短編③
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ひらり、と紙が目の前で舞った。
あ。
「あの、落ちましたよ」
個性的な髪形で知られる上司のマルコさんは、
私の声に振り返って、
「これ」
落ちた書類を私が拾って渡したら、
「ああ、ありがとよい」
すんなりそれを受け取ると、何事もなかったかのようにまた歩き出した。
・・・・目、隈出来てたなぁ。
大変なんだなとしみじみ思ってると、
「何今のー」
「え?」
今のを見ていたらしい同僚が声をかけてきた。
「拾ってあげたのにあの態度。偉そうだしにこりともしないし」
「でもお礼言ってくれたよ?」
「言えばいいってもんじゃないでしょうよ。あの愛想のなさは異常よ!」
「えーでも余計なお世話、とか言われたり乱暴にとられた訳じゃないし」
むしろお礼言ってくれただけでも満足なんですが。
「・・・・あんた可哀想」
「何で!?」
「##NAME2##はもっと男の人に優しくされるべきよ」
「もう十分だって」
「でもさーさっきのは抜きにしてもマルコさんて怖くない?」
「そう?」
不満そうな同僚の文句は止まらない。
「社長の右腕だし次期社長候補なんて声もあるけどねー」
「腕は確かだもんね。信頼も結構されてるよ」
「男性社員からだけね。女性からは怖がられてるんだから」
「そうなの?」
「そうよ!サッチさんやエース君を見習ってほしいわー」
マルコさんはマルコさんなりに良いとこあると思うんだけどなあ、と思いながらも、
同僚の為にもこの時は、
「優しいよね、サッチさんもエース君も」
とだけ言っておいた。
・・・・まあ確かに、
愛想がないのは事実だもんね。
なんてことがあってから数日後。
「アコ」
「はーい」
そろそろ帰ろうかな、と思っていたら怖い顔したマルコさんが立っていた。
「・・・・何か?」
やらかしちゃったかな私。
覚えないんだけど。
まあミスなんていつもそんなものだし。
覚悟を決めて聞いてみたら、
「帰るんだろい?」
「え、はい」
「・・・この後時間、あるかい」
「・・・・・はい」
驚いた。
一見怒ってるような真面目そうな顔なのに、
よく見れば気まずさそうな恥ずかしそうな顔。
ちょっと、可愛い。
「一杯付き合って欲しいんだよい」
「いいですよー」
マルコさんからのお誘いなんて初めてだ。
で、何処に連れていかれるのかと思ったら。
普通の居酒屋。
・・・・ちょっと拍子抜け。
「生ビール」
「生レモン絞りサワーで」
で、
「お疲れさまでーす」
乾杯。
「あ、つまみ追加します?もっとお腹にたまるものとか」
「好きなモン頼めばいい」
「・・・・おごりですか?」
「そのつもりだよい」
「ご馳走様ですー」
・・・・控えめに頼むようにしよっと。
あ、サラダ美味しい。
焼き鳥はまぁまぁかなー。
ちら、とメニューを見る。
お寿司美味しそう。
「寿司かい?」
「あ、はい。いいですか?」
「好きなの食えって言っただろい」
「いただきまーす」
で、お寿司到着。
・・・・・ずっと黙々と食べて飲んでる。
「ワサビもっと入れます?」
「十分だよい」
「りょーかいです」
ふとマルコさんの手元のグラスが空になってることに気づいた。
「生追加しますー?」
横に設置されてる電子機器で注文する為、
タッチペンを手にとったら、
じろりと睨まれた。
「あ、他のがいいですか?」
「聞かないのかい?」
「・・・・何をですか?」
「今日飲みに誘った理由」
「可愛い部下に奢りたくなったんじゃないんですか?」
「アコは変わってるねい・・・」
「そうですか?あ、もしかして給料に関わった質問でした?」
「単なる疑問だよい。今までは怖がられてばっかりだったんでねい」
・・・・マルコさん不憫。
