短編④
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「・・・・・・こんにちは、お疲れ様です」
「こんばんは、だねい」
「・・・・・・・・ですね」
ああ、また来てしまった私。
馬鹿じゃないだろうか。
自分でも思う。
「来てくれて嬉しいよい」
「・・・・・いえ」
・・・・・・・何だこの受け答え。
阿呆か。
・・・・・小さなホストクラブ。
ぼったくり、ではないけど。
ものすごく安い訳じゃない。
普通よりは安いくらいだろうか。
先輩に無理やり連れて来られたホストクラブ。
ナンバー1だというマルコさんと会って高くない理由がわかった気がした、と言ったら失礼だろうか。
・・・・それ程に最初はどうでも良かった。
パイナップル頭のおじさま。
そんな印象の彼が私について、
先輩にはお気に入りだというフランスパン頭の人がついた。
・・・・・パイナップルの、マルコさんは。
全然ホストらしくなく。
時に親のように私の生活を心配してくれ、時に友達のように愚痴を聞いてくれて、
時に・・・・恋人のように甘やかしてくれた。
・・・・・・帰る時間になる頃には、
私はすっかり彼に惹かれていた。
そこまでの高額じゃないとはいえ、お金はお金。
・・・・忘れようと思うのに忘れられなくて。
あれから月に1回、多い時で3回程お店に来てしまっている。
マルコさんはずるい。
行けば必ず、
『来てくれて嬉しいよい』
って笑ってくれるし、
帰る時は必ず、
『また来てくれるかい・・・・?』
と寂しそうな顔で聞いてくる。
わかってる、営業だって。
すべてはお金の為。
私は客。
だから愛想良くされてるだけ。
顔を覚えてくれたのも、
優しい笑みも。
・・・・・お金を払わない私に意味はない。
わかってるのに、来ちゃうんだよねえ・・・・・。
「仕事はどうだい?」
「んー・・・・・ぼちぼちですかねえ」
「ぼちぼちならいいんじゃねェかい?」
「・・・そうですね。最悪、辛い、って程じゃないのは有難いです」
「前向きだねい」
「はい、マルコさんのおかげで」
とここで、マルコさんが別の席に呼ばれてはずれた。
代わりに来てくれたのはフランスパンことサッチさん。
彼はもうほんとに、ホストそのものだ。
「アコちゃん今日も可愛いねェ」
「あはは、恐縮です」
「んでもってちょー真面目な。もっと親しくなろ?」
「・・・それは、無理ですね」
「・・・・ガーン」
だって友達じゃないし。
「最低限の礼儀は尽くすべきかと」
「・・・・こりゃマルコが喜ぶ訳だわ」
「え?」
不意にマルコさんの名前が出て来て驚いた。
「あいつもすっごい真面目だからさ」
「・・・・そうですね、素敵な人だと思います」
「そんなこと言うのアコちゃんくらいだよ」
「そうですか?」
「だって俺達ホストだぜ?」
サッチさんが大袈裟に驚いた様子で言うけど、
「真面目なホストがいてもいいと思います」
「かーっ優しいね!!俺にも優しくして!」
優しくして、と言われても。
困惑する私の前に、
「フランスパンを甘やかすこたァねェよい」
マルコさんが現れた。
「あ、おかえりなさい」
「悪いねい、アコ。不快な思いをさせちまった」
「ちょっとどゆことマルコひどくねえ!?」
「楽しかったですよ、とても。でもマルコさんお忙しそうですし今日はこの辺で失礼しますね」
「えーアコちゃん行っちゃうの?引き留めろ!マルコ!」
「そこまで送ってくよい」
「・・・はい、有難う御座います」
「気を付けて帰れよい」
「マルコさんも、お帰り遅いでしょうからお気をつけて」
ぺこりと頭を下げればマルコさんが顔をくしゃりとさせて笑った。
・・・・この笑顔を、可愛いとすら思ってしまう私は重症だろうか。
恋、なのかなあ。言ってしまえば。
恋なのかもしれない。
99,9パーセント叶わない恋。
・・・・下手したら100パーセントだ。
まんまと罠にかかってしまった、愚かな私。
せめてマルコさんにはバレないようにしたい。
・・・・これは恋じゃない、大丈夫。
自分にそう言い聞かせて、私はまた彼に会いに行く。
いいお客さんである為に。
「さすがにお金がなくなりました」
「だろうねい」
・・・・・いいお客さんになろうと誓ったばかりでこれだよ。
マルコさんも苦笑してる。
「なので今日を境にしばらく来れそうもないので、またお会いできる日までお元気でお過ごしください」
「わざわざそれを言いに来てくれたのかい?」
「一応ご報告を、と思いまして」
「言っただろい?あんま金使うなって」
「ホストがそれを言うのもどうかと思いますが。・・・プレゼントもたいしたの送ってないですし」
皆がブランドものを度々送っているのは知ってる。
私が送って来たのは・・・たまに、の頻度で湿布とか。
入浴剤とか。何かこう、消費出来るものをと。
貢ぎたかった訳じゃなかったから。ただ役に立ちたかった。
「元気そうな顔が見れりゃそれでいい」
・・・・・・・この人ほんとにホスト?
「・・・お金に余裕が出来たらまた来ますね」
さよなら。
それから耐えに耐えて2か月。
仕事帰りに嫌なものを見てしまった。
・・・・同伴、というやつだ。
マルコさんと若い女の子の。
私は同伴もいわゆるアフターというのもしたことはない。
・・・・中途半端な客だったな私。
「・・・・・あれ」
何か女の子怒ってる?
あ・・・・あ、あああ・・・・・!!
「・・・・帰っちゃった」
マルコさん何してんの。
マルコさんはこっちを見た。
「情けないところを見られちまったねい」
「・・・怒ってましたね、お客さん」
「いいんだい、あれは」
「これから、ですか?頑張って下さいね」
「アコが来ないと寂しいよい」
・・・・そういうこと誰にでも言うから怒られるんですよって言いたいけどそれが彼の仕事だもの。
「私は・・・お金がないので、すみません」
「金・・・・かい」
「お金のないお客さんに用はないですもんね」
って私何言ってるんだ。当たり前のことを。
「客なら金は必要だい」
「・・・・存じております」
「だが客じゃねェなら金はいらねェよい」
「・・・・・はあ」
「もう店に来てくれとは言わねェ」
「ってあの子にも言ったんですか!?」
そりゃ怒る訳だ。
と驚いていたら、マルコさんが盛大に笑いだした。
「はははっ、ったく・・・・逆だよい」
「・・・・逆?」
「店以外でも会いたいと言われて断ったんだい」
「・・・・・え、と?」
「心配で仕方ねェ・・・・アコ」
好きだ、と告げた彼はくしゃりとした笑顔。
・・・・・・・お店、行かなくても会えるようになるなんて。
真面目な彼と、
真面目な私の。
1パーセントの恋。