてる席に案内される。
エースはきょろきょろと居心地悪そうに周りを見渡して、
私は渡されたメニューを凝視。
「どれにしよっかなあー楽しみ」
「・・・・・・・・・アコの奢りだよな?」
苦々しく私を見てくるエースに、
「えーやだ」
あっさり返す。
「は!?」
「だってエースものすっごい食べるじゃん。パフェ1個なら奢るけど」
「・・・・んじゃそれでいい」
「オッケイ!ちなみにこの5種類の中から選んでね!」
「これが例のキャンペーンの奴か」
「そうそう」
周りも恐らくキャンペーン目当てで来てることがわかる。
何故か、というと。
カップルばかりだからだ。
「そもそも何だ、この・・・・恋は突然ラブハリケーンキャンペーンてのは」
冷ややかな笑みを浮かべたエースには、申し訳ないと思うけども。
「ここの店主さんが好きな人と両思いになれたとかで、そのお祝いに恋人同士で来るとこのパフェが半額になるの」
「俺たち別に恋人じゃねェだろ」
「そうだけど。でもここのパフェすっごく美味しいんだよ!?」
すっごく美味しいここのパフェは、お値段もそれなりだ。
「だからって何で俺なんだよ・・・・」
半額でここのパフェが食べれるっていうのに、恋人が居ないからって諦めるなんて嫌。
ということでエースに恋人役を頼んで来てもらった。
周りのお客さんたちはほとんど本物の恋人同士かもしれないけど。
「決めた!私抹茶パフェにするー。エースは?」
「・・・・・・・・・・聞けよ」
「ここはチョコもいいけどマンゴーも美味しいよ?」
「・・・・・・・・ストロベリーパフェ」
ぼそっと呟いたエースに頷いて、
店員さんを呼ぶ。
「このキャンペーンの、抹茶とストロベリーのパフェで」
「かしこまりました。それでは合言葉、お願いいたします」
「合言葉?って」
恐らくクエスチョンマークでいっぱいのエースに向かって、私はにっこりと笑う。
そして、
「エース、好きだよ」
「っ!?」
「ほらほら、エースも!」
そう。
このキャンペーンで必要なのは、
恋人と、もう1つある。
『合言葉』。
愛の言葉を言い合うことによって初めて注文が成立する。
んだけど、エースには言ってなかった。
だって言ったら絶対来てくれないと思ったから!
お願いエース!察して!!
そして言って!!
願いをこめてじ、っとエースを見つめる。
エースは驚いた顔から段々難しい顔になった。
そして少しの沈黙の後、
「・・・・・・・・・・・・・・俺も・・・・スキ、だ」
「はい、確かにご注文承りました。少々お待ち下さいませ」
ぎこちないエースの台詞だったけど、店員さんは確認してくれて、そのまま去っていった。
そのことにホッとしたのも束の間、
「おい。聞いてねェぞこんなの」
目の前のエースに睨み付けられた。
「・・・・・・・・・ごめん」
「先に言えよこういうことは」
「言ったらエース来てくれないと思って」
「ああ、来ねェな」
むすっと口を結んで、それから黙ったエース。
・・・・・・・・絶対怒ってるよね。
しばらく気まずい雰囲気が流れた後、
「お待たせ致しましたー抹茶パフェ、ストロベリーパフェで御座います」
「あ、どうも」
念願のパフェが登場。
「美味しそうっ!食べよ、エース」
「・・・・・・・・・・・・・ん」
キラキラに輝くパフェに手を伸ばす。
「・・・・・美味っっしい!!」
「美味ェな・・・確かに」
エースもパフェを口に入れて、笑みを零した。
「抹茶の安定感すごいよこれ!ほらエース、あーん」
エースの笑顔に安心した私は調子に乗って抹茶パフェをすくったスプーンを、エースの前に出した。
「んなっ!」
「あーん」
スプーンを下ろさない私に諦めたのか、エースはゆっくりと口を開けた。
そこには私は抹茶パフェを放り込む。
「ねね、どう?」
「・・・・・・・・・・・・美味ェ」
「エースのストロベリーパフェも気になる」
「・・・・・・・・やらねェぞ」
「そこを何とか。一口!」
人のものは良く見える、というもので。
「ん」
ず、と食べかけのストロベリーパフェを前に出してくれたエース、だけど。
「・・・・・食べさせてくれないの?」
「甘えんな!」
「弟君には甘いくせにー。いいじゃん恋人同士なんだから」
「店出たらすぐ別れる恋人だろ?」
「う」
それ言われちゃうと、なあ。
「そもそも何で俺を誘ったんだ?」
ここのキャンペーンのポスターを見た時、真っ先に思い出として浮かんだのがエースだった。
その理由は、
「エースには恋人が居ないし。・・・食べ物の好き嫌いないし」
「それだけか?」
「・・・・・・・・エースと一緒に食べたいなあって思ったから」
それと、もう1つ。
「あと1週間」
「へ?」
「このキャンペーンが終わるまでに、どうせあともう1回は行くつもりなんだろ?アコのことだから」
「う・・・・・・・・・・・はい」
「誰と行くつもりだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・えーす」
こっそりと呟くと、エースは大きなため息を吐いた。
「ごめんね、エース」
「次来る時はほんとの恋人」
「・・・・・・ん?」
「偽者じゃなくて、ほんとの恋人になるってんなら、合言葉だってもっとすごいこと言ってやるし」
「え、え、え?」
「パフェも奢ってやるし、食べさせてやるよ」
「俺はアコじゃなかったらこんなとこ来なかったぜ?」
「・・・・・・・・・・何で?」
「まだ言うか。・・・・アコのことが好きだからに決まってんだろ」
エースの真っ直ぐな視線に射抜かれて。
「・・・・・・・・・・私も。好きだから誘ったんですけど」
しっかりとそう伝えればエースは、
満面の笑みを見せた。
エースを誘ったもう1つの理由。
ほんの数十分だけでも。
パフェを食べてる間だけでもエースと『恋人』になりたかったから。
「他の奴と来たりすんなよ?」
「うん。しない」
そして目の前に突き出されたストロベリーパフェ入ったスプーン。
「何なら全部食わせてやるけど?」
ニヤ、と不適に笑うエースに心臓がどくどくしてる。
「太るよ!」
「太ったら俺と一緒に運動」
「・・・・・そこは太っても好きだよくらい言ってほしかった」
「いらねェなら全部食っちまうぜ」
「あ!やだ、一口ちょうだい!」
「・・・・・・・・・・・・・ほれ」
口に入ってきた絶妙な甘さに顔が綻ぶ。
でも幸せなのはそれだけじゃなくて。
ずっと好きだったエースと、
ずっと食べたかったパフェが食べられて。
ずっと好きだったエースと、
両思いになれたから。
いや、ほんと。
『恋は突然』
ラブハリケーン、です。