短編③
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「別れて欲しいんだよい」
唐突な台詞だった。
6年付き合った末の恋人、マルコから。
「いいけど。いくらで?」
「・・・・いくら欲しいんだい?」
「家と家具が買えて一生暮らせるくらい」
「・・・欲張りすぎだろい」
「じゃなきゃ別れには納得しません。別れて欲しいならそれくらいのお金用意して」
お洒落なカフェで、
たいして深刻そうでもない2人が。
割と深刻な別れ話。
・・・・確かに最近デートやらなにやら、マンネリ化してはいるなぁとは思ってたけど。
まさかマルコがそんなことを考えていたとは思わなかった。
「家具くらいにまけろい」
「ビタ一文まけませんぜ旦那」
「・・・・アコ」
少し怒ったようなマルコの顔。
今まで喧嘩した時何回も見て来た。
・・・この顔もこれが最後なのかしら、と頭の隅で他人事のように思った。
「そりゃあまあ私より可愛い子はたっくさんいるだろうけど」
「そんなんじゃねェ」
心変わりじゃない。
とすると。
「・・・まあ6年も一緒に居ればねえ」
私に飽きたか。
「・・・・そういうんでもねェんだよい」
「じゃあ何よ」
「・・・・詮索する女は好きじゃねェよい」
「何を今更。で、どうなの」
諦めない私をどう思ったのか、マルコが立ち上がった。
1万円札1枚を置いて、
「釣りはとっとけよい」
とか言って出て行こうとするので、
私はその1万円を持ってさっさと会計を済ませた。
で、
「はいお釣り」
「・・・・いらねェって言ってんだろい」
「私への手切れ金にしては安すぎ」
「アコいい加減にしろよい」
ぎろりと睨まれた。
「何年付き合ったと思う?」
「・・・悪いとは思ってるよい」
「じゃなくて。6年だよ?」
「ああ、そうだったねい」
「それが何の前兆もなく別れろって言われてもね」
「・・・・言いてェことはわかる。謝罪もいくらでもする、頼むから黙って別れてくれねェかい」
この言葉の重みがわからない程短い付き合いじゃなかったって何度言ったらわかるんだろうこの人。
・・・と言いたいところだけど、
それでも言えない程の何かがあるんだろうということも同時に理解出来た。
ここは黙って別れてあげた方が彼の為なのかもしれない。
「1回別れたら次はないよ?」
「・・・・わかってるよい」
「それでも別れる?」
「・・・・・・よい」
・・・・・・これはよっぽどだ。
ここまできたら大人しく頷いて別れてあげるのがマルコの為なのかもしれない。
・・・・・でも、
「明らかに困難に立ち向かってるであろうことがわかってて、はい別れます。って訳にはいかないかな」
「・・・明らかに巻き込むことをわかっててこのまま付き合ってくれと言う訳にもいかねェんだよい」
粘ったおかげでマルコの本音がようやく聞けた。
「ということは会社関連と見た」
「・・・・これ以上は隠し通せなさそうだよい」
「ん。いい判断だね」
マルコは空を仰いではーっと深く息を吐いた。
それから、
「わっ」
私を勢い良く抱きしめた。
「・・・・・悪かった、アコ」
「・・・・・馬鹿だね、マルコは。嫌いになった、飽きたって言えば良かったのに」
そしたら私だって納得したかもしれないのに。
「言える訳ねェだろい?こちとら指輪まで準備してたんだよい」
「指輪?何の?」
「・・・・俺と結婚してくれ、以外にあるかい?」
「・・・・・・・・・・わお」
「そんな女に飽きたなんざ言えねェよい」
「でも別れてくれは言えるのね」
「・・・・・それは」
「聞かせて、話し。・・・・私も、結婚するならマルコとがいい」
普段こんな人通りのある場所で絶対抱きしめたりしないマルコが私を抱きしめて、
更に
「アコ」
・・・キスまで、した。
「・・・・マルコ?」
「歩きながら話すよい」
「・・・うん」
・・・・これは相当のことなんだろうな。
覚悟を決めた。
「今オヤジの会社が危ないんだよい」
オヤジの会社、とは言ってるけどマルコと血の繋がりはない上に、マルコもその会社でそこそこの地位を築いてるはずだ。
「うん、それで?」
「で、そこに俺に見合いの話しが来た」
「・・・・資金援助を条件に、ってやつ?」
「話しが早くて助かるよい」
「・・・・・それってお父様」
「オヤジを通してねェ、内密の件だ」
「・・・・私が別れを承知した後お父様に告げ口してたらどうしたの?」
「勿論口止めはする予定だったよい」
「・・・納得すると思う?」
「・・・・・・しなきゃアコとオヤジの大事な人間2人も巻き込むことになるからねい」
・・・ほんっと、馬鹿。
「巻き込んでよ。私も巻き込むから。やっすい覚悟であんたの恋人6年もやってんじゃないんだから」
「俺の・・・矜持だよい」
「好きだけどね、マルコのそういうとこ」
「・・・・俺が見合いを断ればオヤジの会社は」
「家族なんでしょ?皆」
「・・・家族だい、だから守りてェんだよい」
「家族なら家族会議しなくちゃ」
「・・・・はァ?」
「家族なのに1人で背負い込もうとするなんて駄目でしょ。今日会社誰か居る?」
「・・・オヤジがいる、よい」
「よし」
「おいアコ、待っ」
「マルコ1人に背負わせて、それでのうのうと笑うような家族を私は作りたくない」
「・・・・アコ」
ということで突撃。
「2人揃ってめでてェ報告かと思いきや・・・・マルコ」
じろりとお父様がマルコを睨み付けた。
この会社の、社長。
「・・・・すまねェよい、オヤジ」
「息子にそこまで思わせてたとはな・・・・心配するなマルコ」
「このままじゃオヤジの会社が・・・っ」
「サッチとエースが大口の契約をとってきた」
「・・・あいつらが」
「お前が前に行ったとこだ、マルコ」
「・・・俺が?」
「お前の評判でとれた契約さ。詳細を見るか?これで不安だって言うなら病院に行け」
「・・・オヤジ」
「家族は支え合うもんだ、そうだろマルコ」
「・・・・・ありがとよい」
「で、めでたい報告はねェのか?」
グララララ、と楽しそうな笑いが響いた。
ちらりとマルコを見れば、
真っ直ぐに私を見つめて来た。
「・・・・家と家具をやる。一生暮らせる分の金はやれねェが、一生俺が側に居る」
「え、ちょっ」
それって私の台詞・・・・っ!!
「・・・・だから、アコ。俺と結婚してくれねェかい」
「・・・・・・・喜んで、お受けします」
「グララララァ!!それこそ俺の待ってた報告だ!よくやったマルコ!!」
「・・・・・よい」
別れ話は一転、
結婚に変わりました。
家族の為に1人で背負い込んじゃうようなところ。
嫌いなんだけど。
・・・・大好き、なんだよね。