短編③
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私だって普通に接したい。
・・・・こんな風に、怖いと思うのは辛い。
物心ついた頃から男の人が怖かった。
自分とは違う存在。
大学に入ってだいぶマシにはなってきたけど、
それでも男性と2人きりにはなれない。
・・・皆には話せてないけど。
それでも大学では皆とちょうどいい距離で付き合えてると思う。
おかげで私にも男友達が出来た。
「アコ今日飯何する?」
・・・エース君。
カッコ良くて優しくて、誰に対しても気さくで。
・・・モテる、男の子。
大学に入って出来た初めての男の子の友達。
こんなに優しく話しかけてくれてるのに、
隣にロビンちゃんが居てくれなかったらたぶん逃げてた。
ロビンちゃんには私が男性恐怖症っていうことは早々に気づかれてたから話してある。
「私たちはオムライスの予定よ、ね、アコ?」
「う、うん・・・」
笑ってみせるけど私本当に笑えてる?
おかしくないかな、馬鹿にしてるって思われてないかな、とたまに不安になる。
「じゃ俺もオムライス食うかな」
私に態度をたいして気にした風でもないエース君にほっとして一緒にご飯を食べた。
何気ない日常の会話。
「アコってオムライス好きだよな」
「え、うん。・・・・好き」
「俺オムライスの美味い店知ってんだ、今度行かねェ?」
思わぬお誘いに真っ先にロビンちゃんに視線を向けた。
助けてロビンちゃん・・・!!
「いいわね、皆で行きましょう」
さすがロビンちゃん、そつのない笑顔で私の望み通りの対応してくれた。
感謝。
「・・・・おう、そーだな」
優しいエース君。
・・・・・男の子だけど、素敵な人だなって思う。
嫌わてれるって訳じゃねェと思う。
・・・・思いたいだけだろって言われたらそれまでなんだけどよ。
・・・アコとは、仲が良い方だと思ってる。
そんでも出来ればもっと近づきたい。
でも何かこう、うまくいかないんだよな。
もっとアコと話したい。
もっと・・・知りたい。
「あら美味しい」
「だろ?・・・アコは、どうだ?」
「・・・美味しい」
嬉しそうなアコに内心ほっとした。
ホントは・・・2人で来たかったんだけど仕方ねェ。
この笑顔が見れただけでも良いか。
・・・ホントはうちに呼んで俺が作って食わせてみたい。
オムライスなら俺だって自信ある。
でもいきなり家に呼ぶのはなァ。
正直この関係を壊すのは怖い。
・・・・が、
「俺美味い店たくさん知ってんだ、また行こうぜ」
「詳しいんだ、すごいね」
「食い物に関しては任せとけって。嫌いなものあっても俺が食ってやるし」
「私結構好き嫌いあるよ?」
「俺はほとんどねェ」
「あははっ、頼りにしてます」
・・・胸が締め付けられる。
やべェ・・・好きだ。
それから2人きりにはなれなかったものの、
皆で飯に行ったり出掛けたりした。
アコも楽しそうで、
少しずつアコとも距離を縮めていけたと思ってた。
そんな時だった。
「アコって男性恐怖症なんだってよ」
友人の1人であるサッチから衝撃の言葉。
「・・・・ま・・・・じ、で?」
じゃあ今まで俺は・・・アコにずっと無理させてたってことか・・・?
あの笑顔も、本当は。
・・・・っ、本当は俺のことずっと怖かった、のかよ。
「あ、本人。聞いてみるか?」
「っ、やめろよ」
「でもほら、マジだったら怖くないって俺が教えてあげられるし?」
「・・・・手ェ出すな」
「おー怖ェ。そんな顔だと余計に怖がられるよ、エース君」
「・・・・うっせェ」
それからアコを見かける度に、声をかけようとして、ためらっちまう。
声が、出ない。
身体も動かない。
・・・・アコ。
名前を呼びてェのに。
「あ・・・・お・・・・あー・・・・・」
アコが目の前に来ると、どうしても挙動不審になっちまう。
アコもアコで、
「あ、ロビンちゃん明日の休みなんだけど・・・」
・・・話しかけてもくれねェ。
いや、当然か。
・・・アコは俺が怖いんだもんな。
でもこのままじゃ何も進まねェ。
アコが相手にしてるのが女ばっかってのが不幸中の幸い、か。
ってそのせいで俺話しかけられないんじゃねェか。
・・・話せないなら。
いや、話せなくてもせめて近くに居たい。
帰りの電車、いつもの仲間と。
・・・背中越しの、アコ。
このまま、手を繋げたら。
・・・・・・・あーくそっ、出来ねェっての!!
