短編③
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今でもすぐに思い出せる。
『おとうさん・・・おかあさん』
目の前で動かなくなった、父と母。
残された私、1人。
どうして、何でと何回も呟いた。
小さかった私に知らされた情報は少なかった。
両親は殺し屋に殺されたのだということ。
エース、と言う男らしいということ。
・・・それだけだった。
私は引き取られた人たちに守られながら、色んな武術や技術、知識を学び。
・・・・私は、殺し屋になった。
「ポートガスDエース?」
「お前の親を殺した張本人、という噂だ。・・・やれるな?」
「・・・・はい、勿論」
ずっと思ってた。
あの日から・・・必ず両親の復讐をすると。
ライバル組織に居るという殺し屋の1人。
ポートガスDエース。
・・・・私の、敵。
ずっと会いたかった。
「よろしくな!アコ!」
職業に相応しくない爽やかな笑み。
「・・・よろしく」
・・・・こいつが、私の両親を。
許さない、絶対に。
今回のターゲットは政治家、と聞いている。
・・・なんだけど。
「・・・お酒に毒でも仕込んだの?」
よくある居酒屋で彼は何もしようとしない。
「いや、そんなことしてねェよ」
「でも・・・じゃあ、どうやって」
「ま、飯でも食おうぜ」
「そんな悠長な、」
「ほらこれ美味ェぞ」
突き出して来た唐揚げ。
あーん、とまるでカップルのよう。
「・・・・ん」
「な?美味ェだろ?」
「・・・美味しいけど」
「今日の俺らの役目は観察と報告」
「観察と報告?」
「依頼を受けるかどうかの下調べ」
「まだ受けてないの?」
「当たり前だろ?人1人の命だぜ?」
そう簡単に承諾出来ねェよ、とエースが苦笑した。
・・・・何か。
思ってたのと、少し違う。
そんな私の違和感は段々と確信に変わって行く。
「アコ、美味い飯屋開拓したんだ、行こうぜ」
「また?」
「新しいターゲットの行きつけの店。すげェ美味かった!」
「食べ過ぎると太るよ」
「平気だって、その分動くし」
・・・エースは、よく笑う。
よく食べて。
私の隣で楽しそう。
「銃よりナイフの方が有利な場合もあるんだぜ」
「銃は撃つまでに時間もかかるものね」
「近距離の場合は特にな」
「・・・エースは、どっちが得意なの?」
両親の死因は、銃殺だった。
「俺は・・・」
気になるエースの答えは。
「・・・どっち?」
「・・・どっちかっつったらナイフだな」
「・・・そう、なの?」
「銃の手入れとか苦手なんだよな」
「・・・ふーん」
・・・・何処か、ほっとしてる自分がいた。
「ま、銃もナイフも向ける相手を間違えたら大変なことになる。あんま使いたくねェよな」
・・・なんて、殺し屋らしくないことを言う。
「・・・間違えたこと、あるの?」
「・・・ん、1回だけな」
もしかして、それが。
静かな殺意を気取られないように隠して、
「誰?」
と聞いてみれば、
「身内。敵に騙されてただけだったんだけどな」
と寂しそうに笑った。
本当にこの人が両親を殺したのだろうか。
こんな風に寂しそうに笑う人が。
「そうだ、これアコにやるよ」
「・・・チョコ?」
「甘いのは身体にも心にもいいんだぜ」
「それは・・・そうかもしれないけど」
「最近発売されたやつ。すっげェ美味いから食ってみろよ」
俺のお墨付きだからな、なんて本当に楽しそうに笑う。
・・・彼が、犯人?
