短編③
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日はすげェ青空だった。
キレーだなァ、と思ったら何となく学校に行く気をなくして、
サボっちまうか、と近くの河原に行った。
そこには、先客が居た。
黒い髪で、
きちんと制服を着こなしていて、
・・・俺なんかと違って真面目そうで、
この時間(すでに授業は始まってる)に居そうにねェ奴。
・・・・ま、いいか。
何となく隣に座ったら、相手も俺に気づいた。
「・・・さぼり?」
「・・・・まぁ、そんなトコだ。お前も?」
「ううん、私は・・・」
私は、と言いかけてそいつは一旦言葉を切った。
「・・・・休み、とか?」
「・・・・・ううん。ちょっと。死のうかと思って」
・・・・まるで自分の失談を友人に話すかのような、そんな照れたような表情で言い放った。
「・・・・・へェ、そりゃまた大変だな」
驚いたものの、そんな言葉しか出てこなかった。
「いつ飛び込もうかなあと思って悩んでるとこ。・・・学校行った方が良かったんじゃない?」
「いや、ここで見てる」
「・・・本気?」
「いつでも飛び込んでいいぜ」
「・・・・いや、見てられると飛び込めないんだけど」
「お前の覚悟はそんなモンだったのか?」
「・・・・えええ?」
半笑いで困惑した様子のそいつが面白くて、笑った。
「お前、名前は?」
「・・・・アコ」
「どうせ飛び込んで死ぬならもっと水の綺麗なとこ行きゃ良かったんじゃねェの?」
「・・・・突っ込むとこそこなの?面白いね君」
あはは、と初めてアコの楽しそうな笑顔。
「俺はエース。以後よろしく」
改めて名乗って頭を下げたら、
「ふふ、はははっ!エースって本当面白い。これから死のうって人間によろしく、だって」
・・・・笑ったら可愛いじゃん。
「・・・上、見てみろよアコ」
「上?」
言いながらアコが上を見上げる。
「いい天気だろ?」
「・・・・だね。雲ひとつない青空。綺麗」
「こんな時に死ぬのもったいねェって」
・・・初めて会ったのに、
まだこいつと話していたいと思った。
「うーん、そうかもね。今日はやめとく」
「じゃあこのままここで一緒に寝るか?昼寝日和だし」
「うん、いいかも」
ふわりと柔らかく微笑むアコは、
ついさっきまで死のうとしていた人間のそれとは思えない。
・・・・でもあれはきっと本気だった。
ったく、面倒なことになっちまった。
ただサボっただけなのに。
・・・・ただ、サボっただけなのに、
こんなにも目が離せねェ奴に会っちまった。
「・・・・なぁ、アコ」
隣で目を閉じているアコに話しかけたら、
「んー?」
目を閉じたまま返事してきた。
・・・表情は、笑ってる。
「明日もここ、来るか?」
「・・・・・んーどうだろうねえ」
「・・・学校が嫌なのか?」
「嫌いじゃないよ。友達も居る」
「んじゃ家が嫌か」
「養ってもらってるし、必要なものは十分与えられてるからそんなに嫌じゃないかな」
「・・・・へェ」
その割に、寂しそうに笑うんだな。
「明日・・・ここに来るかはわかんないけどさ、今日エースに会えて良かった」
じゃあね、と言ってアコが立ち上がったから、
「おう。・・・またな」
と言ってやった。
アコは目を丸くして驚いた顔で、
泣きそうな、顔で笑った。
「うん、ばいばい」
・・・・明日もサボるか。
来ないかも、と言いながらアコは来ていた。
「・・・よう」
「来ちゃった。エースに会いたくて」
・・・ドキッとした。
その嬉しそうな顔に。
「・・・・今日も、いい天気だな」
「だね。でも本当に行かなくていいの?学校」
「そりゃ何の心配だ?」
「え?・・・・勉強とか」
「1日2日でついていけなくなるほど頭良く見えるか俺が」
「でもほら、人は見かけによらないし。先生に怒られたりとかしない?」
「全然。・・・・お前はどうなんだよ」
俺より真面目そうで、
2日も学校に行かなかったら心配されるタイプだ。
「私?成績は普通。悪くもないけど良くもない。2日行かなくても平気」
「家に電話とか、」
「誰もいませーん」
ケラケラと笑うアコに、思い切って聞いてみることにする、肝心なこと。
「なァ・・・・何で死のうと思ったんだ?」
「うーん・・・・あのね?実は死のうとは思ってなかったんだ」
「・・・・は?」
「ごめんね。でも飛び込んでみようかなあって思ってた。そしたら死ぬのかなあとか考えてて」
死ぬならそれでもいいって思ったからさ。
アコはそう言った。
「お前・・・それを早く言えよ」
「え?」
「行くぞ!」
きょとんとするアコの手を取って、俺は飛び込んだ。
川に。
ばっしゃん、と派手な水音。
「え、ちょ、ぎゃああああ!!」
「おー冷てェ」
「わ、わたしっ泳げな・・・!」
「落ち着けって。ここそんな深くねェだろ」
「・・・・・・へ」
座りこんだアコの手を取って立たせたら、
「・・・・・・これじゃ死ねないね」
呆然と呟いた。
「スッキリしたか?」
「うん。・・・・何か、あははっ、バカみたいだね私」
「いいんじゃねェの、俺たちまだ若ェんだし」
「ありがとエース」
「どーいたしまして。んじゃ、出るか」
「ん。・・・・・あ、待って」
「あ?」
いつまでも川の中にいる訳にもいかないんで出ようと手を引っ張ったら、アコは動こうとしない。
「・・・・エース先行ってて」
「1人で泳ぐ気か?」
「・・・・私女だって知ってる?」
「そりゃスカートはいてっから・・・・・・あ」
そこまで言ってようやく気付いた。
「・・・・ちょっと」
「・・・・悪ィ」
服が、透けてる。
・・・・いいもん見た。
じゃなくて、
「着替えとか・・・いるよな?あーちょっと待ってろ、学校にジャージが」
あったはずだ、取りに行くか。
そう思った瞬間、
「えいっ」
「うおっ!?」
身体に衝撃。
アコが、濡れた体で抱き着いてきたらしい。
柔らかい身体が密着して、やべェ。
「おまっ、俺が男だってわかってんのか!?」
「わかってるよー制服着てるし体固いし」
「・・・自棄になってンのか?」
「ううん、脅迫しようと思って」
「脅迫ぅ?」
どぎまぎしながら首を傾げると、
「明日もここに来て!で、返事ちょうだい?」
「返事?」
「私と付き合って!あ、何処まで?って質問はなしね!」
「は!?」
「わかった?」
「・・・・わかった!」
理性を失う前に思いっきり叫んだら、
アコは満足そうに笑って走って行った。
最後に、
「エースに私の太陽になってほしいんだ!」
と言い残して。
・・・・明日もいい天気だなこりゃ。
明日は先回りして、
アコにキスでもしてやろうと思った。
(きみはぼくのたいようだ)