短編④
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もうすぐ雨が降りそうだ、と航海士さん達が言っていたのが聞こえた。
甲板に出てみると空は青い。
・・・・・でも何が起こるかわからないのが、
一寸先は闇なのがこの世界。
「あ」
「どうしたアコ?」
思わず声に出ていたのを聞かれてしまったらしい。
お頭が不思議そうな声を出した。
「あ・・・・・いえ、雨が降るんだなあって」
「いー天気ではあるんだけどな」
「でも雨の匂いがしました」
「そうか?」
「それで今声出ちゃって」
「ああ、なるほどな。確かに・・・・悪くねェ」
「降るんですねーもうすぐ」
「だろうなァ」
「お頭、中入っておかないと」
「そうだな」
・・・・そうだな、と言いながら。
お頭は私を見つめてにこにこ笑みを浮かべているだけで。
動こうとしない。
えーと。
・・・・何だろうこれ。
どうしたらいいの?
「ギリギリまでいるおつもりですか?それとも何か御用が?」
「いや?」
「・・・・濡れたいんですか?」
「雨のシャワーを浴びるのも悪くない」
「雨はシャワーじゃありません。風邪引きますよ?」
「それくらいで風邪ひくようなヤワな身体じゃねェつもりだが」
「・・・・・引いても看病してあげませんよ」
ホントに雨に濡れるつもりなのかなお頭。
「ははっ、冷たいな」
「雨はもっと冷たいですよ、どうしたんですかホントに」
「・・・・心配してくれてるのか?」
私をからかうように笑うお頭はいつもの通り。
・・・・なんだけど。
何処か違和感を感じて心配になる。
「副船長に頭冷やして来い、って言われたとか?」
「自主的にさ」
「自主的に?何でまた」
「男には色々あるってことだ」
「女にだって色々ありますよ」
「だっはっは、そりゃそうだ!悪かった」
ふと上を見上げたら黒い雲がかかってきたのが見えた。
「お頭、雲が」
「ああ、もうすぐ降るなぁ」
「もう、お頭」
片腕をぎゅっと掴んだらお頭が嬉しそうに笑った。
「・・・・お頭?」
「たまには我が儘言ってみるもんだな」
「・・・・・・・・・・いつも我が儘じゃないですか、お頭は」
私が触れたのが嬉しいらしい。
「そうか?これでも立派に船長やってると思うぞ」
「立派に我が儘な船長だと思ってますよ」
「そりゃ嬉しいな」
私の皮肉にお頭がくったくなく笑った時、
ぽつり。
ぽつ、ぽつ。
雨が降り始めた。
「お頭、今日だけは特別に許します」
「ん?」
あまりにもお頭がここを動かないから。
仕方ない。
「昼酒。たまには一緒に飲みます?」
「今日は特別にいい日になりそうだ」
ようやくお頭が動いてくれて、
仕方なく腕を組んだまま食堂へ。
「それで、自主的に頭を冷やそうとした理由は何ですか?」
「雨の日は古傷が疼くんだ」
「・・・・なら気にならないように新しい傷でもつけてみます?」
「ベッドの上でなら大歓迎だが」
「遠慮しておきます」
お頭は目の前のお酒をぐびりと美味しそうに飲んで、
「航海士たちの話しだと、夕方にはやむそうだ」
「・・・・・そうですか」
「虹が見えるといいな」
・・・・何か話しを誤魔化されてる気がする。
本当なら、
話したくないならそれでいい、って終わるところ。
でも何だか今日は、
雨の匂いと。
お酒で。
酔わされた。
誤魔化されてなんかあげない。
「それで、古傷が疼くのにあえて雨に濡れようと?」
「・・・・今日はなかなか厳しいな」
「すみませんねえ」
苦笑したお頭は、一瞬の沈黙の後、
ゆっくりと口を開いた。
「仲間を疑った」
「え・・・・」
「一瞬な。・・・一瞬でも仲間を疑った自分が嫌になった」
仲間を疑うって、それは。
・・・・スパイ、ってことで。
・・・・それは辛いかも。
「・・・それは、疑わざるを得ないようなことがあった、んですか?」
「何度かはあった」
「・・・・・誰か聞いても?」
「新人の奴だ」
新人君、といえば若くて気のいい男の子だ。
私にも懐いてくれてる。
「え、めっちゃいい子ですよ」
「・・・そうだな」
お頭は今度は寂しそうに微笑む。
「ちなみに・・・・何の疑いですか?」
「俺のものを奪おうとした疑いだ」
「・・・・お酒?」
「いや」
「宝石?」
「違うな」
「・・・じゃあ何を?」
「お前だ、アコ」
とお頭が指さしたのは私。
「・・・・・は、い?」
「今度会ったら言っておく。誰にも渡すつもりはねェと」
「あ・・・・・・・・・心配した私が阿呆でした」
雨はもうすぐやんで、
きっと2人で虹を見る。
今日も船は平和でありました。
とある雨の、1日。