「・・・美味しい」
チョコを齧れば程よい甘さが口に広がって。
・・・心が、あたたかくなる。
「だろ?」
今まで復讐する為、それだけを考えて生きて来たから・・・チョコとか、食べたこと、なかった。
1度や2度はあったような気もするけど。
・・・こんなに美味しかったと思ったことはない。
「・・・有難う、エース」
私の言葉に少し照れくさそうに笑って、
顔を赤くするエースを、私は好きだなと思った。
「アコ」
時折、彼の私を呼ぶ声に熱を感じる。
自意識過剰、そう自分に言い聞かせても。
心臓の鼓動が止まらない。
そんな時だった。
「俺、アコのことが好きだ」
そう言って私の手を取ったエース。
・・・真っ赤な、顔。
私の心を射止める、真剣な瞳。
・・・・でも、私は。
まだ駄目。
まだエースが私の家族を殺してないという確証がないもの。
・・・YESの返事は、出来ない。
「私たちは・・・ただの同僚でしょ」
「・・・そっか、悪ィ」
痛々しい、そんな言葉がぴったりの笑みを浮かべてエースが背を向けた。
駄目だよエース・・・私に背を向けるなんて。
私はエースを殺すかもしれないのに。
・・・駄目だよエース。
エースがまだ犯人かもしれない、のに。
・・・私涙が止まらないの。
チャンスはいくらでもあるだろう、
さっさとやって戻って来い。
そんな命令が下った。
・・・私が、エースを?
やらないと。
わかってるのに。
『銃もナイフも向ける相手を間違えたら大変なことになる。あんま使いたくねェよな』
エースのこの言葉が脳内で繰り返される。
間違い、だったら。
エースじゃなかったら。
そう思ったら。
・・・・ううん、例えエースが犯人だったとしても。
私はエースに銃を・・・ナイフを、向けられるだろうか。
でもそれは早くに両親を亡くし引き取って、
育ててくれた組織を裏切ることになる。
・・・あれからエースとあんまり話してない。
今まで見せてくれてた笑顔も、見れてない。
それがこんなに苦しいなんて。
「なーんか悩み事?」
軽く声をかけてきたのは、この組織の幹部の1人、サッチ。
「サッチ、さん」
女性から情報を得るのに重宝されてると聞いてる。
・・・まさか私のことがバレた?
確かこの人はこの組織のボスの右腕と呼ばれるマルコとも仲が良かったはず。
・・・マルコから疑われているのは知ってたから、これは仕方のないことかもしれない。
「エースのこと、好きなんだろ?」
「へ?」
思っても見なかった言葉に間抜けな声が出た。
「エースが落ち込んじゃっててさァ、見てらんねェわ俺っち」
「それ、は・・・」
「と思ってたらこっちもじゃん?若い2人を放ってはおけねえよ」
「・・・私は、別に」
敵の人間と・・・しかもターゲットと恋人に、なんて。
「もしかしてロミオとジュリエットみたい、とか思ってんなら全然違うからな?」
「・・・・どういう」
「悪いけど全部調べさせてもらったんだわ」
「な・・・・・・っ」
頭が真っ白になった私に聞かされたのは衝撃の事実だった。
「エース!!」
次に会った時エースは仕事を終えた後で、
服に血が付いていた。
「アコ・・・」
「怪我してるの!?大丈夫!?」
「ああ、これ俺の血じゃねェから平気だ」
「ほんとに・・・?」
「ごめんな」
エースは短くそう呟くと私を抱きしめた。
「・・・エース?」
名前を呼ぶしか出来ない、私。
「アコの帰る場所、潰して来た」
「・・・・うん」
「やっぱ諦めきれねェ、アコを俺のにしたかったんだ、だから」
小さく絞り出すような声。
「・・・違うでしょ」
「・・・え?」
「私の代わりに復讐、してくれたんでしょ」
「・・・聞いたのか?」
「・・・聞いた、全部」
私の両親を殺した本当の犯人。
・・・両親亡きあと私を育ててくれてた人達だったと。
殺し屋の素質があると見抜き、
今の組織に私を高く売る為に、反対していた両親を殺したと。
・・・そしてその組織を、エースが今潰しに行った。
サッチさんからそう告げられた。
証拠であるボイスレコーダーも聞かせてもらった。
「今まで・・・辛い思いさせて、ごめんな」
何でエースが謝るの。
そんな言葉すら出て来なくて、
代わりに出て来たのは涙。
「・・・・っ、エース・・・・っ、エース・・・・!」
ぎゅ、と腕に込められた力。
「・・・諦めたくねェのは嘘じゃねェ。まだ好きだって言っても・・・いいか?」
「私も・・・好き」
たくさんごめんなさいを伝えて。
たくさんの好きを伝えて。
その後私とエースが、
殺し屋として最強の夫婦、と呼ばれたとか。
裏切りの果て。
その先にたくさんの幸せがきっと待ってる。
エース視点
↓
↓
↓
↓
↓
「新人?」
「ああ、明日からだよい。歳も近い、お前が面倒見てやれ」
「了解」
新人の女が入って来る、とマルコが報告に来た。
女は正直面倒だ。
特にこの仕事だ、やり方にいちいち口出されたくねェ、と思うもののマルコから頼まれちゃ仕方ない。
名前はアコだ、本名かどうかはわからないが、とマルコは言う。
マルコは去り際に、
「それとその女もしかしたら・・・・・いや、何でもねェ」
・・・何かを言おうとして口を閉じた。
何かあるのか?
