短編③
夢小説設定
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「わー驚いた」
なんて我ながら棒読み。
だってインターホンが鳴った時点でまさか、とは思ってたから。
・・・・・・まさか本当に来るとは、
さすがの私も思ってはいなかったけど。
でもこの時間にこの家に来客があるとすれば宅急便か、
「・・・シャンクス先生」
しか居ない。
私のクラスの担任教師。
赤髪、と呼ばれる髪の色。
無精ひげ。
その他諸々。
何でこの人が教師やってるの、と思わずツッコミたくなる人。
正直やる気だってないんじゃないかと思ってたし。
「見舞いに来た。上の方には話は通してある、問題ない」
「・・・・口だけで十分なのに」
「十分じゃないから来ないんだろう?」
「・・・・・具合が悪いから休んでるだけです」
「楽しくねェか、学校は」
「そういう訳じゃ・・・・なくて」
もう2か月。
学校に行ってない。
ここまで休むともう行かなくてもいいんじゃないかという気すらしてきた。
幸いにも親は仕事で忙しいし、
学校から親への連絡も今のところない。
休みます、という連絡は私がしてる。
1週間くらい前、だったかな。
欠席の連絡をした私にシャンクス先生が言った。
『そのうち見舞いに行こうと思うんだが』
『・・・・そのうち良くなると思うので結構です』
『可愛い生徒の顔を見に行くだけだ、構う必要はねェ』
・・・・まあ、どうせ本当に来ることはないだろうと踏んで休み続けてた結果。
こうして本当に先生は来た。
別に学校が嫌で休んでる訳じゃない。
ただ何となく、面倒。
面白いことがない訳じゃない。
・・・・でも何か、かったるい。
「具合が悪い、か」
「良くなったら学校には行きます。イジメがある訳でもないですし、ご心配なく」
「よし、病院行くぞ」
「え」
「その様子じゃ行ってねェだろう?」
い・・・行ってないけどこんな症状で病院なんか行ける訳、
っていうかぶちゃけるとサボりみたいなもんだし!!
「いっ行きました!」
「いつ?」
「・・・・・2週間くらい、前」
「医者は何て言ってたんだ?」
「え・・・えとしばらくの休養が必要」
「何処の病院だ?医者の名前は?診察券は?」
「・・・・うぇ、えっと」
「ちなみに言うと俺も医師免許は持ってる」
「えええええ!?」
まさかの発言に驚きを隠せず声を上げたら、
「だっはっは!元気そうだな。顔色は悪くないが、飯ちゃんと食ってるか?」
「たっ食べてます・・・・」
そして先生の顔が近づいて、
ぴた。
おでことおでこが、くっついた。
「ち・・・・・っ」
近い!!
「熱はねェな」
呆気なくおでこが離れたと思ったら、
今度はぎゅ、と腕を掴まれた。
「なっなんです、」
「脈拍も正常。・・・・いや、ちと早い気もするな」
「わっ私は大丈夫です!」
「大丈夫なのか?」
「え、あ」
先生の顔を見れば、にっこり。
・・・・・・・・もしかして私、
「なら明日から学校来れるな」
はめられた!?
「・・・・・・学校、って行かなきゃ駄目ですか?」
私の質問にシャンクス先生が苦笑した。
「駄目ってことはないが。来たら面白い奴らに会えるだろ?」
「・・・・そうですか?」
「周りをよく見るとな、想像もしなかったことが溢れてるモンだ」
「それはいい意味で?」
「両方だな。楽しいぞ」
「・・・先生はいつも楽しそうですもんね」
生徒に慕われて、いつも笑ってる。
生徒だけじゃない、他の先生たちにだって。
・・・・人生楽しんでるなぁって感じ。
「俺はお前の楽しそうな顔が見たい」
「・・・・と言われても」
正直なところを言えば放っておいて欲しい。
「面白きこともなき世を何ちゃらって言葉知ってるか?」
「面白きこともなき世を面白く、すみなしものは心なりけり・・・・ですか?」
「それだ」
「高杉晋作の名言ですね。おっしゃりたいことはわからなくもないですが・・・」
面白くないなら面白くすればいい、って言うけど。
「学ぶために来いとは言わんが、あそこでないと、今でないと駄目なこともある」
「・・・例えば?」
「文化祭、体育祭」
・・・何だ、月並みじゃん、と思えば。
「恋愛」
・・・・・・・ホントに先生らしくないよねこの人。
「同級生、皆子供だから」
「だっはっは、言われてんなァあいつら。まあ気持ちはわかる。だが対象はクラス内だけか?」
「・・・・・どういう意味ですか?」
「いろんな年齢の人間に会えるのも学校の醍醐味だ」
「私が学校に行ったら先生の給料が上がるんですか?」
「そんなに待遇がいいとこなら俺は今頃力づくで引きずり出してるな」
「・・・先生の給料、」
「聞いてくれるな・・・・頼むから」
情けなくへら、と笑う先生が本当は頼もしいことを私は知ってる。
「・・・・そんなんじゃ先生も彼女居ませんね」
「嫁さん1人養うくらいの金はあるさ。貯金もまァ・・・・なくはない」
「・・・・居るんですか?」
「・・・・居ねェ」
「あははっ、居ないんじゃん!」
何だか偉そうにしてたからてっきり居るのかと思ったら。
気まずさそうに居ない、だって。
「これから出来る・・・・と思ってる」
「出来ますよ、先生なら。素敵な彼女」
「よし、じゃあ明日から学校は?」
「先生に彼女が出来たら行くってことで」
「・・・・なかなか強情だな」
「すみませんねえ。電話はしますよ」
「そうしてくれ、声が聞けるだけでも嬉しいんでな」
・・・・・・・あれ、そういえば。
今気付いた、けど。
「・・・・電話、いつもシャンクス先生が」
「ああ、俺がとってる」
「先生ってあの時間いつも授業」
「ここ2か月は入れないようにしてるんだ」
私が電話するのって、早くない。
どうせ行く気ないから、って。
「何で、そんな」
「言っただろ?声が聞きたいのさ」
「そんな・・・・っ」
そんなこと、で。
「さて、元気な顔も見られたことだ、そろそろ帰るとするか」
「あ・・・・お茶も出さずすみません・・・」
驚きで何もおもてなししなかった。
とりあえずお見送りだけはしようと玄関まで一緒に行って、
「・・・手、出せアコ」
突然先生が言った。
「手?」
開いたまま出してみる。
プリントでもくれるのかなと思いきや。
「最初はぐーだ。じゃんけん」
「えっあっ」
訳のわからないうちに、
「・・・俺の勝ちだ」
私はパーのまま。先生はチョキ。
そしてすぐに、
ちゅ。
「・・・・・せっ」
私の頬に触れた先生の唇。
・・・・・今、何が。
「されたまま、負けたままで悔しくねェか?」
「・・・・・っ」
「学校で待ってるぞアコ」
ばたん、とドアが閉まった。
・・・・・・・・・滅茶苦茶にされた。
心。
・・・・・・・されたまんま、
引き下がったら女子高生の名折れってもんでしょう。
何だか楽しくなりそうだ。