短編③
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運命、なんて信じてなかった。
・・・・いや、たぶん今でも信じてないんだと思う。
でも、じゃあ。
これは何だって言うんだ。
「・・・・久しぶりだな、アコ」
「・・・・エース、君?」
驚きに目を見開いたその顔は、あの時のまんまだった。
うわあ、いつぶりだろう。
まさか初めて会う取引先の人が、
高校の同級生だったエース君だったなんて。
・・・高校、3年の時にはもう顔を合わせることも少なくなってたから。
ああ、懐かしい。
「びっくり・・・」
「俺も。名前聞いた時からまさかとは思ってたけどな」
「スーツ・・・着るんだね・・・」
思わぬ人の思わぬスーツ姿に見惚れていると、エース君は苦笑した。
「そりゃあまあ、一応社会人だぜ?」
「あ・・・・そっか」
「ちょうどいいや、一緒に飯食わねェ?」
「あ、うん」
「そこで色々話ししようぜ、仕事のことも。今までのことも」
「・・・・うん」
悔しいなあ。
何でまだこんなにカッコイイんだろう。
何でまだ、こんなにドキドキするんだろう。
・・・・高校でした初めての恋。
想いも告げずに勝手に終わらせた恋。
・・・・だったのに。
「ま、仕事の話しはこんなとこで問題ないよな?」
「大丈夫。・・・一応会社に持ち帰って先輩と相談してみるけど」
「了解。んじゃ報告待ってるな」
「よろしくお願いします」
高校の時はスポーツ万能で、
スーツなんて堅苦しいと言ってすぐに着崩してしまっていたエース君が。
・・・なんだかとてもしっかりして見える。
「そういえば弟君は元気?」
当時は弟君とよく2人でいて、また弟君も大人気だったものだから、
兄弟でファンクラブがあったほどだった。
「ああ、相変わらず手のかかる弟さ」
・・・変わらない、『お兄ちゃん』の顔。
カッコイイなあ。
「エース君も。相変わらずいいお兄ちゃんなんだね」
「・・・そっか?」
「うん。そういうところは全然変わってない」
「アコも変わってねェよな。・・・・あ、いや・・・あーその、なんだ」
「・・・・何?」
「・・・・綺麗に、なった・・・よな」
少し赤くなった頬をぽりぽりと掻きながら目線は合わさずぽつり。
そんなこと言われたら期待、しちゃう。
しちゃいけないのに。
「・・・エース君も、カッコ良くなった、よ」
もう期待しない。
もう落胆したくはない。
高校の時みたいな、あんな思いは。
『エース君好きな人居るんだって』
当時すでにエース君に片思いをしてた私は、
そんな噂を聞いて正直気が気じゃなかった。
エース君は男女関係なく友達が多かった。
でもその中でも私は仲が良かったからもしかして、なんて期待もした。
・・・その期待は、見事に打ち砕かれることになったんだけど。
『音楽のロビン先生らしいよ!』
完璧に近い大人の女の魅力に勝てる訳はなくて。
私は想いを告げることもなく高校を卒業して今に至る。
もうあんな思いはしたくないから。
もう期待なんてしない。
大丈夫。エース君と私はただの取引相手。
ただ、それだけ。
・・・・でも、ねえ。エース君。
私も今少し、あの時よりは・・・大人になったよ。
『アコってルフィが好きらしいぞ』
そんな噂を聞いたのはいつだったか。
まかさのライバルに言葉も出なかった。
それから年下が好きらしいとも聞いて、
頃合いを見計らって告白しようとしていた俺は結局そのまま卒業した。
だから再会してすぐにこうしてルフィのことを聞いてきたアコに思わず苦笑するしかなかった。
・・・・俺じゃ、ねェんだよな。
俺じゃ駄目なんだ。
何でだよ。
確かにルフィはいい奴だし可愛い弟だ。
でも俺の方がアコのことを好きだし絶対幸せにしてやれるんだ。
・・・・初めてルフィを、本気で憎く思った。
それでもその後特に何かあったとも聞いてねェから何もなかったんだろう。
・・・それでも、年下が好きっつーんなら俺に勝ち目はねェ。
ねェ、けど。
「・・・何か、懐かしいな。高校の頃が」
「だね。皆元気かなあ」
「また・・・皆で会えたらいいな」
・・・・ホントはまた2人きりで会いてェ。
言えない自分が情けない。
「とりあえずしばらくは2人だけの同窓会だね」
「え」
「先輩に聞いてこの方向で進めそうならまた話し合いしたいし・・・・」
「お、おう・・・・そうだな!じゃあ次は・・・」
そうだ、俺には仕事って繋がりがある。
またアコと会えた。
これからも2人きりで会える。
「見直し、か・・・・」
「ごめん・・・」
この間の提案を見直し、とされちまったらしい。
「いや、アコが謝ることじゃねェよ。俺の力不足だ。ごめんな」
「ううん、私も納得したんだから私にも責任はある」
「・・・共同責任、だな。よっしゃ、次は見返してやろうぜ!」
落ち込んでるアコの為にも書類とにらめっこ開始。
「やっぱりエース君カッコ良くなった」
と、突然アコがぽつり。
「ど・・・どした、急に」
「あ、ごめん。高校の時もカッコ良かったけど。・・・また、カッコ良くなった」
そう言ってふわりと微笑むアコに心臓が動き出す。
「・・・アコもな」
「え、何」
「この間言ったからもう言わねェ」
「・・・エース君、今付き合ってる人とか居るの?」
「居たらもっと仕事頑張れんだけどな」
何だこの質問は。
・・・期待、しちまう。
「あははっ、確かにね」
「アコは?居ねェの?」
「うーん、残念ながら」
・・・もし、これが運命っつーもんなら。
「・・・・アコはルフィが好きだったんだよな」
「は!?え!?」
「・・・違うのか?」
「違うよ!?私が好きだったのは・・・・っ」
「・・・・だったのは?」
「ど・・・・同級生だよ。エース君こそロビン先生とどうだったの?」
「どうって・・・ルフィにちゃんとした飯を食わせろって説教喰らってただけだけど」
「そうなの!?」
真っ赤な顔のアコ。
・・・・ルフィじゃなかったんなら誰だったんだよ。
年上好きじゃなかったんだ、とアコが何処かほっとしたように呟いた。
「なァ、アコ」
「あ、いけないもう会社戻らないと!!」
「あー・・・じゃあまた今日の夜にでも連絡する」
「ごめんね!」
俺もあとを追って店を出ようとしたら、
「雨・・・降って来ちゃった」
泣きそうな顔でアコが立ち尽くしていた。
「っても俺も傘ねェ・・・けどこれ使えよ」
「エース君のコートと帽子・・・いいの?」
俺のコートと帽子を渡した、何もないよりはマシだろ。
「ああ。風邪引くなよ」
「ありがとう、絶対返す!」
「礼なら今してくれねェ?」
「え?」
「俺、高校ん時アコに言いたかったことがあったんだ」
あの時言えなかったこと、聞いてくれよ。
「う、うん」
例え今アコに好きな奴がいても関係ねェ。
もう誰にも渡したくないんだ。
1回目の恋は終わった。
でも2回目の恋は、終わらせねェ。
「好きだ」
あースッキリした。
「って、アコ!?」
俺の長かった想いを聞いたアコは雨の中へ飛び出した。
俺の告白に対する返事は!?
慌てる俺に向けられた背中。
・・・真っ赤な耳。
ふとアコが振り返った。
「私も好き!!」
・・・・・・・・・・反則だろ。
こうして俺達の長かった片思いは終わった。