短編③
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「馬鹿でしょ」
「・・・・・・そう言ってくれるな」
「言いたくもなるっての。今日は貴重な休みだったのわかってるでしょ」
「・・・・すまん」
「風邪ならともかく」
「・・・・・・・同じくらい具合悪いんだが」
「自業自得。二日酔い男」
会社の重役をやってる恋人シャンクスと、
久しぶりのデートの筈だったのに。
・・・・・まさかの二日酔いでデートが中止。
「アコーみずー・・・・」
「はいはい、今持ってくるから」
情けない声を出す恋人の為にグラスに水を注いで、
何だか悲しくなった。
お酒が大好きなのは知ってるけど、
ここまでとは思わなかった。
・・・・というかそもそも、私昨日飲み会があったなんて聞いてない。
次の日私とのデートだって知ってて潰れる程飲むなんて最低じゃないか。
ちらりと脳裏を過る、
別れの言葉。
こんなことで、って我ながら思うけど。
・・・・・・楽しみにしてたのにな。
「はい水。起きれる?」
「・・・・・アコがちゅーしてくれんなら起きれる気がする」
「馬鹿言ってないでさっさと起きて。水ぶっかけるわよ」
「あー・・・・・・」
気怠そうに、それでも自力で起き上がったシャンクスに水を渡す。
「・・・・・美味しい?」
「ん。悪い」
「・・・・・ねえ」
とりあえず気になるのは。
「ん?」
「何かあったの?嫌なこととか、嬉しいこととか」
自棄酒、祝酒。
シャンクスがこんなになるまで飲むなんてどっちかなんだろうと思うんだけど。
どっちにしても今まではここまで重症じゃなかったから。
自棄酒ならよっぽどの何かがあったんだろうし、それが少し心配。
「・・・・・いや」
シャンクスは意味ありげな沈黙の後、そう言って笑った。
・・・・・何かあったな。
「嫌なことがあった、と」
「相変わらず鋭いなアコ。・・・・だが違うんだ、今回は」
「・・・違うの?じゃあ嬉しいことがあったの?」
「飲み過ぎた結果が嬉しいことになった」
「・・・・私とのデートが中止になったのがそんなに嬉しい?最悪」
最悪過ぎる。
そんなこと嬉しそうに言わなくていいのに。
怒る私にシャンクスは慌てたように勢い良く首を横に振った。
「待て待て、そりゃ違う!」
「飲み過ぎた結果私とデート出来なくなった以外に何があるの?」
「・・・・・あーすまん。ほんっとにすまん。埋め合わせはする」
謝ってはくれるけど答えてはくれない。
・・・・馬鹿シャンクス。
「酔っぱらって女口説いたら成功したとか?」
「どんなに酒飲んだって口説く相手を間違えたりはしねェ」
「・・・・どうだか」
「・・・・信じちゃくれねェか」
少しだけ寂しそうにしたシャンクスに思わず胸が痛んだ。
でも私にだって言い分はある。
「肝心なこと何も言わないけど信じろって?」
「会社の後輩と突然飲むことが決まったんだ、
たいしたことじゃないだろう」
「たいしたことない飲みでそんなに潰れるの?」
「その点については悪いと思ってる。だからそろそろ機嫌を直してくれ」
な?とシャンクスが甘えるように笑いかけてくる。
何1つ言ってくれないのに。
そうやって私を誤魔化そうとする。
「・・・・シャンクスのそういうとこ、嫌い」
「・・・・・厳しいな」
「急に後輩君と飲みに行くことになったことは咎めないけど、それで飲み過ぎた理由くらいは言ってもいいんじゃない?」
「盛り上がった、と思ってはくれないか?」
・・・・・ということは違うってことね。
いい加減怒鳴ってやろうかと口を開いたら、
シャンクスが突然額を押さえて後ろに倒れ込んだ。
・・・・何やってんだか。
「・・・・寝る?」
「・・・・二日酔いには味噌汁がいいんだ」
・・・・作って来て欲しい、と。
「具ナシでも文句言わないでね」
私も甘いよなあシャンクスに。
・・・まあね。
シャンクスは優しいし、出来る人だから。
上からも下からも頼られて、
結局付き合っちゃう。
大方後輩君の相談に乗ってたってところなんだろうけど。
複雑な思いを抱えたまま鍋を取り出してお湯沸かして、
さて味噌をと冷蔵庫に行って、扉に貼ってあった1枚のメモに目が留まった。
「・・・・・・・・・・・馬鹿じゃん」
今日行くはずだった場所の。
パスタの美味しい店の名前とか地図とか。
夜景の綺麗な場所とか。
・・・・細かく書いてあるんですけど。
シャンクスだって楽しみにしてなかった訳じゃない。
・・・・・そんなこと、わかってたけどさ。
・・・・・・・・・・・・豆腐でも入れてやるか。
「はい、熱々」
ぐつぐつのお味噌汁。
「美味そうだ、頂きます・・・・・・あちっ」
「熱々の方が二日酔いに効くと思って」
「・・・・さすがだなアコ。それに美味い」
顔を見れば無理してるのがわかる。
・・・・・ほんと、馬鹿だなぁ。
「今度連れて行ってね。美味しいパスタのお店」
さりげなく伝えた瞬間ぶはっ、とシャンクスが噴出した。
「・・・・・あー」
「あと何か買ってもらおうかなー」
「勿論だ、バッグでも指輪でもネックレスでも」
「全部」
「・・・・勿論だ」
「・・・・馬鹿だねシャンクスは」
「情けねェな、まったく」
「ねえ・・・全部いらないから、話して」
ものすごく熱かったはずのお味噌汁を飲み干してシャンクスが力なく笑った。
「アコを口説く権利を賭けて飲み比べ勝負をした。なかなかあいつも負けを認めねェんで」
「・・・・・・はぁ?」
・・・想像してなかった答えだった。
「俺の待ち受けを見て勝負をしかけてきたんで、逃げる訳にはいかないだろう?」
「・・・・・・・・・・・負けておきなさいよそこは」
「嫌だ」
「何処ぞのガキに口説かれたくらいで私が揺れ動くって?そんな馬鹿な心配より自分の身体の心配しなさいよ馬鹿」
「・・・・馬鹿だな、俺は」
「そうね馬鹿ね。もう名前馬鹿でいいんじゃない?」
くっだらない!!
そんな感想しか浮かばない。
「・・・・怒ってるところ恐縮なんだが」
「何」
「俺と一緒に馬鹿になってくれねェか?」
「・・・・は?」
「違う言い方をするなら熱々の味噌汁を毎日飲みたい」
「・・・・・・・・・毎日豆腐でも?」
「具なしでも」
「・・・・・・私も馬鹿かも」
だって返事はイエスしか出てこないんだもん。