短編③
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部屋が空いてて良かった。
心底そう思った。
実家とか友達の家じゃ今までの経験から絶対バレると踏んで、
急遽近くもなくさほど遠くもないビジネスホテルに部屋を取った。
ここならきっとシャンクスにバレることはない。
・・・・彼の為にも、私の為にも。
しばらく私はここに居た方がいい。
今回はいつもの喧嘩じゃなかった。
・・・いつもなら、
シャンクスとなら喧嘩しても次の日には仲直り出来てた。
結婚前からずっとそうだったのに。
お互いに自然とごめんなさい、って謝れて。
・・・なのに今回は、あんな嫌味を言うなんて。
『どうせスーパーの惣菜だろう?』
用意していた夕飯が無駄になった夜のこと。
突然の飲み会が入ったと言って遅く帰って来て、
明日の朝ごはんにする?と聞いた私にシャンクスが放った言葉。
信じられなかった。
こんな人なんて思わなかった。
次の日私はシャンクスの朝食もお弁当も用意せず、
見送ることもせず黙って荷物をまとめて出て来た。
1人静かな部屋。
・・・・綺麗だなあ。
流石ホテル。
急遽だったけどいい部屋。
ここに居れば掃除をすることも洗濯をすることも、料理も片付けも何もしなくていい。
シャンクスにも頭を冷やして欲しいけど、
私も頭を冷やさないと。
・・・携帯を見れば物凄い数の着信とメッセージ。
でもそれも、次の日になればなくなった。
まずアコの実家に連絡を入れた。
庇ってる様子はなく純粋に行方を知らないようで、礼を言って切った。
それから思いつく限りアコの友人にも聞いてみたが、知らないと言われた。
・・・・本人には勿論連絡を取ろうと試みてはいるが、
返事は期待出来なさそうだ。
結婚してまだ間もない。
・・・1人になりたい時もあるんだろう、と結論付けた。
落ちつけばそのうち戻って来るだろう。
無事で居てくれればそれでいい。
何かあればうちに連絡もあるはずだ。
・・・・と、余裕だったのは1日だけ。
2日過ぎて家に帰ってもアコが居ない現実が、俺を焦らせた。
まだ怒ってるのか?
このまま帰って来なかったら。
・・・彼女の身に何か、あったのだとしたら。
アコの居ない家に価値なんかねェ。
「よう、今日どうだい帰りに一杯」
「いや、やめておく」
酒を美味いとも思えない。
コンビニで買ったツマミも喉を通らない。
同僚のヤソップの誘いにはとてもじゃないが乗る気にはなれなかった。
「なんだァ、まだ嫁さん怒ってんのか?」
「・・・帰って来ないんだ。連絡もつかねェ」
「新婚早々離婚の危機か?喧嘩してもすぐ仲直り出来るんじゃなかったか」
「そう思って甘えちまったんだ」
「・・・ま、帰ってきたら謝り倒すんだな」
「ああ、そうする」
どうせまたすぐに仲直り出来る。
いつもの俺達に戻れる。
・・・すぐ、帰って来る。
そんな甘さがあった。
それでアコを傷つけた。
もう何回目になるかわからないが縋る思いでアコの携帯に連絡を入れるも、
留守番電話に切り替わる。
「・・・・無事でいてくれてるか?アコ。帰ってきてくれ、頼む」
顔が見たい。
声が聞きたい。
・・・・笑って、いてほしい。
俺の前で。
アコが出て行って3日目の夜。
今日も暗い家に帰ることになると覚悟を決めていた俺の目に灯り。
「・・・アコ?アコ!!」
鍵の開いたドア。