・・・まあ、こんな仕事だ、何もない方が珍しいか。
「アコです」
とだけ言ってじっと見つめて来た女に表情はない。
「俺はエース」
「・・・・エース」
「よろしくな!アコ!」
「・・・よろしく」
何はともあれ2人での初仕事だ。
「早速だけど、行動開始だ。マルコから聞いてるよな?」
「いつでも動けるわ」
「よし、んじゃ行こうぜ」
「・・・お酒に毒でも仕込んだの?」
困惑した顔のアコに思わず苦笑した。
「いや、そんなことしてねェよ」
「でも・・・じゃあ、どうやって」
「ま、飯でも食おうぜ」
「そんな悠長な、」
「ほらこれ美味ェぞ」
まだ文句を言いたげなアコの口に唐揚げを無理やりツッコめば、
「・・・・ん」
「な?美味ェだろ?」
「・・・美味しいけど」
少しだけ顔を赤くして頷いたアコに笑った。
「今日の俺らの役目は観察と報告」
「観察と報告?」
「依頼を受けるかどうかの下調べ」
「まだ受けてないの?」
「当たり前だろ?人1人の命だぜ?」
そう簡単に承諾出来ねェよ、と言えばアコは何故か何処か泣きそうに見えた。
この唐揚げを美味いって言ってくれたアコなら大丈夫そうだな。
また美味い店見つけたら連れて来てやろう、と思いながらターゲットから視線は外さない。
「やべェアコ、俺にこいつ食わせてくれ」
「え?」
「ん」
「え、あ、あーん・・・?」
「・・・・ん。美味ェ!」
唐揚げを頬張ったところに横をターゲットが通った。
「・・・恋人のフリ?」
「正解。その為の俺とアコだからな」
「なるほどね・・・」
「っても嫌なことは無理にする必要はねェからな。よし、俺達も行くか」
「りょ、了解・・・」
・・・・アコの顔、真っ赤。
意外と・・・可愛いんだな。
「アコ、美味い飯屋開拓したんだ、行こうぜ」
「また?」
「新しいターゲットの行きつけの店。すげェ美味かった!」
「食べ過ぎると太るよ」
「平気だって、その分動くし」
俺が笑うとアコも笑う。
・・・笑うと、可愛い。
「相性は悪くないみたいだねい」
「アコはいい奴だぜ、マルコ」
「・・・・寝首をかかれないように気を付けろい」
「・・・・何言ってんだ、マルコ」
「忠告はしたよい」
「・・・どういうことだよ」
「今調べさせてる。結果次第では・・・」
「・・・・・っ」
最後まで聞きたくなくて背を向けた。
・・・・アコ。
「銃よりナイフの方が有利な場合もあるんだぜ」
「銃は撃つまでに時間もかかるものね」
「近距離の場合は特にな」
「・・・エースは、どっちが得意なの?」
「俺は・・・」
「・・・どっち?」
真剣な目で俺を見て来る。
・・・どんな気持ちで、俺を見てるんだろうな。
「・・・どっちかっつったらナイフだな」
「・・・そう、なの?」
「銃の手入れとか苦手なんだよな」
「・・・ふーん」
エースらしいね、とアコがほっとしたように笑ったので俺も肩を撫で下ろした。
「ま、銃もナイフも向ける相手を間違えたら大変なことになる。あんま使いたくねェよな」
「・・・間違えたこと、あるの?」
安堵したのも一瞬。
ピンと空気が張り詰めた。
「・・・ん、1回だけな」
僅かな殺意を感じながら、
「誰?」
「身内。敵に騙されてただけだったんだけどな」
嘘はつかない。
・・・この言葉を聞いて、アコがどう思うか。
それはわからねェけど。
「そうだ、これアコにやるよ」
