短編③
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愛してる、なんて言葉簡単に口に出来る。
熱の籠った瞳で見つめることも。
色っぽい仕草も。
相手が誰であっても。
・・・唇を重ねることも。
だって私は、女優だから。
「アコさん、出番間もなくですー!!」
「はぁい!」
笑顔を作って、背筋を伸ばして。
私は、私を作る。
「俺、お前のことが・・・好きなんだ」
思ってなくてもすらすらと口から出て来る。
「カット!オッケーです!」
もう慣れた、愛想笑い。
「エースさん次はCM撮影入ってます、インスタントカレーの」
「了解」
食べて美味いと笑えば、それだけで金が入ってくる。
「エース君このあとランチ一緒にしませんかぁ?」
「悪ィ、次の予定あるからまた今度!」
女にもモテる。
俺が、俳優だから。
スカウトから始まったとはいえこの仕事は嫌いじゃない。
いろんな人間を演じるのは楽しいし、
多種多様な美女と触れ合えるっつーのも悪くねェ。
だいたい皆スタイルもいいし顔もいい。
たまに文字通りの役得もあったりする。
「次回は初共演の女優さんと濡れ場もあるので」
マネージャーからしつこく、
くれぐれも本気になっちゃ駄目ですよ、と忠告される。
「へェへェ。大丈夫だって」
で、その女優って誰?
と気になることを聞いてみれば、
「最近活躍中のアコさんです」
「シャンプーのCMやってる?」
「そうです、頼みますよ」
純情派ってことで売ってるらしいと聞いたからこういう仕事は受けねェモンだと思ってた。
顔もスタイルも申し分ないし、ラッキーだ。
「初めまして、アコです。ポートガス君・・・ご一緒出来て光栄です」
「エースでいいぜ、仲良くやろう」
顔合わせで初めて会ったアコはなかなかの好印象で、
売れだした女優特有の高慢さもなくやりやすそうで安心した。
「有難う、よろしく」
実際に会った方がキレーだな。
「早速だけど内容について色々話してェんだけどいいか?」
「あ、私も話したい。この2話での絡みなんだけど、この行動の意味、エースがどう思うか聞きたいの」
「あーそこ俺も気になった。逆に俺も聞きたいとこあるんだけど、この後時間取れそうか?」
「大丈夫。・・・連絡先、聞いても?」
「勿論。よろしくな、アコ」
「こちらこそ」
いつになくマメに連絡を取るようになって、
「これ作ったの皆さんで良かったら」
アコが手作りクッキーをさし入れてくれたり(めちゃ美味かった)。
ドラマの撮影も好調。
アコとの芝居はやりやすくて、
「私はあなたとは釣り合わないって、知ってる・・・」
アコの頬を流れる涙、
それを人差し指で拭いながら。
「なら俺の気持ちはどうすればいいんだよ・・・こんなに、好きなのに」
「カーット!OKです!」
次が件のシーン。
の前に、
「いったん休憩入りまーす!」
っつーことで、
「お疲れ」
「ありがと。素で泣いちゃった」
「俺抱きしめる寸前だった」
「エースの台詞に心引っ張られたみたい」
「アコ」
「え?」
「ついてる」
髪にゴミ、とサラサラの髪に触れた。
「え、嘘。有難う」
「嘘」
「え!?」
「触りたかっただけ」
「・・・・もう」
赤い顔で睨んで来たアコは全然怖くなくて、むしろ可愛い。
それでも一度芝居の世界に戻れば。
「もう離さねェ」
「離さない、で」
さっきまでの優しいエースとは違う。
ふざけて笑ってたのが嘘みたいに真剣な顔。
私に触れる手は大きくて、熱くて。
ゆっくりとベッドに押し倒される。
熱の籠った視線は私の専売特許だと思ってたのに、
受け止めきれない程熱いエースの視線。
重なった唇から流れ込んでくる、心。
・・・キスって、こんなに気持ちいいものだったかしら。
「ん・・・・・っぁ・・・」
男の人に触れられるということが、
こんなにも愛おしいと思うものだっただろうか。
芝居だって、わかってるのに。
とても優しく、愛おしく触れて来る手が。
瞳が。
「カット!撮影終了です!」
・・・・忘れられない。
すげェ色っぽかった。
ほっせーのに柔らかかったし、可愛かったし。
何よりあの演技力。
・・・引っ張られたのは、俺の方だ。
「なあマネージャー、このあとアコと飯・・・」
「んな時間ある訳ないでしょ、さあ次はバラエティです!行きますよ!」
「マジかよ・・・アコ、お疲れ!ありがとな、また連絡する!」
「エースお疲れ様、また共演することがあればよろしく!」
アコの方も忙しいらしく、挨拶もそこそこにバタバタとアコとの時間は終わった。
「大人しくしてろよい」
「だーってよォ」
「これから大手雑誌の表紙だろうが。ボサボサ髪で飾るつもりかい?」
運転手兼ヘアメイクのマルコに怒られた。
「嫌だ。アコが俺に連絡くれるくらいイケてるやつにしてくれ」
あれから忙しくて会えるどころか、連絡も取れねェ。
共演の話しもねぇし。
マネージャーにリクエストしてはいるものの、
アコの方も忙しいらしく合わないらしい。
