短編③
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「に、じが・・・き、れ、いだ・・・よっと」
虹が綺麗だよ。
そう本文に打ち込んで写真を添付して、送信した。
・・・・空は繋がってる、なんて言葉があるけど。
きっとこの虹は、彼のいるところからは見ることは出来ないだろうな。
幼馴染で、高校の時に告白されて付き合い始めたエース。
・・・・エースは、都会の大学を選んだ。
確かに私が今居るところはエースにはつまらないんだろうけど。
『浮気されてるんじゃないの?』
なんて友達に揶揄われたりもするけど、
されても仕方ないと思う。
・・・一緒に行かなかった私が悪いんだから。
エースに誘われなかった訳じゃない。
一緒に行こうぜ、と。
私の頭なら一緒の大学にだって行けたし。
・・・・それでも。
私がここに残ったのは、ここ地元が好きだから。
だから残るとエースに伝えたら、
エースもそれでいいって言ってくれた。
そして、
『俺もここに戻って来るつもりだから』
と。
・・・・そう言ってくれたから。
たまに戻ってくるし、心配すんなよ。
って。
その言葉を信じて都会に送り出した。
ピロンという音に反応して携帯を確認。
エースからの返信。
今日は早いな。
【キレーだな】
短いけどエースらしい言葉。
それから続いて、
【こっちは雨だ】
・・・・・そっか、雨なんだ。
こっちはもう晴れてるのに。
今何してる?って返したら、
【飯食ってる】
【ちゃんと食べてる?】
【肉】
【野菜も食べなさい】
【昨日実家から送られてきた。野菜】
・・・・その荷物と一緒に私も会いに行きたい。
【自炊してる?】
【まァ、たまに】
・・・ほんとかな。
【そっちは変わりねェ?】
【うん。相変わらず】
会いたい。
顔が見たい。
そう、伝えられたらいいのに。
・・・・伝えたところでエース困らせるだけだってわかってるから。
言えない。
エースが居なくなって3ヵ月が過ぎた。
長い長い、3ヵ月。
私1年なんて待てない気がする。
次いつ帰って来るの?
・・・・・・・エースは私が居なくて寂しくない?
私は、寂しいよ。
はあ、とため息を吐いたけど全然楽にはならない。
それからすぐに、
『ため息吐くと幸せが逃げるって知ってるか?』
ってエースが前に言ってたことを思い出す。
その時は隣にエースが居てくれて、
そんなこと信じてもいなかったから、
『逃がさないから大丈夫』
なんて私も笑ったけど。
今は笑えないなぁ。
・・・ため息、癖みたいになってた。
昔から。
だから幸せが逃げちゃったのかなんて考え始めた。
逃がさない。
そう言いながら、逃げられた。
・・・・あれ、返事が遅い。
寝た、のかな。
・・・・・寝たのかもしれない。
エースって食べてる途中に寝る癖があるから。
・・・・あの寝顔も、
起きた後に顔についてしまった食べ物を拭いてあげることももう出来ない。
・・・・今エースが、本当に寝てるのかも。
わからない。
ふと窓から見上げた空には、もう虹は見えない。
ぼーっと外を見てたら、手に持ってた携帯が震えた。
【寝てた】
・・・・はいはい。
会いたい、と。
私も言わないけど。
エースからも会いたいと言われたことはない。
・・・・・・不安、というか。
・・・・・・・・・・・・苦しいなぁ。
週に何回か似たようなメールを繰り返して。
時間は過ぎていく。
たまに電話もしたりするけど、
元気そうで。
・・・・声を聞くと余計に会いたくなる。
「酔ってる?」
『あー昨日大学のサークル飲みがあってよ』
「・・・二日酔いですか。都会っ子は怖いねえ」
『ねみィ』
「・・・じゃあ切るよ」
『待て待て。別に切るとは言ってねェだろ!?』
「眠いんでしょ?」
『・・・アコ冷てェ』
「むしろ優しいと言って頂きたい」
『・・・・なァ』
「んー?」
『好きだアコ』
「・・・・っ、な、なに急に」
突然の好きだ、にドキッとした。
『なんつーか、言いたくなった』
・・・好きなら会いに来なさいよ。
「・・・・私も、好き」
『へへっ』
・・・・・・会いに、行きたい。
そんな電話をして次の日。
小さいスーパーでお買い物。
お客さんもレジの人もほぼ皆知り合い。
牛肉とー白滝と。
あとは・・・・うん、こんなもんかな。
「あら今日の夕飯なあに?」
「すき焼きにしようかとー」
「いいわねえ、うちもそうしようかしら」
「あ、じゃあ白菜持って行きます」
「悪いわねえ」
今日は白菜が獲れる予定なので。
きゅうりも獲れそうだから漬物にしよう。
サラダにも出来るなぁ。
なんて考えながらレジに向かってたら、
「今日飯何?」
「白菜が獲れそうだからすき焼きに・・・・」
思わず自然に返して、
顔を見て身体が固まった。
「美味そうだな」
「・・・・・・・・・え?」
「俺も食っていい?」
「何で居るの?・・・・エース」
都会に居るはずの、エースの姿。
「・・・迷惑だったかよ?」
驚いた私にエースは少し不機嫌そう。
「や、迷惑っていうか・・・・びっくり・・・・っていうか・・・」
「・・・・っていうか、何だよ」
「いつ来たの?」
「昼過ぎ」
今、夕方。じゃん。
「・・・・・っばか!!言ってくれたら迎えに行ったのにもっと早く会えたのにー!!!」
ここが何処かなんてすっかり忘れてエースに飛びついた。
「・・・・ははっ、悪ィ」
「馬鹿」
「・・・会いたかった?」
「・・・・・・会いたいに決まってるじゃん」
「俺も」
「の割には会いたいとか言わないよね、電話でもメールでも」
「そりゃアコもだろ?」
「・・・・・応援するって決めて見送ったのに言えないよ」
「俺だって自分から出て行った手前言えねェよ」
「・・・・言ってよ。でないと気持ちわかんない。でなくても、離れてるのに」
「・・・・だな」
「・・・・私も、言うから」
「あァ、悪かった。・・・これでもずっと不安だったんだぜ?」
「浮気とか?」
「・・・・とか」
「こんな田舎で皆私とエースのこと知ってるのに?」
「・・・・それでも心配なんだよ」
「それを言うならこっちの方が心配だよ。エースは都会で、カッコいいし優しいしモテるだろうし」
「あー・・・・じゃあ今日は今まで心配させた分愛してやるよ」
「偉そうに」
「俺も心配したこと、忘れたとは言わせねェぜ?」
「勿論、私も理解させて差し上げます」
私の愛を。
顔見知りのおばさまがたに微笑ましく見守られてることに気づくのは数分後。
不安だけど、
時々幸せを噛みしめる。
遠距離恋愛の極意。