明かりがついている部屋。
醤油のいい匂い、包丁の音。
「・・・おかえり、シャンクス」
「・・・帰って来て、くれたのか・・・アコ・・・・」
少し困ったような、アコの笑み。
「・・・・部屋、思ってたより綺麗でびっくりした」
「今までアコに甘えてた自分を恥じたよ。すまなかった、本当に」
深く頭を下げれば、
「私も楽してお惣菜買ったり・・・頑張れてなかったね、ごめんなさい」
「いや、それは・・・・だな」
「・・・・なに?」
「・・・惣菜でもいいんだ、アコが大変なのも理解してる。楽ならそれで構わないと思ってる」
「でも、」
「ただ・・・アコの手料理が好きなんだ。特に飲んで帰った後はアコの味がいい」
それで我が儘を言った。
「そう、だったの・・・」
「これからは早めに連絡を入れるようにする。飲みにも頻繁には行かない。約束する」
「私も家事頑張る。約束」
「洗濯や掃除は手を抜いてくれて構わねェさ、俺もやれるときはやる、言ってくれ」
そして仲直りのキス。
重なった唇は、たった3日しか離れてなかったのに懐かしく、愛おしい。
「・・・今まで、ビジネスホテルに泊まってたの」
「気分転換出来たか?」
「ううん。洗濯も掃除もしなくていいのに寂しかった」
ちゅ、と柔らかい頬に口付ける。
くすぐったそうに笑うアコは幻じゃなく今確かにここに居る。
「無事で良かった、アコ」
「有難うシャンクス」
再び重なった唇を深く味わう。
それからそっと抱き寄せれば、
「シャンクス、駄目」
とお預けを喰らった。
「・・・まだ怒ってるのか・・・?」
キスは拒まれなかったんだが、と疑問に思えば、
「・・・煮物、吹きこぼれちゃう」
と後ろの鍋を指さした。
「だっはっは、それもそうだ。あとでたっぷり堪能させてくれるか?」
「あとでね」
それからもう1度だけ唇を重ねて、
久しぶりに2人で食事を楽しんだ。
もう2度と、こんな思いはごめんだ。
エースver
↓
↓
↓
↓
↓
↓
もう謝ってなんかあげない。
今回ばかりは、絶対に私は悪くない。
前から泊まってみたいと思ってたホテルの一室。
綺麗な部屋に鞄を乱暴に置いて、
携帯の電源を落とした。
きっとエースは気づかない。
私がホテルに泊まってるなんて。
・・・・新婚早々まさかこんなことになるなんて思わなかったけど。
恋人の頃から喧嘩は良くしてたけど。
だいたい私が折れてた。
だってエースからは謝ってくれることなんてほぼないし。
・・・・それでも、私が謝ればエースも謝ってくれたし、
私が謝るのだってちゃんと私も悪かったなって思ってのこと。
きっとこれからもそんな風に生きていくんだって思ってた。
でも今回ばかりは。
私からは謝れない。
絶対。
もういい、と家を出て来たはいいけど実家やよく行く友達の家じゃエースが探しに来るのは明白。
だからホテルに来た。
久しぶりの1人。
いっそサボ君のとこにでも行こうかと思ったけど火に油を注ぐだけだからやめておいた。
・・・・元々、注いだのはエースだけど。
『本当は俺よりサボの方が良かったんだろ』
なんて。
・・・・馬鹿エース。
「馬鹿エース!」
そう叫んで家から出て行ったアコはまだ戻らねェ。
何だよアイツ。
・・・・俺は、悪くねェ。
アコが、サボがサボがってサボの話しばっかすっから。
結婚したのは俺なのに。
・・・俺の、アコなのに。
まあ・・・落ち着いたらそのうち帰ってくるよな・・・?
