短編③
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『だからお前は駄目なんだ』
もう2度と会うことはないだろう人の声が聞こえた気がした。
・・・・もう忘れられたと、思っていたのに。
まるで心臓を一突きにされたような衝撃と、
ああやっぱり、という落胆の気持ちが同時に湧き上がった。
お前は駄目なんだ、と前の旦那に言われた時は私だけが悪い訳じゃないはず、と思ってた。
でも間違ってはいなかった。
・・・前の旦那の時も、
今も。
子供が出来ないことが不安で、
今の旦那・・・シャンクスには内緒で来た病院。
私に原因があると、報告を受けた。
私の身体は子供が出来ないんだと。
・・・・シャンクスに何て言ったら。
せっかく手に入れた本当の幸せ。
・・・シャンクスは私を、見放すかもしれない。
辛い気持ちで帰ったら、
ドアの鍵が開いていて。
・・・耳に届いたのはピアノの音色。
たまにアコに弾いて欲しいんだ、とシャンクスが買ってくれたピアノ。
「・・・シャンクス?」
「おかえり、アコ」
ピアノの音色がぴたりと止まって、いつもの笑顔が見えた。
「シャンクス・・・随分早いのね」
「ああ、今日は仕事が早く片付いたんだ。おかげで夜はアコとゆっくり出来る」
伸びて来た手を取ったら優しく腕の中に閉じ込められた。
「・・・シャンクス、上達したわね」
「アコの指導のおかげだ。そのうち2人で弾けたら嬉しいんだが」
「すぐ弾けるようになるわ、私も楽しみ」
2人の未来を語れることがこんなにも幸せ。
・・・あのことさえ、なければ。
私今上手く笑えてるかしら。
そんな不安をよそに、シャンクスの唇が私の唇に優しく重なった。
「今夜は久しぶりにあの店に行かないか?」
「ええ、行きましょう」
今でもたまにあの店に行く。
頼むのは決まって、
「キールを」
2人の思い出のカクテル。
「シャンクス、この曲は」
「The Two Lonely Peopleだな」
「流石。尊敬するわ」
「アコの好きそうな曲はチェック済みだ」
「有難うシャンクス。嬉しい」
言わないと。
・・・・そう思うのに言葉が出てこない。
嫌われたら。
やっていけない、って言われたら。
子供が出来ないなら結婚なんてするんじゃなかった、って言われたら。
考えただけで。
・・・・言えない。
「あそこは本当にいい店だ」
「本当。料理も好み」
酒も料理も楽しんで、店を出てすぐのことだった。
「おむらいしゅおいしかったぁ!!」
小さな女の子が走って来て、
「おっと」
「わ!ごめなしゃい!」
「どういたしまして。怪我は?」
俺にぶつかった。
「だいじょうぶ!」
女の子は眩しい笑顔でもう1度ごめんなさい、と言って走って行った。
「可愛いな・・・俺とアコの子供ならもっと可愛いだろうな」
何気なく呟いた瞬間、アコの足がぴたりと止まった。
「・・・・アコ?」
「・・・少し、酔ったみたい」
「・・・大丈夫か?」
少し顔色が悪いようにも見えるが・・・そんなに飲ませた記憶はねェ。
と言ってアコが子供嫌い、っつー話しも聞いたことはないな。
むしろ今までなら目を細めて話しに乗ってくれていた。
・・・具合が悪かったのか?
「・・・ごめんなさい」
「謝ることはねェさ、歩けそうか?」
「ええ、平気」
僅かだが肩が震えてる。
・・・・ただの風邪なら、まだいいんだが。
俺達の子供。
笑顔のシャンクスの口からその言葉が出た瞬間、
もう言えない。
・・・そう思った。
「アコ・・・?」
翌日家に帰るとアコの姿はなかった。
・・・昨日のこともある、念の為今日は家で安静にするようにと言っておいたんだが。
1人で病院に行ったのか?
まあ、無事に帰って来てくれればいいか。
テーブルの上には美味そうな料理が並べられている。
・・・・これだけで十分、幸せだ。
そう思えたのは2日目までだった。
結局アコが帰って来たのは夜遅くで、
疲れてる、と言うのでそのまま眠った。
・・・が、今日も同じだ。
おかしい。
1度は諦めたものの、ようやく想いが通じ合えたと思っていた。
・・・違っていたのか?
3日目も同じように夜遅くに帰ってきたアコに、
「何処へ行ってたんだ?」
なるべく優しく問いかけたつもりだったが、
「シャンクスには関係ない」
と冷たく一蹴されてしまった。
「いや、しかし・・・」
浮気を疑ってる訳じゃないが、心配なんだと伝えても、
「シャンクスも私の居場所を奪うの!?」
・・・涙を流して叫んだアコに胸が痛んだ。
「・・・俺は、アコの居場所にはなれねェか」
俺の言葉にアコがはっとなったのがわかった。
それでも、
「ごめんなさい・・・もう、寝かせて」
「ああ・・・おやすみ」
・・・・私の居場所、か。
最悪。
私は本当に駄目だ。
バレたくない、嫌われたくない。
・・・申し訳ないの気持ちで避けた結果がコレ。
またこの店でキールに頼ってる。
この店でシャンクスを想うことしか、私には出来ない。
「こちらを」
ふと馴染みのマスターから渡されたカクテル。
「・・・あの、これは」
「カミカゼです。あちらのお客様から」
「カミカゼ?」
すごい名前、と思いながらマスターの指さしたとこに居たのは。
「・・・・どうして」
「カミカゼのカクテル言葉、知ってるか?」
私の居場所を作ってくれた人。
「・・・知らないわ」
「あなたを救う、だ」
・・・私はこんな素敵な人を騙すような真似をしていたの。
「・・・・ごめんなさい」
「話しを聞かせてくれないか?」
いつだって優しいシャンクス。
「・・・私、駄目な女なの」
「そりゃあ興味あるな。どの辺が駄目なのか俺には見当もつかねェ、教えてくれるか?」
「子供が・・・・出来ない身体なの」
今まで黙っていてごめんなさい。
「・・・・それをずっと?」
こくりと頷けばシャンクスの大きな手が私の髪を優しく撫でた。
「辛い思いをさせちまったなァ・・・気づけなくてすまなかった」
「怒らないの?」
「怒る必要はないだろう?」
「だって・・・私、女としての価値がないのよ・・・?」
「アコが俺の側に居てくれる。それだけで十分だ」
「シャンクス・・・っ子供、好き、でしょう・・・?」
また涙が零れる。もう、止めることは出来ない。
この感情も。溢れ出すまま。
「子供は好きだが、アコの方が好きだな」
泣いてる私をよしよし、と慰めるように抱きしめてくれた。
「・・・・こんな私で、いいの?」
「いつか2人で連弾したいんだ。それが今の俺の夢だ」
「・・・・ありがとう・・・・っ」
「アコが嫌でなければ、他の病院にも行ってみないか?」
「他の病院?」
「俺の昔からの知り合いに腕のいい医者がいる。奇跡にかけてみるのも悪くないだろう」
「奇跡・・・」
「俺達が出会えたのもまた奇跡だ」
「ええ、本当にそう思うわ」
私の人生でシャンクスと出会えて。
関われて。
・・・夫婦になれて。
本当に幸せ。
後日シャンクスの昔からの知り合いというお医者様に診てもらったところ、
可能性は少ないが授かれる可能性がある。
と言われた。
顔は怖いけどとても良い人だった。
数年後、
新しい奇跡は小さく愛おしく私達2人に舞い降りることになるんだけど。
それはまた別のお話し。