「アコ?シャンプーのCMの子かい?」
「そ。すんげェサラサラだった」
「1人の女にお熱とは珍しいじゃねェかい」
「・・・まァな」
またあのサラサラの髪に触れたい。
笑顔が見たい。
・・・抱きしめたい。
「・・・・これ、そのコだろい?」
「んあ?」
マルコが見せて来た雑誌に載ってたのは、
「・・・嘘だろ」
アコと・・・誰だコイツ。
ハクバ?俺の知らない若手俳優とのスキャンダル記事。
「ついでにお前のもあるよい」
「はァ!?」
ぺらりとめくれば見えたのは俺の写真。
一緒に写ってるのはこの間酔っぱらって俺が介抱したスタッフで、写真はそん時のだな。
・・・・くっそ。
俺のはともかく、アコのこの写真は。
『衝撃!若手俳優と手繋ぎデート!』
・・・そのタイトルの通り、男と手を繋いでるモンで。
間違いでも誤解でもねェ。
いい感じだと思ってたのは、俺だけだったのかよ。
「やっちまったねえ」
メイク担当のイゾウさんの苦笑。
「若手俳優って・・・そうだけど!!」
やられた。
まさか撮られてたなんて。
でも彼とはそんな関係じゃないのに。
ああ、どうしよう。
これをあの人に見られていたら。
・・・・でも、関係ないか。
エースだって・・・そう言う人、居たんだもんね。
私とは正反対のタイプの、甘え上手そうな可愛い人。
結構・・・本気、だったんだけどな。
「・・・そんな顔、女優には似合わないぜ、お嬢」
「・・・・そうね」
私は女優。
顔、上げなきゃ。
「きゃーっエース君!!」
黄色い悲鳴に笑顔で手を振った。
でも泣き顔で見てる女のコも居るからまだあの記事が響いてるんだろう。
・・・・あれからアコとは本当に連絡を取らなくなった。
アコからも何も言ってこねェから気にしてもいないんだろう。
「いいのかい、このままで」
「・・・別に」
車に乗り込んで、次の現場に向かいながら今頃彼女はどうしてるかと思う。
「・・・つーか、マネージャーは?」
ふとマネージャーが居ないことに気づきマルコに尋ねれば、
「まいた」
「は!?まいたァ!?」
しれっととんでもねェことを言う。
「次の仕事はこっちで勝手に決めておいた」
「・・・・どんなやつ?」
「真実はいつも1つ、だよい」
「ミステリーか?俺死体役じゃねェだろうな」
まァ死ぬ役でもいいか。
今俺に探偵役なんて出来る自信ねェし。
マルコは今度は何も言わず、しばらくすると電話をかけ始めた。
「着いたよい、時間は大丈夫そうかい?・・・ああ、悪いねい」
降ろされたのはテレビ局でもスタジオでも喫茶店でもなく。
「・・・・何処だよここ」
「知り合いの家だ。俺は行かないから1人で行って来い」
「何で俺がマルコの知り合いの家に1人で行くんだよ!?どんな仕事だよ」
「行って素直になって来い。それが仕事だよい」
「・・・・意味わかんねェ」
ドッキリじゃねェだろうな、と思いながら見知らぬ家のドアを開けた。
「お邪魔します」
「お久しぶり、です」
・・・マジでドッキリか?これ。
少し照れたような、気まずさそうな笑みで出迎えてくれたのは。
「・・・・アコ?」
混乱した。
「あ、えっと・・・あの・・・ここ、私の担当メイクさんの家で。あ、なんかエースの担当さんと知り合い?だったらしいんだけど」
「・・・・会いたかった」
ぽつりと出た本音に思わず口元を隠した。
くそ、カッコ悪ィ。
「私も、会いたかった。・・・あ、ごめんねエース彼女居るのに。あ、大変だったね。お互いに」
「居ない。・・・あれは、彼女でも、何でもなくてだな、その・・・そっちは、まァアレだろうけど」
アレってなんだ。
カメラが回ってれば・・・台本があればいくらでもカッコ良く決めれるのに。
「あ、写真の子?従弟」
「従弟ォ!?」
「小さい頃から仲良くて、つい癖で手ェ繋いで怒られたところを撮られてたみたいで。・・・エース、彼女、じゃないの?」
「アレはスタッフで・・・別に何の関係もないっつーか、好きな奴・・・他に居るし」
言えよ俺。
アコが好きだって。
・・・・ドラマの中ならいくらでも言えンのに。
出てこない。
「ちゃんと寝てる?」
「あ・・・ああ、まァ」
「ご飯、食べてる?次は何で共演出来るかな」
何処か泣きそうに見えたアコを、今度こそ本当に抱きしめた。
「・・・・エース?」
「絶対、守るから。俺と噂になりませんか」
「・・・それ何かの台詞?」
すんなり出て来た言葉は台詞認定されてちょっとがっかりだ。
でも、
「生憎恋愛モノに出演の予定はしばらくねェ。・・・俺の、本心だ」
「ふふっ、ごめんなさい。わかるよ・・・芝居じゃないって」
・・・わかるよ、俺も。
アコが俺の気持ちを受け止めてくれたってこと。
「・・・ずりィ」
「でも・・・ファン、減っちゃうよ」
「そりゃお互い様だ。・・・駄目、か?」
「ううん。・・・一緒に、噂になりますか」
そうして俺達は芝居じゃないキスをした。
数年後電撃結婚の記事が出るまでマスコミにバレずにすんだのは、
やっぱりマルコとイゾウのおかげだった。