のんびりテレビでも見るか、とテレビをつけてチャンネルを回すも。
「・・・・お、これアコの好きなやつ」
やってるぜ、と声をかけようとして口を噤んだ。
・・・・いやいや、落ち着け俺。
他にも番組はあるだろ。
・・・大食い番組。
エース出たら絶対優勝だね、と笑ってたなそういや。
・・・・恋愛ドラマ。
こんなのよりエースの方が断然カッコイイよ、と言ってくれたアコを思い出す。
あーくそ。
お笑い番組はどうだ。
・・・・そーいやネタが面白いか面白くないかで喧嘩したことあったっけな。
今何処に居んだ。
・・・・いやいや、俺からは折れねェぞ絶対。
帰って来てアコが謝るまでは。
「は!・・・・寝てた」
気が付けばもう外が明るい。
・・・部屋を見渡してもアコが帰って来てる様子はねェ。
玄関・・・鍵かけてねェのに。
何処ほっつき歩いてんだあいつ。
念の為、と仕事の前にアコの実家と思いつく限りの友人に電話をかけてみたが、
来てないと言われた。
・・・となると。
サボんとこか・・・?
・・・・・考えたくもねェけど。
「・・・・起きてたか、サボ」
電話をかければサボが出て、
『珍しいな、どうしたんだ?』
「あー・・・そっちに、その・・・なんだ、アイツ・・・来てねェか?」
『アイツ?アコちゃんのことか?』
「お、おう・・・」
『来てないけど・・・喧嘩でもしたのか?』
「まあ、そんなとこだ」
『早いとこ謝って仲直りしろよ』
「わーってるよ」
アコ本人の携帯にかけてみても、
おかけになった電話番号は現在電波の届かないところにおられるか、電源を切っておられるため・・・と、
無機質なアナウンスの声しか流れて来なかった。
・・・何処にいるんだよ、無事なんだろうな。
仕方なく仕事に行って、
まあ帰る頃にはアコも帰ってんだろ、なんて安易に考えていた俺は。
鍵がかかったままの、誰も居ない暗い部屋に帰ることになるとは思ってもいなかった。
「・・・・ンでだよ」
散らかったままの部屋。
アコが居ない家。
・・・・イライラする。
「・・・・」
アコへの電話は相変わらず繋がらねェ。
焦燥感ばかりが募って行く。
事故に遭ったんじゃねェだろうな、それとも誘拐か?
・・・俺が、守るって決めたのに。
何だこのザマは。
くそっ、情けねェな。
仕事が手につかなくてマルコに怒られて、
それでも頼み込んで定時であがらせてもらって、急いで帰って来た家。
「・・・鍵」
開いてる。
慌てて開ければ、
「アコ・・・・・」
「・・・おかえり」
「・・・・・悪ィ、その・・・」
「・・・ホント。少しは片付けてよね、部屋」
アコは今まで俺が放置してた部屋の片づけをしてくれてるようだった。
「違ェ、そっちじゃなくて・・・この間、酷いこと言った」
「・・・うん」
「・・・だから・・・ごめんな・・・」
「私もサボ君のことばっかり話してた、ごめんね」
「何か急に話すようになったよな、アコ。・・・サボのこと」
だから妬いた。
絶対、サボには渡せねェ。
「だってコアラちゃんがサボ君のことばっかり話すから」
「コアラ?」
「サボ君の彼女」
「かの・・・・・・あいつ彼女居たのか!?」
「知らなかったの?・・・だからつい、サボ君の話しが出ちゃって」
「この間の結婚式の時は何も言ってなかったぜ・・・?」
「そのうち私達結婚式に呼ばれるかもしれないね」
「・・・・アコ」
笑ったアコが愛しくて抱きしめたら、
「私埃臭いよ?」
「気にしねェ。そんなことより何処に居たんだよ?」
「ビジネスホテル」
「は、どうりで何処探しても駄目なワケだよな・・・。携帯も電源切ってたろ」
「・・・・頭冷やさなきゃと思って。お互いに。ごめん」
「いや・・・おかげで頭冷えたし。アコが居なきゃ駄目だってわかった」
「・・・エース」
何日ぶりかのキスをしたら、
「・・・・あーやっべェ」
「・・・何?」
「止まらねェかも」
ちゅ、ちゅ、と角度を変えて繰り返す。
「・・・・馬鹿エース」
「ま・・・まだ怒ってンのか・・・?」
「怒ってないよ。好き」
「・・・俺も好き」
絶対もう離さないからな。