・・・泣かせたくは、ねェもんな。
帰りの電車。
いつものメンバー。
だけど今日はエース君は私の後ろ。
・・・・何か最近話しかけてくれなくなった。
たまに話しかけてくれても、何処か素っ気ないような気がする。
・・・私は何かしてしまったのだろうかと聞きたくても、
やっぱり怖いと思ってしまう。
身体が強張る。
電車が揺れて触れた背中。
伝わるのはエース君の温かい体温。
・・・そして、私とは違う筋肉質な身体。
不意に見えた手は大きくて。
私とは・・・女の子とは違う。
そんな当たり前のことに恐怖を感じてしまって、やっぱり動けなくなる。
「アコ、危ねェ」
「え」
ぐっと手を引かれた瞬間がたん、と強く電車が揺れた。
・・・思ってた通りの、ごつくて大きい手。
「あ。わわわ、悪ィっ」
「・・・あり、がとう」
・・・助けてくれた。
男の人、でも。
嫌じゃなかった。
怖くなかった。
・・・・これはきっと特別な、気持ち。
握った手は思ってた通りに小さくて。
柔らかくて、簡単に潰しちまいそうで。
・・・ますます、好きになっちまった。
「・・・アコ」
「・・・なあに?」
「・・・何でもねェ」
「そっか」
・・・・心臓が、壊れちまいそうだ。
ふと、たくさんの人たちに囲まれてるエース君を見て思う。
・・・この人は、きっと私なんかが好きになってはいけない人なんだと。
その気持ちに拍車がかかったのは、
「アコちゃんて男恐怖症なんだって?お前仲いいのにな、エース」
「・・・ああ」
なんて会話を聞いてしまったから。
きっと面倒な女だなって思ったよね。
「よ・・・よぉアコ、飯行かねェ?」
「・・・ごめんなさい、食欲がないの」
「そ、そっか。なら仕方ないよな!」
「・・・ごめんね」
ごめんね、好きになってしまって。
ごめんね、が痛ェ。
・・・なんか、いつも以上に素っ気ないよな。
目も合わせてもらえねェ。
これがサボならもっと上手く関われたんだろうな。
アイツ器用だからな・・・。
こんな不器用な俺じゃ笑わせるどころか、
上手く関われもしねェ。
俺・・・・嫌われたか?
いやいや、元々マイナスからのスタートだろ?
これ以上マイナスになることはねェ・・・よな?
・・・いやでも。
「・・・・アコ」
近くで名前を呼んでみても反応はない。
・・・・見てもくれないんだ。
アコ、アコ。
・・・・なぁ、アコ。
・・・・・・・・・・・好きだ。
「じゃあ皆、またね」
「アコ、い・・・今・・・ちょっといいい・・・か?」
「な・・・・・・・なに?」
真っ直ぐに、私を見つめて来るエース君。
見ないように、もう関わらないようにって決めたのに。
・・・見つめたくなる。
「こっ、今度・・・俺の家・・・じゃなくて・・・っあー飯・・・・でもなくて」
「・・・・用がないなら私、」
「・・・・っ、好きだ」
その言葉が耳に届いてこれは夢かと思った。
「な、に・・・言って」
私は男性恐怖症で、エース君もそれを知ってて。
・・・・なのに、そんな。
こんなことあるはずない。
「アコが・・・その、男が怖いっつーのは・・・知ってる」
「じゃあ、なんで」
「・・・恋人になれるとは思ってねェよ。怖がらせたくもない」
ただ好きだって伝えたかっただけだ。
夕陽に負けないくらいの真っ赤な顔のエース君がそう言って笑った。
・・・・・今、出さずにいつ出すの私。
勇気。
出すんだ。
「・・・・・・エース君、食べ物詳しいよね」
「え、ま・・・まぁな」
「・・・料理、好き?」
「得意料理はオムライスだ」
「・・・・今度、食べて見たい」
「ほっホントか!?じゃあ・・・あ、あれだなロビンとかの都合聞いて、」
「やだ」
「やだ!?」
「・・・・2人が、いい」
こんなにも優しい人を信じないなんて。
私は馬鹿だ。
でも、
「・・・それ、俺がずっと言いたかった」
何処か嬉しそうな拗ねたようなエース君もきっと。
私と同じように不器用で。
これからも不器用なりにゆっくり前に進んでいくんだろうな、と思った。