少し暗い話しになっちまったな、と反省して、
アコに笑顔になって欲しくてポケットに入れておいたものを渡した。
「・・・チョコ?」
「甘いのは身体にも心にもいいんだぜ」
「それは・・・そうかもしれないけど」
「最近発売されたやつ。すっげェ美味いから食ってみろよ」
俺のお墨付きだからなと渡せば、ふわりと微笑んでチョコを受け取ってくれた。
アコも気に入ってくれたらいいと思った。
「・・・美味しい」
・・・やっぱ、笑った顔が好きだ。
「だろ?」
「・・・有難う、エース」
・・・例えアコが俺のことを憎んで生きて来たのだとしても。
例えアコが俺のことを殺そうとしているのだとしても。
俺は絶対にアコを守る。
・・・・アコの、笑顔を。
「俺、アコのことが好きだ」
アコのことが好きだと気づいちまったっからには。
口にせずにはいられなかった。
アコも最近良く笑ってくれるし、
俺にだけは心を開いてくれてるように見えたから。
・・・恋人になりたいと、思った。
アコの答えは、
「私たちは・・・ただの同僚でしょ」
・・・冷たかった。
「・・・そっか、悪ィ」
駄目だな俺は。
守りてェのに傷つけちまった。
自分の気持ちを押し付けて。
アコが気に病まないように笑ってアコのもとを去った。
・・・あと俺がアコにしてやれることは1つだ。
『アコはお前の命を狙ってるよい』
『・・・それは絶対アコの意思じゃねェ』
『・・・聞く覚悟は、あるかい?』
『おう』
俺はもう、間違えたりしない。
「・・・・たのもー」
ここがアコの思い出の場所。
「お前は・・・っポートガスDエース!?」
「くそっ、あいつ失敗したのか!」
「まあいい、どうせ捨て駒だ」
・・・・そんでこいつらが、アコの幸せを奪った屑。
「あーお前らの汚ェ命、頂きにきました、っと」
さて。
・・・俺はどうあってもアコには好かれねェなこれじゃ。
でもいいんだ、これで。
「エース!!」
流石に1人で1つの組織を潰すのは骨が折れた。
へとへとで帰りつけばアコが心配そうに俺の名前を呼ぶ。
・・・なんか、久しぶりに顔見た気がすんな。
「アコ・・・」
「怪我してるの!?大丈夫!?」
「ああ、これ俺の血じゃねェから平気だ」
「ほんとに・・・?」
「ごめんな」
お前の思い出の場所を壊したこと。
・・・我慢出来ずに返り血のついた服で抱きしめちまうこと。
「・・・エース?」
「アコの帰る場所、潰して来た」
「・・・・うん」
「やっぱ諦めきれねェ、アコを俺のにしたかったんだ、だから」
だから、俺のことは嫌いでいいから。
ここで、幸せになって欲しい。
1人の女として。笑ってて欲しい。
「・・・違うでしょ」
「・・・え?」
「私の代わりに復讐、してくれたんでしょ」
「・・・聞いたのか?」
「・・・聞いた、全部」
・・・マルコ、いやサッチか。
言わなくて良かったのによ。
「今まで・・・辛い思いさせて、ごめんな」
背負うのは全部俺だけで良かったのに。
「・・・・っ、エース・・・・っ、エース・・・・!」
ぎゅ、と腕に力を込める。
・・・期待、しちまってもいいのか?
「・・・諦めたくねェのは嘘じゃねェ。まだ好きだって言っても・・・いいか?」
「私も・・・好き」
聞きたかった言葉は、見たかった笑顔と共に。
その後俺とアコが、
殺し屋として最強の夫婦、と呼ばれたとか。
・・・ずっと、一緒だ。