短編③
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蝉の声が聞こえる。
私はたくさんの向日葵に囲まれてる。
向日葵ってこんなに大きかったかな。
突然大きな不安に襲われた。
何が不安なのか自分でもわからないけど、
とにかく怖い。苦しい。・・・悔しい。
本能のままに声を出して泣いていたら、
目の前に赤い髪。
『アコ』
『シャンクス』
私を慰めてくれる大きな手。
優しい笑顔。
そしてシャンクスが口を開く。
と、ここで。
「は」
目が覚めた。
・・・・またかあ。
もう何度目だろう。
小さい頃の夢。
・・・・5つ上の幼馴染のシャンクスとは、最近会ってない。
大学生にもなってまだこの夢を見るなんて。
何かの呪いかな。
なんて。
昔は仲が良かった。
今も悪い訳じゃないけど。
・・・・私が勝手に、避けてるだけ。
部屋の隅に追いやった雑誌に載っている写真に目をやる。
『急成長!若き社長のプライベート』
ふん。
私の知らない人になってしまった幼馴染。
いつからだったかな。
シャンクスが高校生になったあたりから、
だと思うけど。
成長期、と言うものなんだろう。
急に逞しくなったように感じた私はシャンクスを避けるようになった。
私が思春期に入ったこともあるんだろうけど。
そうこうしてるうちにシャンクスは大学生になり、何とそこで起業したシャンクスはあっという間に有名人。
一時はテレビをつければシャンクスが居て、
本屋に行けばシャンクスの顔が見えた。
・・・そんなシャンクスに最後に会ったのはいつだっけ。
3ヵ月以上前だったかな。
「腕のいい社員を引き抜いたんだが、これがまたなかなかの曲者でな」
とか、
「秘書が取材はもうやめとけって口すっぱく言うんだ、アコはどう思う?」
とか。
口を開けば会社のことばかり。
私の知らないシャンクスに、私は不満を隠さなかった。
知らない、聞きたくないを繰り返して。
シャンクスはその度に困ったような顔、
悲しそうな顔をした。
だから私もそれ以降一方的にシャンクスを避けている。
・・・・思えば、それからかもしれない。
あの夢を見るようになったのは。
あの夢は過去だ。
私の思い出したくない過去。
辛い、苦しい過去。
・・・・・それでも、何故だろう。
嫌なだけじゃない気がする。
今年もそろそろ向日葵の咲く頃。
私は・・・あの向日葵畑で何で泣いてたんだっけ。
迷子?
違う。
イジメられた・・・・?ような気がする。
それをシャンクスが慰めてくれたんだっけ?
・・・・考えても、思い出せないわ。
ぽろぽろ零れ落ちる涙は止まらない。
そんな私を優しく慰めてくれるシャンクス。
ああ、またこの夢だ。
この頃のシャンクスはとても優しくて。
私のことをわかってくれてた。
わかって・・・・くれようとしていた。
側に居て、守ってくれてた。
「しゃんくす・・・っ」
名前を呼んだところで目が覚めた。
ああ、もう。
この後シャンクスが私に何か言うのに。
いつも私はここで目が覚める。
もういいか。
シャンクスのことは忘れよう。
私も大学あるし。
就活もしないとだし。
と思ったところで。
『本日のゲストはなんと!大学在学中に起業し今もなお成長途中の会社の社長、シャンクスさんです!』
テレビをつければ出るわ出る。
おまけに、
『就活?そんなの必要ないじゃない、あんたシャンクスさんとこの会社で働けばいいじゃん』
と友人まで。
・・・・私を育ててくれた義父と義母には迷惑かけたくないし。
出来れば家を出たいから。
とは言えそう簡単に上手くいくものではなくて。
「・・・・またお祈りメール」
もうやだ、とため息を吐いた時スマホが着信を知らせた。
画面に表示された名前を見て出るのを一瞬ためらったけど、
「・・・もしもし」
仕方なく出た。
『元気そうだな、アコ』
「別に」
『今家に居るか?』
「いるけど」
『あの向日葵畑、覚えてるか?』
ドキッとした。
「・・・覚えてる、けど」
『あそこで会いたい』
「って今から!?」
『ああ。待ってる』
また勝手な。
シャンクスはいつだってそう。
仕方なく準備をして向かう。
向日葵には太陽が似合う。
でも夕日に照らされる向日葵も悪くないかもしれない、と久しぶりの向日葵畑を見て思った。
人もまばらな夕方の向日葵畑。
そこに似合わないスーツ姿のシャンクスが立っていた。
「アコ、こっちだ」
「あ・・・」
久しぶりのシャンクス。
どうしよう、何話していいか全然わからない。
だって私ずっと避けてたし。
「アコ」
「な・・・・なに」
「覚えてるか?昔ここで俺がアコに話したことを」
「え・・・」
必死に記憶を探るけど思い出せない。
ここで泣いたことは思い出せるのに。
思い出せない、と首を横に振ればシャンクスが苦笑した。
「本当の親じゃないくせに、だったか?」
ずき、と胸が痛んだ。
嫌な痛み。
思い出したくない過去。
ああそうだ、早くに両親を亡くした私は親戚中をたらいまわしにされた挙句、
養護施設に入れられた。
うちだってまだ小さい子がいるのよ、
うちにはそんなお金ないわよ、と嫌な顔をされていたのを思い出す。
そうして結局施設から今の育ての両親のもとへ行って。
・・・・隣に住んでたのがシャンクスだった。
今の親はいい人で、
本当の子のように育ててくれた。
それでも何処からか漏れたのか、学校でいじめられることがよくあった。
本当の親じゃねえんだろ。
血の繋がりがないんだから本当は愛されてないんだよ、可哀想に。
そんなこと言われた。
悔しくて辛くて、私はよくここで泣いてた。
「泣いてるアコを抱きしめて俺は誓った」
それはまるで夢の続きのように。
「俺は、ずっとアコを見てる。アコのことは一生、俺が守る」
必ず幸せにするから、俺が大きくなるまで待っていて欲しい。
ああ、思い出した。
シャンクスが守ると約束してくれたから。
泣くことは少なくなった。
「ずっと好きだったんだ。結婚を前提に付き合ってくれないか?」
真面目な顔で私を見つめたシャンクスは目の前に向日葵の花束を突き出した。
シャンクスは約束をずっと覚えてくれてたんだ。
零れ落ちた涙をそのままに私は頷いた。
「よろしくお願いします・・・・!」
「最近妙に避けられていたから実は自信はなかったんだ・・・嬉しいよ、アコ」
「それはシャンクスが起業して・・・何で在学中に起業なんてしたの?」
「出来ると思ったからだ」
「わお」
シャンクスらしい言葉に感嘆していると、
「早いうちにアコを俺のものにしちまいたかった、でないと約束も忘れられるだろう?」
「う・・・」
忘れてました。
「アコを幸せにする男は俺でありたいんだ」
「私幸せになってもいいのかな・・・」
「悪いがこればっかりは譲る気はない。邪魔をするなら誰だろうと容赦はしねェ」
「じゃあ私も約束」
今度こそ忘れない約束。
ずっとシャンクスの側に居て、
シャンクスと幸せになります。
だからきっとこれからは、
もう泣いてる夢は見ることはないだろう。