短編③
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堂々とした立ち姿、完璧な笑顔。
その場にいる誰にも引けを取らない、
贔屓目でなく心からそう思う。
・・・うちのアコは、いつの間にかこんなにも成長していたんだな。
声で誰かの心を動かしたい、と言ってうちの事務所に入ったアコは、出会った頃はまだ10代だった。
タイミング良くアニメの主人公の役をもらえたアコは、深夜枠とは言え運が良かった。
そのアニメは大当たり、
第2期ではアニメの主題歌という大役も立派にこなし、
今では実力派声優兼バンドボーカルと世間に認知されるまでになった。
その人気に甘えることもなくこの10年以上良く頑張ってくれてる。
おかげで今でもうちの事務所の稼ぎ頭だ。
『さあ次はRED SHIPSさんの新曲お披露目です!』
RED SHIPS。
社長のイメージでつけた名前なんです、と笑った姿を思い出す。
背も伸びたし、目つきも変わった。
仕事に対する姿勢も。
・・・まあその分、俺に相談することも少なくなっちまったな。
悪いことじゃない。
それはわかっちゃいるが。
・・・寂しいもんだな。
声優に専念したいなら歌はやめていい、と言ってみたこともあったが、
両方やりたいと力強いアコを信じて10年以上。
「あ、社長お疲れ様です」
「お、来たなアコ。今ちょうど見てるとこだ」
「この間の収録のやつですね。楽しかったですよ」
「共演者に口説かれたやつだろう?」
「・・・・です」
苦笑しながら自分宛の手紙を取ったアコに、
「もう行くのか?忙しいな、うちのお姫様は」
「新曲の宣伝にラジオがあるんです」
「ああ、そうだったな。・・・新曲も上手くいきそうだ」
「社長とファンの皆さんのおかげです」
いつになっても天狗になることはない姿勢。
変わらない笑顔。
・・・・そこが、またイイんだよなァ。
「気をつけてな。何かあれば俺に言うんだぞ」
「はぁい、行って来ます」
軽やかに出て行ったアコからふうわりと甘い匂いがした。
・・・何だ、チョコか?
「・・・ああ」
つけていたテレビに突然流れたCМに、
もうすぐバレンタインだったなと納得。
いや待て。
納得してる場合か?
著名なアコだ、もらうことはある。
一昨年も去年もそりゃあ大量なチョコが届いたもんだ。
・・・・だが今年のバレンタインはまだだ。
アコが今持って行った手紙の中にチョコはなかった(チェック済み)。
だとしたらアコ本人から香ったもの。
・・・・考え過ぎ、か。
別にアコに好きな奴がいてもおかしくはない。
年頃だ。
・・・・いつかの共演者の中にでも居たのか。
いや、早計に過ぎるな。
たまたまチョコレートを食べたばかりだったのかもしれない。
余計なことは考えるべきじゃねェな。
とにかくアコを守ることだけ考える、それでいい。
「次は悪役だそうだ。魔女らしい」
次の仕事が決まった、と呼びだせばアコは昔と変わらず嬉しそうに笑う。
「有難う御座います、頑張ります」
「嫌なら言ってくれれば・・・」
「嫌なはずないです。どんな役でもマネージャーさんや社長さんが頑張って持ってきてくれた仕事ですもん」
昔は少しばかり我が儘な時もあったからなァ。
この役は嫌だ、名前もない役はやりたくない。
・・・・頻繁にではなかったし、
アコの気持ちも理解出来たからそのままにしておいたが。
「・・・本当に、大人になったなァアコ」
「ええ、おかげさまで。・・・大人として見てもらえるようになりました、ようやく」
髪をかき上げて見つめて来る視線に熱を感じる。
・・・のは、気のせいか。
「今週はゲスト出演のアニメの収録が日曜日にあるんだったな」
「はい、頑張ります」
「・・・頼もしくなったな」
