短編③
夢小説設定
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昨日から何か声が掠れるなーとは思ってたけど。
まさか、こんなことになるなんて。
「・・・・・・・・・あー」
軽く声を出してみるけど、
声になってない。
声が・・・・・出ない。
どうしよう。
とりあえず船医さんのとこに行ってみると、
「一過性のものだろうなあ。はちみつと生姜を舐めながら出来るだけ声を出さないようにするんだな」
とのことで、薬を出してもらった。
1週間後くらいにはだいぶ良くなるだろう、と。
言われて熱も測ったけど平熱だったし、
だるくもない。
声は出ないけど喉が痛い訳でもない。
ただ、
話せないのは辛いなあ。
皆に心配かけないように、朝食はこっそり部屋に持ってきてくれるように船医さんがコックさんに頼んでくれた。
今頃食堂はにぎやかなんだろうなあ。
いいなあ、皆何の話してるんだろう。
どんな風に笑ってるんだろう。
なんて考えちゃう。
はあ、とすでに本日何回目かのため息を吐き出した時、
コンコン、とノック音が聞こえた。
たぶんコックさんが朝ご飯持ってきてくれたんだろうなと思いつつドアを開けて、
「え」
声にならない声が出た。
「朝飯、持って来たぞアコ」
片腕に私の朝ご飯を乗せて立っていたのは、まさかのお頭だった。
「具合悪いのか?」
何で、と言葉にならない私に心配そうに声をかけてくれた。
コックさんから何も聞いてないのかな。
説明したいけど普通の会話が出来ないもんだからどうしようか迷っていると、
何も言わない私をどう思ったのか、お頭はそのまま部屋まで入ってきて机の上に朝ご飯を置いた。
そして、
「どうした、アコ?」
優しく問いかけてくれる。
私は手を使って、お頭を近くまで呼んだ。
「アコ?」
首を傾げながら近づいてくれたお頭に、更に私はしゃがんでくれるように手を下に動かす。
わかって、お頭。
お頭はすぐに理解してくれて、私の高さまでしゃがんでくれた。
・・・・・・・嬉しい。
私はすぐにお頭の耳に口を近づけて、
息に近い声で話す。
「こえ、出ない、んです」
「声が出ない?風邪か?・・・・・っと、いや、いい。答えなくていい」
それからお頭は、ちょっと待ってろ、と言って部屋を出て行ってしまった。
・・・・・・・・何処行ったんだろ。
仕方なく持ってきてくれたご飯に手をつけて数分後。
「お、食ってるとこを見ると食欲はあるみてえだな」
お頭は戻ってきた。
・・・・・紙とペンを抱えて。
「ほれ、これ使え」
そっと渡してくれたスケッチブックとペン。
私は早速その紙に、
『有難うございます』
と書いた。
「よし。じゃあ聞くが、船医んとこには行ったのか?」
満足そうに頷いたお頭に私はこくりと頷いて、
『風邪の一種だそうで、一過性のものだそうです』
と書いて見せた。
「薬は?」
『もらいました』
「んじゃあしばらくは安静にしてなきゃならんか」
『お頭ご飯は?』
「もう食った。それよりアコ、何か欲しいもんとかあるか?」
これには、
『お気遣いなく』
と書いた。
するとそれを見たお頭が苦笑した。
え、何で?
声には出さなかったけどその気持ちは顔に出ていたようで、
「昔、うちに来た頃のアコを思い出してな」
と教えてくれた。
・・・・・・・どの辺が?
『私、どんなでした?』
「部屋に引きこもって、皆の前でもあんまり話さなかった」
・・・・・・・・・・そうだった、っけ。
ああ、でも思い出してきた。
この船に来たばかりの頃、私はずっと泣いてばっかりだった。
「ずっとこのままじゃ可哀相だ、と次の島で降ろす話も出てたんだ」
「っ」
知らなかった、そんなこと。
「だが初めてアコの笑顔を見た時、離せなくなった」
ずっと泣いてた私が笑えたのは、
今こうして笑えているのは、
他の誰でもないお頭のおかげだ。
『お頭が側に居てくれたからですよ』
と書けば、
お頭は満面の笑みを浮かべた。
「そのうちアコが俺の身の回りの世話を焼いてくれるようになって、
今じゃアコが居ないことの方が考えられないくらいだ」
『嬉しい・・・です』
「アコの声が聞けないのは寂しいが・・・こういうのもたまにゃいいな」
『いいですか?何処が?』
私のこの質問に、お頭はにぃ、と笑みを浮かべて、
「!?」
私の持っていたスケッチブックを奪い、
そこから1枚紙を切り取った。
「・・・・・・・・?」
「これは返す。・・・・・これはもらっておく」
「!!」
お頭が切り取ったその紙に書いてあったのは、
『お頭が側に居てくれたからですよ』
ぎゃああああ!!!
「かっかえっ」
返して下さい!と言葉は出て来なくて、
そんな私にお頭は余裕の笑みでぽんぽん、と頭を軽く叩く。
「アコからのラブレター、ってやつだな」
違うぅ!!!
思い切り首を横に振るも、
「だっはっは!照れんなって。悪いが俺はそろそろ行かなきゃいけねえんだ、また来るからなアコ」
お頭は豪快な笑いを残して今度こそ本当に去って行った。
・・・・・・・・・・やられた。
でも、
声が出なくても楽しい時間、だった。
いつもと同じように、心があったかくなった。
・・・・・・・・・・・やっぱり、
お頭ってすごい。
お頭にもらったスケッチブック最後の1枚に、
私は、
『お頭、大好きです』
と書いて、
声が治ったらお頭の机の上に置いておこうと思った。