短編③
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第一印象としては、とても礼儀正しい人。
深々と頭を下げて。
上げられた顔をよく見れば決して悪くはない。
ポートガスDエース、と名乗った彼が。
今日初めて顔を合わせた彼が、私の結婚相手。
私も彼も望んではいない、幸せにはなれないこの結婚。
私は父の小さい会社を存続させる為に。
彼は何のためにこの結婚を承諾したのかはわからないけど。
決してモテない人には見えないし。
・・・彼が私を知っていたとも思えないから、
彼が私と結婚したいと言ったとは思わない。
父からは取引先の大手会社の社長の息子さんと結婚することを条件に融資を続けることになった、と聞いてるけど。
私は彼と会ったこともないし。
まあともかく私が結婚を承諾したことで相手は酷く喜んで、
会社を存続出来ることで従業員を守れると父も喜んだ。
わかってる。
私があの人のことを諦めれば皆が幸せ。
あの人のことを忘れられたら。
みーんな、幸せ。
そいつの第一印象は、寂しそうに笑う女。
オヤジがそろそろ結婚して安心させろ、というんで会ってみただけの、女。
お前にその気がなきゃ別に断ってもいいぞ、とも言われたっけか。
アコ・・・は、好きな奴が居た、とその時に聞いた。
でも叶わない恋だかフられたんだか、もう諦めてると聞いてる。
まァこれも何かの縁だし、俺が幸せに出来るもんならしてやりてェとこの縁談を引き受けた。
俺で・・・・いいんだよ、な?
「美味しい・・・・っ!!」
エースさんは料理が上手。
「だろ?俺特製焼きそば。おかわりもあるぜ」
休日は家事全般やってくれるし、
何なら平日も朝早くに起きて自分で朝ごはんを作って出て行く。
私は朝が弱くて寝たまま。
・・・更にはお弁当も自分で作って行く時もある。
くわえて言うなら私は家事全般は苦手。
料理をすれば何かしら失敗するし、
洗い物をすれば何かが割れ、
洗濯に至っては何をどうすれば良いのやら。
いや、電源入れてスタートボタン押すくらいなら出来るけど。
わ・・・私と結婚した意味は・・・!?
「・・・あの、エースさん。たまには私がお弁当作りましょうか・・・?」
冷凍もの温めて詰めるだけで良ければ。
おずおずと聞いてみれば、
「気にすんなって。慣れない生活で大変だろ?寝れる時は寝といた方がいいぜ」
・・・優しい。
そして爽やかな笑顔のまま、
「つーか、名前。エースでいいって。敬語もナシな」
「・・・・有難う、エース」
この人はどうしてこんなに優しいのだろう。
私は何も出来ないままなのに。
「今日は特製カレーだ!」
「わ・・・・・わあ」
同棲を始めて数か月。
それなりに上手くやってると思う。
この日は初めてアコの引き攣った顔を見た。
「・・・カレー嫌いだったか?」
「カレーは好きだけど・・・特にエースの作るカレーは好き」
「の割には食いたくなさそうな顔に見えんだけど」
「だってエースの作るご飯全部美味しいから」
「から?」
「・・・最近太った」
「ぷ、ぷははっ!!なるほどな!」
たいした理由じゃなくて安心した。
「笑うとこじゃないんですけどぉ・・・」
じとりと睨まれて、悪いなと思いながらも俺はまた笑った。
「まあ気にするのもわかるけどよ。美味いモンはそんなの気にしないで美味いって食えばいいんじゃねェ?」
「でも体重が・・・っ」
「間食禁止」
「うう・・・・っ!!でも・・・いっか。お菓子よりエースのご飯の方が、美味しい」
「お、嬉しいこと言ってくれんじゃねェか」
このままこうして普通の夫婦になっていくんだと思ってた。