「頼って下さい!この事務所は私が守ります!」
「だっはっは!嬉しいこと言ってくれるじゃねェか、頼む」
「任せて下さい。・・・ところで、社長」
「ん、どうした?」
途端アコの顔つきが少し不安気なものに変わった。
「あ・・・・・あの。えっと」
「・・・何か悩み事か?」
「・・・・日曜日、ここに居ます?」
「日曜日?ああ、昼過ぎから少しなら居ると思うが」
「ほんとですか?良かった」
「荷物の受け取りでもあるのか?」
「そんなとこです。じゃあ打ち合わせあるんで行って来ますね」
「おう、気をつけろよ」
「はーい」
アコが出て行ったのを確認してテレビをつけると、
今までここで聞こえて来た声が流れた。
『伝えたいのは有難う、だけじゃなくて』
切ない声色にメロディ。
いい曲だ。
この曲はアコが望んで作詞作曲をしたんだったな。
・・・伝えたいのは有難う、だけじゃなくて。
いつか貴方に想いを告げられたら。
誰に対して、なんだと聞いたことがある。
それに対してアコは、ただの歌です、と笑っていたが。
「日曜日・・・・か」
何が来るんだろうな。
日曜日。
届くのがでかいのなら車で来るが、と言ったら大きくはないです、とアコが言うので普通に電車で来たが。
車じゃ社長大好きなお酒飲めないでしょう?とカラカラと笑ったアコは今頃収録中か。
「・・・・・ん?」
俺のデスクの上に何か置いてある。
もう来たのか、サインしてないんだが良かったのか?などと考えを巡らせながらそれを手に取って驚いた。
「・・・・これ、は」
可愛らしくラッピングされた箱からは甘い匂い。
そして小さなメッセージカード。
・・・・あの時とは違う大人びた文字で。
好きです。
そう書かれていた。
名前なんかなくても誰の文字かわかる。
他の誰でもない、アコの字だ。
中を開ければあの時と同じふわりと香るチョコの匂い。
見た目綺麗ではあるが、よく見ればほんの少しいびつな所があるのを見るに手づくりなんだろう。
嬉しいことをしてくれる。
目の前のチョコを齧れば脳裏に過るのはアコの笑顔。
『お返事はホワイトデーにお聞きします』
なんて手紙に書いてはあるが、こんな可愛いことされて黙ってる訳にゃいかねェなァ。
ちらりと時計を見る。
・・・今日の収録の場所と、終わりの時間。
そしてここからかかる時間を計算すると。
まだ間に合うな。
・・・・よし。
「はぁぁぁ・・・・」
渡しちゃった。
実際には置いておいただけだけど。
前から練習してた手作りのチョコ。
本番にようやく上手く出来て、渡せてほっとした。
・・・・のは半分、ドキドキしてるのが半分。
次に会う時どんな顔して会えばいいだろう。
・・・・ううん、大人だもの。
仕事相手としてしっかり対応しよう。
収録を終えてどぎまぎしながらスタジオを出て、もうすぐ駅、というところで。
「アコ」
名前を呼ばれて振り返って驚いた。
「しゃ・・・・っ社長!?」
「お疲れ。無事に終わったみたいだな?」
「は・・・・はい。あの、何でここに・・・」
いきなりすぎて心の準備出来てない。
「チョコ美味かったよ、ごちそうさん」
「よ・・・・良かったです」
「それと・・・俺からも告白させてくれないか?」
「え?」
手をぎゅっと握られて。
「好きだ、アコ。愛してる」
「ほんと・・・・に?」
「ああ。これからも側で守らせてくれ」
「しゃちょ・・・・ん・・・・」
嘘みたい、と開いた唇は塞がれて。
優しいキス。
「シャンクス、と呼んでくれないか?」
「・・・・しゃん、くす」
「これから恋愛ものの芝居に困ることはないな」
「今までは駄目でしたか・・・?」
「いや、最高に可愛かったよ。これからはますます磨きがかかるな」
「これからは両想いの歌も歌えます」
伝えたかったのは有難う、だけじゃなくて。
愛してる。
の言葉。