短編①
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「ん、しょ、っと」
ぎゅっ、ぎゅと。
手の上で熱々のおにぎりを握る。
今日の見張り番の人の為のお夜食。
今日は少し肌寒いから、温かいお茶も持っていこう。
・・・・喜んでくれるかな。
紅の引いた唇を、にぃっと引き上げて。
・・・・なんて。
想像するだけでドキドキしてしまう。
だってあの人はとても美しい人。
「よっし!」
最後の仕上げをして完成。
私はそれらを包んで、見張り台に居る彼のもとへ。
ひゅう、と冷たい風が頬を撫でる。
「お疲れ様です、イゾウさん」
「ああ、アコか」
いつもの和服を着て、月に照らされたイゾウさんの横顔。
うわ、綺麗・・・。
「アコ?」
「っあ、いえ、あの、夜食を持ってきました!」
「有難うよ」
どうぞ、と手渡す。
イゾウさんはそれを手に取ると早速、と中を見る。
「ほう、これは」
ふわりと香る香ばしい匂い。
うん、我ながらイイ出来だ。
「焼きおにぎりたぁ嬉しいねぇ」
「和の国の料理をと思って、ちょっと工夫してみたんです」
「有り難く頂くよ」
「はい、どうぞ」
言ってイゾウさんが焼きおにぎりにかぶりつく。
綺麗な三角にはならなかったけれど、
それなりにうまく出来たつもりだ。
一口食べて、
彼は笑った。
「・・・ああ、美味ェ」
その言葉に、安心と同時に心臓が跳ね上がる。
何て綺麗な顔で笑うんだろうこの人は。
「おや、これはほうじ茶かい?」
「あ、はい、おにぎりにはほうじ茶が合うかなって」
「・・・お前ェさんは、本当に俺を喜ばせんのが上手だ」
「今夜は少し肌寒いですから、気をつけて下さいね」
私は貴方が笑ってくれるだけで嬉しいです。
言いたいのに、言葉に出来なくて。
出てくるのは別の言葉。
心の中で苦笑する。
そしてふと目に止まったのは、隅っこに所在無さげに置かれているタオルケット。
防寒の為にあるはずなんだけど。
「イゾウさん、あれ使わなくて寒くないですか?」
「そうさね・・・そろそろ使う頃合と思っていたんだが、必要がなくなったのさ」
「え?」
「熱々の握り飯に茶があればいらねえだろう?」
ニヤリ、と怪しく笑う。
「それに、唐辛子が入っていなさる」
「あ、わかりました?嬉しいです。隠し味にちょっと入れてみたんですけど」
作ってる時不意に思い立って使ってみたんだけど、気づいてくれるなんて。
「・・・・アコ」
「え、あ、はい」
「大事なお前ェさんを風邪ひかせるわけにはいかないんだ」
ふわり、と
先ほどまで所在無さげに置かれていたタオルケットに包まれた。
あれ?
どうしよう、何か。
帰るタイミング見失った。
「有難う御座います、でもあの、えと」
「ここで俺がお前ェさんをを帰すと思うかえ?」
「へ!?」
そして闇の中でその人は薄く笑い、
そのまま顔が近づいてきて。
・・・・・ちゅ、と
唇の横ギリギリを狙って、
キス。
離れた唇の紅が、
闇夜に浮かんで。
ゆるりと、
私は落ちた。