短編③
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部屋の掃除完璧。
埃1つねェ。
変なモンもない・・・・よな?
チキンライスは作ってある。
あとはアコが来たら卵で包むだけだ。
約束の時間まであと5分。
・・・・・・あー落ち着かねェ。
アコが俺の作るオムライスを食いたいと言ってくれたから。
俺の家に来る日。
・・・・家に、2人きり、っつーことは。
期待してもいいのか?
いやでも男恐怖症なアコにあんまり急には近づけねェよな。
・・・・いや待てよ。
そもそも俺とアコは今どんな関係になるんだ?
告白はしたよな俺。
・・・・でもってそれに対して返事もらってなくねェ?
・・・・・・・・・・ま、まあとにかく今はアコと2人きりになれることを喜ぶべきだよな。よし。
「・・・・・遅ェな」
真面目なアコのことだから5分くらい前には来てるんじゃないかと思ったんだけどな。
早く来ることはあっても遅れるなんてあり得るか?
・・・・まさか何かあったんじゃねェだろうな。
道に迷った?ナンパされて断れねェとか、
事故にでも遭ってたら・・・・最悪だ。
慌てて靴を履いて外に出たら、
「・・・・アコ?」
真剣に俺の家のインターホンとにらめっこしてるアコが居た。
何だもう来てたのか、とほっと肩を撫で下ろして、
「じゃ、じゃあまあ入ってくれ」
「あ・・・・・・あ、の・・・・・っ」
「き、汚い家だけど自分の家だと思って、」
家にと促せば、
「ご・・・・・・・・・・・」
「・・・・・ご?」
「ごめんなさいっ」
「・・・・・・・・・・へ?」
ごめんなさい、と言ったアコは俺の顔も見ずにそのまま俺に背を向け、俺の家とは反対方向へ走って行った。
「お・・・・おい、アコ!?」
名前を呼ぶもすでに姿はない。
・・・・・嘘だろ。
何だコレ。
エース君の家。
約束の時間10分前。
ちょ、ちょっと早いけど大丈夫かな。
やっぱり迷惑かな!?
せめて5分前じゃないと駄目だったかな、非常識かもしれない!
・・・・いやでもエース君なら大丈夫かもしれないし、駄目なら駄目でその辺で時間潰せばいいんだし。
服、おかしくないよね・・・?
ハンカチティッシュ、手土産オッケー。
最終確認してインターホンに手を伸ばした。
・・・・・あ、駄目。怖い。
手が震える。
だってここはエース君の・・・男の人の、家。
「・・・・・っ」
大丈夫、と自分に言い聞かせても早くなる鼓動と同時に息苦しくなる。
自分から行くと言っておいて。
2人がいいと言っておいて。
・・・・こんな・・・・・っ!!
「・・・・アコ?」
頭が真っ白になったところに、エース君がひょっこり顔を出した。
あ・・・・だ、駄目。顔見れない。
「じゃ、じゃあまあ入ってくれ」
「あ・・・・・・あ、の・・・・・っ」
「き、汚い家だけど自分の家だと思って、」
こんな状態で2人きりになんてなれない。
「ご・・・・・・・・・・・」
「・・・・・ご?」
「ごめんなさいっ」
「・・・・・・・・・・へ?」
叫ぶが早いか走って逃げた。
エース君なら平気って思ってた。
でも駄目だった。
・・・・・・どうしよう。
どうしたら、いいの。
家に帰って来てしまった。
・・・・最悪。
携帯にはエース君からの着信が残ってる。
謝らないと、せめて電話でだけでも!!