「私はいつでも大歓迎ですよ。勿論割り勘でも」
「奢るっていうといつも厄介な仕事押し付けられると思われるんだよい・・・・」
マルコさんはそう言って深いため息。
「大変ですね・・・・」
「怪しまずに誘いに乗ったのはアコくらいのもんだよい」
「だって私なら厄介な仕事押し付けられても断りますもん」
「そのくらいの度胸がほかの奴らにもありゃいいんだがな・・・・」
おお・・・これは病んでらっしゃる。
「あー・・・・あえて助言させて頂けるなら笑顔、ですかね」
僭越ながらアドバイスさせて頂く。
マルコさんは不機嫌そうに眉をひそめて、
「怒る時に笑えってのかい」
「怒る時は怒ってもいいんですけど。褒める時とか・・・ご飯誘う時とか?」
「苦手なんだよい・・・」
うんざりした風にため息。
「下手に笑うと引き攣って逆に怖いですしね・・・難しいですねえ」
「難しいよい・・・」
お寿司をぱくり、サワーをぐびり。
「あ、そいえば飲み物注文しますよ。何がいいですか?」
「・・・生」
「はーい」
ピッピッ、と。注文。
「・・・ありがとよい」
「いえいえ、他にも追加あったら言って下さいねー」
奢ってもらえるならこれくらいはする。
と思ったら、
「そっちじゃねェよい」
目の前でマルコさんが苦笑した。
「え?」
「苦手な上司と一緒に飲んで話聞いてることだよい」
・・・真面目な顔のマルコさんに私も思わず苦笑。
「私マルコさんのこと苦手じゃないですよ?」
「気ィ遣わなくていいよい」
「1人の人間としてちゃんと見てくれてるし、仕事頑張ってらっしゃいますし」
「・・・・そんなことねェよい」
「さっきもお寿司食べたいなって思ってたら気付いてくれましたよね?そういうとこすごいなって思います」
「あー・・・・わかった、もういい」
ぷい、と顔を背けてしまったので怒らせちゃったかなと思ったけど。
その怒ってるような横顔は少し赤くて。
・・・・もしかして照れてる?
「そんなに見られてるとは思ってなかったよい・・・」
「そうですか?」
・・・見てたのは、
理由があって。
今は、言えないけど。
「アコはいつも誰かしらのミスカバーして忙しそうだろい?飯も食えない時もあるみてェだし」
「・・・・・・私もそんなに見られてるとは思ってませんでした」
部下のことよく見る人だとは思ってたけど。
あれ、そういえば。
ご飯食べ損ねた時、よく机に置いてある・・・・
「飴・・・」
「あ?」
「たまに、置いてくれるの・・・マルコさん、だったんですか?」
「・・・・・よい」
誰に聞いても知らない、と言われた。
机の上に、飴数個。
マルコさん、だったんだ・・・・。
「うわ、何で言ってくれなかったんですかー!?すっごい助かってたんですよ!」
「・・・いちいち言うことでもねェだろい」
「言って下さいよ!お礼言いたかったのに・・・ずっと」
「今日飯でチャラだよい」
飴をくれるのがマルコさんだったらいいのに、ってずっと思ってた。
本当は。
「・・・見てくれるのが私だけならいいのに」
「・・・・何か言ったかい?」
「・・・いえ、何も」
危ない危ない、言っちゃうとこだった。
「・・・誰のことでもよく見てる訳じゃねェよい」
「え?」
考え事してて、聞こえなかったマルコさんの言葉。
聞き返してみたけど、
「何でもねェよい」
・・・・答えてくれなかった。
「お待たせしましたー生ビールでーす」
追加のビールも届いたとこで再び乾杯して、
「まあ気長に頑張りましょう、笑顔!私はマルコさんのこと尊敬してますし大好きですから」
精一杯の励ましを送ったら、
「ありがとよい、アコ」
「は、い・・・・?」
今、
一瞬だけど、優しい笑顔が見えた。
・・・こんな笑顔、
私以外に見せないで欲しい。
好き、だから。
(今はまだ言えない気持ち)