最近は寂しそうに笑うこともなくなってたから。
あの光景を、見るまでは。
珍しく早く仕事が終わって帰った日。
ただいま、と声を掛けても返事がないので部屋に入って見えたアコの横顔。
切なさそうな視線のその先はスマホ。
そっと覗きこんでみてショックを受けた。
俺の知らない男の写真。
・・・・ああ、やっぱまだ好きなんだな。
アコの親だってそこまで酷くはねェだろう。
この結婚もそのうち帳消しか。
それならせめて俺に出来ることは。
「わり、今日も飲み会で遅くなる」
「え、あ、うん。でも昨日も・・・」
「昨日は接待。今日は身内」
「・・・わかった、行ってらっしゃい」
最近エースが冷たい。・・・気がする。
朝見送りしないぶん、
行ってらっしゃいを言えないぶんせめておかえりなさいくらい言いたいのに。
夜遅かったら・・・顔会わせる時間がない。
「朝早く起きれば解決じゃん」
「・・・そうだけど、いやそれだけじゃなくて」
思い切って友人のナミに相談。
ナミはばっさり。
「好きなら行動あるのみよ!」
「そ・・・・そうね!頑張る!!」
好きなら行動あるのみ、なんて言葉を聞いた。
アコの友人の口から。
ああ、そっか。やっぱもう駄目なんだな。
・・・アコの笑うと花が咲いたみてェなとことか。
俺の飯美味いって食ってくれるとことか。
一緒に笑い合えたりする楽しさとか。
寝顔見たりすんのとか。
・・・・好き、だったんだけどなァ。
「アコ」
「・・・明日も飲み会?」
「いや。明日は早く帰る」
「ほんと?じゃあ明日はエースの好きな料理頑張って作るね」
「あー・・・・いいよ」
何処か気まずさそうなエースの顔に胸騒ぎがした。
「・・・どう、して」
「俺あと1週間したら出てく」
「え」
「俺は大丈夫だから、な?」
ずっと見たかったはずのエースの笑顔。
何処か寂しそうで。
違う。
私が見たかった笑顔はこんなんじゃない。
「なんで、ねえ」
「俺のことは忘れて幸せになってくれ」
「・・・・・どういう、こと」
「じゃ、おやすみ」
・・・・家事を頑張った時に褒めてくれるとことか。
優しく頭撫でてくれたりするとことか。
失敗しても怒らないで次頑張ればいいって笑ってくれるとことか。
・・・・好きで。
好きな人と一緒に居られることがこんなに幸せなんだって。
エースが教えてくれたのに。
どうして。
「・・・・っし」
今日もアコの寝顔を確認して、
玄関に向かった。
これが出来ンのもあと何日だ。
仕方ないよな。
寂しい思いでドアノブに手をかけた瞬間、
「エース」
寝間着姿のアコが居た。
「珍しいのな。朝起きて来るなんて」
「頑張った。・・・じゃなくて、昨日の話しだけど」
「・・・・おう」
酷く真剣な、でも何処か苦しそうなアコが俺のスーツの袖を引っ張った。
「忘れるなんて出来ない。エースのこと忘れて生きて行くなんて、もう出来ない」
「・・・俺より、忘れられねェ奴、いるんだろ」
「居ないけど」
「・・・この間スマホで写真、見てた」
「この間?あれこの間まで見てたドラマで死んじゃった役の役者さん」
「好きなら行動って言ってただろ!?」
「好きだから頑張って朝起きたの。好きだった人はいたけど・・・エースといたら忘れた」
でもエースのことは忘れられない、と言うアコの頬に流れた一筋の涙。
たまらなくなって思わず抱きしめた。
「俺・・・勘違いしてた、ごめん」
「・・・エースが、好きって言ってもいい?」
「俺も。・・・こんな形になっちまったけど、好きだ」
「・・・っておかしいね。私達もう夫婦なのに」
「・・・・だな」
(ねえ、エース。明日は春一番だって)
(んじゃ手ェ繋いで散歩すっか!)
(だね!)