短編③
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「うげ」
・・・・・やっちゃった。
ちょっと思いついたのでサッチさんの了解を得てキッチンを借りて、
新作レシピを試してみようと思った。
でも作ってるうちにあれも入れてみようかこれもどうだろう、なんて色々入れてるうちに。
「・・・・・まずいわ」
失敗した。
色々混ぜ過ぎて美味しくなくなった。
最初に考えてた通りに作ってたら美味しくなってたかもしれないのに。
エース呼ばなくて良かった。
さすがのエースでもこれは食べられないだろうし。
食材無駄にするなんてサッチさんに怒られちゃうなぁ。
あ、でも卵で混ぜて焼いちゃえば食べれるかな?
私の明日の朝ごはんにしようか。
・・・・するしかないもんね。
反省してしばらく新作レシピはやめておこう。
これは冷蔵庫に入れておこう、とラップを手に取った瞬間。
横で何かが動いたのが見えて、
「え、」
「俺を出し抜こうなんざ100年早ェ」
にィ、と笑ったエースが居た。
「あ。・・・・ああああ!!エース食べちゃったの!?」
エースは今まさにラップをかけようとしていた私の失敗作を口に入れてもぐもぐと咀嚼していた。
・・・・ああ、なんてこと。
「食ったらまずかったか?」
「まずいでしょ!?」
慌てる私とは正反対にエースはきょとん。
「誰かに食わせるもんだったのか!?」
ああっ噛み合ってない!!
「違う・・・っその、料理」
エースに不味いものを食べさせてしまった。
そのショックで頭が真っ白。
「なっ泣くなよ!?」
「泣いてないよ・・・・っ」
「・・・・んな泣きそうな顔、すんなよアコ。俺が悪かった」
エースは気まずさそうに謝ってくれた。
こんな優しいエースに私は・・・・っ!!
・・・・・・・・・・・あれ?
「あれ、エース?」
「・・・・何だよ」
「食べたのに」
「食ったのに?」
「吐かないの?」
「はァ?」
「それに嫌な顔もしてないし」
「・・・何で嫌な顔するんだよ」
あんな不味いものを食べたのに普通の顔してる。
「今食べたの・・・美味しくなかったでしょ?」
「まずいって味のことか?別に不味くねェけどな?」
「・・・・・・そうなの?」
そんなはずは、と再び自分で作った失敗作に手を伸ばした。
改めて味わってみるけど。
「不味い!美味しくないよこれ」
やっぱり美味しくない。
でもエースは、
「そっか?普通に美味いぜ」
・・・・・・今まで気づかなかったけど。
エースの味覚って。
変、なんじゃ。
そしたら今まで私が作ったものを美味しい美味しいと食べてくれてたエースって・・・!!
「良かったじゃん美味いって言ってもらえたんなら」
ってサッチさんは言うけど。
「だって今まで私が作ったものも美味しくなかったのかも・・・・」
「何もエースだけが食ってた訳じゃないっしょ?俺食って不味かったことないし」
「でも何かショックで」
「いやいくらエースでも美味い不味いくらいはわかるだろうし」
「でも昨日のは絶対不味かったのに」
「エースには美味かったんならそれでいいと思うけどなー。まぁ気持ちはわからなくもないけど」
「・・・・・・エースの味覚が変なのか私の味覚が変なのか」
「体調で味覚が変わることもあるし」
「そう、ですけど」
確かにエースが笑顔で美味いと食べてくれるのは嬉しい。
・・・・・でも、自信作を美味しいと言ってくれるならまだしも。
失敗作を美味しいって食べられても複雑。
「とりあえずそろそろ夕飯の準備な」
「はーい」
今日の夕飯はまあまあの出来。
これをエースが食べたらなんて言うかなぁ。
気になりながらも厨房が忙しくて、
自分の夕飯を食べれる時にはエースはもう食堂には居なかった。
・・・・好きなんだけどな。
エースの、美味いって言ってくれるあの笑顔が。
ああ、今日のはまあまあなお味のはずなのに何だかあまり美味しくない。
お箸も進まない。
「アコ、食わねェの?」
「へ?」
「食わないんなら俺貰ってもいいか?」
「えっエース!?いつの間に・・・!?」
いつの間にか隣にエースが座ってた。
「さっき来た。食欲ねェのか?」
「あー・・・・・うん」
「具合悪いのか?船医呼んでくるか?」
「あ、ううん。そこまでじゃない」
「そっか」
エースは納得したように頷いてから私の持て余してたサラダをぱくり。
「・・・・・美味しい?」
「ああ、美味ェ」
にし、と嬉しそうな笑み。
・・・それだけで仕事の疲れも吹っ飛ぶ。
「なぁ、明日の朝は何作るんだ?」
「スープ」
「へへっ、楽しみだな」
「・・・・美味しく作れるかなぁ」
「大丈夫だろ、今まで不味かったことなんてねェし」
・・・・思い切って聞いてみよう。
「エースの味覚って変だって言われたことない?」
「あ?・・・・あーねェな」
「でもエースって何でも美味しいって言うよね?」
「何でも美味ェからな」
「・・・でも昨日のは私には不味かった」
なのにエースは美味しいって言う。
「そんなの気にしてんの?」
「・・・・してるよ」
料理人だもん。
「俺だって不味いモンくらいわかるからな」
エースが苦笑する。
「でも昨日の美味しいって言ったし」
するとエースが、意味ありげな笑みを浮かべた。
「知りたいか?」
「・・・・・何を?」
「俺が全部美味いって言う理由」
「・・・・・美味しいって思うからじゃないの?」
「じゃあその美味いって思う理由」
「ロクなもの食べてきてないから?」
思いついたことを言ってみた。
「失礼だなおい」
だって他に理由なんて、わからない。
「えー・・・・・・じゃあ何?」
私の問いにエースは何故か私の肩をがし、と掴んだ。
「こういうことだよ」
そう言って私を自身の方にぐっと引き寄せる。
・・・・・・いやいやどういうことよ。
「あ、家族と一緒に食べれば何でも美味しいってこと?」
「違ェよ」
更に顔が近づいた。
「・・・文句言ったら怒られそうだから?」
「違う」
更に顔が近づいて、さすがにドキッとした。
エースのそばかすが間近に見えて。
「エース、ちょっと離れ、」
さすがに近いと口を開いた瞬間。
エースの唇と私の唇が、重なった。
・・・・・言わんこっちゃない!!
こんなに近かったらちょっと動けばこうなると思ってた・・・・っ!!
「今のが答えな」
「・・・・・・・え!?」
近すぎてくっつくのが答え!?
「・・・・え、ええっと」
答えと言われてもわからない私にエースが呆れたようにため息を吐いた。
そして顔を真っ赤にして立ち上がり、
「好きな奴が作るモンは全部美味いんだよ」
エースにしては珍しく小声でそう言って速足で去って行った。
・・・・・・・・・・・・え?
「まままままっ、待ってエースもう1回言って!!」
恋は味覚をも変えるのか。