そう覚悟を決めた瞬間、またかかってきた。
「あ・・・・・・・も・・・もしもしっ」
『アコ?』
聞こえて来た声は優しくて。
「あ、あの・・・ごめんなさっ、私、その」
『無事家に着いたか?』
「・・・・・ごめんなさい」
『ありがとな、家まで来てくれて』
「え・・・」
『頑張ってくれたんだよな。ごめんな気づいてやれなくて』
・・・・胸が、苦しい。
さっきまでの苦しさと違う。
このままじゃ駄目。
エース君が用意してくれた食材だってきっと無駄になっちゃう。
「・・・・食べたい」
『ん?』
「オムライス・・・・食べたい。エース君の」
『・・・・でも、な』
「もう1回チャレンジしたい・・・!」
『・・・・わかった。じゃあ迎えに行ってもいいか?』
「お、お願いします!」
エース君が迎えに来てくれればインターホンの試練は問題ないし。
・・・勇気出して告白してくれたんだと思うエース君の為にも。
エース君の気持ちに応える為にも。
今日彼と2人で過ごすと決めたんだから。
あまりのショックでしばらく呆然と立ち尽くした。
・・・・やっぱ、無理させちまってたんだな。
落ち着いて考えてみりゃいきなり男と2人きりなんてそりゃ怖いに決まってる。
とりあえず無事に帰ってくれればそれでいいと思ってたが、
もう1度うちに来る、とアコは言った。
無理すんなと言いたいけど、アコだってもがいてんだろうなと思う。
・・・・してやれることがあるなら、してやりてぇよ。
「・・・・無理はしなくていいからな?」
迎えに行ったアコに問いかければしっかりと頷いた。
「ごめん、ね」
「別に・・・俺はアコの側に居られるだけで嬉しいから、気にすんな」
罪悪感からなのか、それともただ俺が怖いのか顔も見てもらえねェけど。
「・・・私、頑張りたいの」
「ああ、俺に出来ることがあるなら何でもするぜ」
「あ・・・・の!!違うからね!?」
「・・・・何が違ェの?」
「しょ、食欲の為に頑張ってるんじゃないから!え、エース君のオムライスは食べたいけど!」
それだけじゃないから!と顔を真っ赤にさせたアコは可愛い。
「任せとけって、とびきり美味いの食わせてやるよ。ほら、着いた」
「お・・・・・お邪魔、します」
深く深呼吸したアコはまるで戦場に行くかのように勇ましい顔つきで家に入った。
「麦茶でいいか?」
「お、お構いなく・・・・っ」
テーブルに麦茶を出して、キッチンで料理開始。
・・・・気になってちらりとアコの様子を見れば酷く緊張した様子で正座してる。
「・・・・ぅし」
「俺の自信作。・・・気になるなら俺他の部屋行ってっけど」
自信作、と言って出されたオムライスは美味しそう。
・・・・大丈夫、オムライスに集中すれば。
っと、その前に出されてすぐに飲み干してしまった麦茶のおかわりをもらおうとコップを手に取った。
「だ、大丈夫。・・・あの、麦茶のおかわり、いいかな」
「おーすぐ持ってく、」
そのコップに手を伸ばしたエース君と、コップを持ったままだった私の手が、触れた。
「ひゃあああっ」
「わわわ悪ィ!!!わざとじゃねェんだ!!」
「だだだだだだ大丈夫!!ごめんなさい!!」
ああ、やっぱりこんなことでこんな過剰反応してしまうなんて。
「・・・・すぐ、持ってくる」
「・・・・・ごめんなさい。私やっぱり、駄目ね」
落ち込む私の頭にぽん、と置かれた大きな手。
「あんま1人で頑張ろうとすんなよ。俺も一緒に頑張るから」
「・・・・エース君」
「2人で頑張ろうぜ。な?」
「・・・・・うん、有難う」
・・・・不思議。
怖いことも多いのに、たまにこうして心地いいとすら思う時がある。
「って悪い!!俺また・・・・っ」
顔を真っ青にして手を離したエース君は何処か可愛くて。
「・・・・私も」
「・・・・ど、どした?」
「私も好き、エース君」
「・・・・・・え」
「まだ怖いこともいっぱいあるけど。エース君と一緒に、乗り越えたい」
「・・・・アコ」
「だから一緒に・・・・食べよう?」
その方がきっと美味しいから。
「頂きます」
「・・・・やべ、緊張して味しねェ」
「あははっ、美味しいよ」
「・・・・そっか。アコが笑ってくれんなら美味いな!」
これから2人、手を繋げるようになるまでどれくらいかかるかわからないけど。
・・・・まずは最初の一歩。
エース君と2人で。
始まりの一歩。