短編④
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「起きてるか?アコ」
今日は波も穏やかで、
宴もなく静かな夜だった。
そろそろ寝ようかと身支度を済ませていた時、部屋の外から声をかけられた。
「はい、起きてます」
ドアを開けると声の主は柔らかい笑みを浮かべて立っていた。
赤い髪が闇に溶けていて。
「一緒に、どうだ?」
何処か艶を含んだ声が私を誘う。
「・・・もう寝ようかと」
思ってたところだったんですが。
少し迷ってそう答えれば、
「今日は月が綺麗なんだ」
と笑った。
「ああ、満月でしたね」
「こんな日は格別に酒が美味い」
まったくうちの船長はお酒に弱い。
「確かに、美味しいでしょうね」
「隣にお前が居てくれると有難いんだ」
な?
と私を見つめる瞳に熱が見えた。
もしかしてもう既に酔ってる?
「一杯でいい、付き合っちゃくれねェか。アコ」
「・・・一杯だけなら」
お頭と2人、月見酒なんていうのも悪くない。
いつも皆とわいわいお酒を飲むのも楽しいけど、ね。
「わあ、本当に綺麗」
甲板に出れば見上げた夜空にぽっかり浮かぶ満月。
天気もいいから本当に綺麗に見える。
「な?綺麗だろ」
「ええ、本当に。・・・じゃあ綺麗な月に乾杯」
「乾杯」
月を見ながら2人、静かにお酒を交わした。
すーっと喉を通る液体の美味しさに思わず笑みが零れた。
「・・・美味しい」
「ああ、やっぱり美味いな」
さっきと違う、
月明りに照らされたお頭の赤い髪が。
キラキラしてて綺麗。
美味しそうに目を細めてお酒を愉しむ横顔が。
・・・・綺麗。
「ほれ、もう1杯」
「・・・頂きます」
1杯だけって言ったのに。
なんて文句はその横顔にのまれた。
月を口実に酒に誘ったはいいが、
まさか本当に付き合ってもらえるとは思ってなかった。
夜も遅い。
寝ていてもおかしくはない時間だ。
・・・ましてや俺と2人で、の酒に。
1杯だけなら、と受け入れてくれたアコは2杯目も口につけた。
月が綺麗だ。
・・・だがそれ以上に、アコが輝いて見える。
なんて言おうもんなら酔ってますね、と言われるだけだろうが。
月明りに照らされた白い肌。
風に靡くサラサラの髪。
・・・美味い酒。
ああ、いい夜だ。
「お頭も」
アコが注いでくれた酒の格別に美味いこと。
「美味ェ・・・」
「たまにはいいですね、こんなのも」
「あァ、まったくいい夜だ。アコのおかげだよ」
「あら、月のおかげでしょう?」
「月を肴に1人月見酒も悪くはないが、
とびきりの美女が居ると居ないじゃ酒の味も変わって来るさ」
「・・・私で良ければまた付き合いますよ」
「本当か?そいつぁいいことを聞いた」
「たまに、お1人で?」
「そうだな・・・寝れない夜はこうして1人で飲んだりする」
1人で惚れた女を思いながら飲む酒ってのもたまには悪くねェ。
・・・だが、惚れた女は隣に居るのが1番だな。
「たまには・・・誰かのぬくもりが欲しい時、あります。私も」
「そんな時はいつでも呼んでくれ。必ず行く」
本当はいつでも側に置きたい、と。
・・・本音は隠して酒で飲み込んだ。
「有難う御座います。・・・私は、そろそろ」
そろそろ、と立ち上がったアコのグラスに新たに酒を注いだ。
「ちょっ、お頭・・・」
「まあまあ、まだいいだろう?せっかくの夜だ」
「もう・・・」
まだこの時間を終わらせたくはねェんだ。
悪いがもう少し俺の我が儘に付き合ってくれ。
は、と気づけば妙に頭が痛くて。
何気なく横を見ればお頭の顔。
え、何で?
落ち着いて昨日のことを思い出す。
確か寝ようと思ってたらお頭に呼ばれて。
甲板で月見酒して。
たくさん飲まされて。
・・・・・寝ちゃった私をお頭が自分の部屋に連れて来た!?
まだ寝てるお頭。
慌ててベッドから抜け出し、髪を手櫛で整える。
顔おかしくないよね・・・?
涎とかついてないよね!?
なんてしてたら後ろから笑い声が聞こえて来た。
「アコは寝起きも可愛いな」
「お、お頭・・・っ起きて、」
いつから見られてたの、と顔が熱くなった瞬間、
身体が強く引っ張られた。
「そういうの、俺の前だけでやってくれ。他の奴には見せんなよ」
ベッドに連れ戻されて見えたのは、
酷く幸せそうなお頭の顔。
そして、
「ぬくもり、欲しくないか?」
・・・・優しく髪を撫でられたら。
「・・・・はい」
って言うしか、ないよね。
ああ、今日も波は穏やか。
いい天気。
いい日になりそう。