短編③
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「あーっと、今から歌うのは新曲なんで、気に入ってもらえたら買ってもらいてェなと思ってます」
はにかんだ笑顔でそう言った彼に黄色い悲鳴が上がった。
・・・・すごいなあ、としみじみ思う。
テレビの中にいる彼は、
私の恋人。
かつてはファンの1人でしかなかった私が。
今はある程度有名になったエース君の、恋人。
まだ信じられない。
告白されたことも、
恋人であることも、
同棲をしてることも。
「・・・・カッコイイ、なあ」
その顔の良さだけじゃない、歌の上手さも認められてエース君はテレビに出れるまでになった。
エース君の才能が認められるのは素直に嬉しい。
「ただいま、アコ」
「エース君、おかえりなさい・・・!!」
エース君は帰ってくるなり私をぎゅう、と抱きしめてくれた。
「・・・何か辛いことあった?」
「いや?今までの分」
「今までの分?」
「今までは全然出来なかっただろ、こういうの」
と、切なげな瞳に見つめられてゆっくりと頷いた。
両想いがわかって恋人にはなれたものの、
エース君には夢がある。
その夢の為には外ではおおっぴらにそういうことは出来ない。
エース君は構わない、と言ったけど私が拒絶した。
・・・夢の邪魔は、したくないから。
「お疲れ様、エース君。テレビ見たよ、カッコ良かった」
「ホントか?アコがそう言ってくれんなら大丈夫だな」
「え・・・」
「アコの耳には昔から期待してんだ」
「えええ!?」
「アコだけだぜ、当時色々気づいてくれてたの。喉のこととかな?」
・・・好きな人に褒められて嬉しくない訳ない。
恥ずかしいけど、ここまで言われたら!!
「き、きっと大丈夫!!」
「ありがとな、アコ」
「ううん、だって私もう歌えるくらいすごく素敵な歌だし!」
「・・・愛してる、アコ」
愛してる。
・・・ちょっと前までなら絶対に聞くことは出来なかった言葉。
「わ・・・私も好き・・・・っじゃなくて!愛してます!!」
言い切った私の唇に重なったエース君の唇。
「幸せだなァ、俺」
「わ、私だって・・・!!」
「これからもーっと幸せにするからな!」
「私もエース君幸せにする!!」
好き、じゃなくて愛してると言える幸せ。
・・・・この幸せが、ずっと続きますように。
今日は雑誌の取材、っつーことで。
早く帰れると思ってた。
早く帰ってアコに会いてェ。
そんなことを思いながら、
「エースさんは恋人が居ると言うことが有名だそうですが」
「はい、めちゃくちゃ可愛い彼女がいるッス」
「隠す方が多い中あえて公表されたのには理由が?」
「別に・・・隠すことじゃないと思ってるんで」
「真面目でいらっしゃるんですねー!!」
・・・・つまんねェ。
なかなか曲のことに触れない女記者。
「では最近出された新曲について・・・」
ようやく曲の話しが出たと思ったら、
5分程で終了。
「有難う御座いました」
「・・・有難う御座いました」
・・・・よし、終わりだな。
「でもエースさん噂には聞いてましたけど本当に真面目なんですねー!素敵です!」
「ああ・・・どうも」
「この後お食事ご一緒にいかがです?」
「・・・いや、家で可愛い彼女が待ってるんで」
今日は焼肉にするね、と笑って朝見送ってくれた姿が脳裏に浮かぶ。
「あら・・・わかってないのね」
「・・・・は?」
記者の女がくすりと笑った。
「私各方面にコネがあるの。私の機嫌を損ねたら大変よ?」
「そりゃどういう意味だい?」
「愛しい彼女さんを悲しませたくないでしょう?」
「・・・飯に行けばいいのか?」
「勿論その後も付き合ってくれてもいいのよ?」
「・・・・っ、誰が・・・・」
「で、どうするの?」
・・・・・ごめんな、アコ。
今日飯いらなくなった、ごめん。
エース君からそうメッセージが来て肩を落とした。
お肉・・・野菜もいっぱい買ったんだけどな。
・・・ううん、でも仕方ない。
きっと仕事の人と急遽食事に行くことになったんだ。
付き合いだもん、仕方ない。
・・・お肉は明日のお弁当に入れよう。
残ったのはお昼に私が食べればいいんだし。
何回も仕方ないと言い聞かせて、
エース君の帰りを待った。
結局エース君が帰って来たのは24時近く。
「アコ、悪ィ」
「大丈夫?・・・酔ってる?」
「ちっとだけな。それよりごめんな、今日飯・・・」
「気にしないで。明日はお休み?」
「ああ、一緒にいような」
「・・・うん」
優しく抱きしめてくれたエース君から少しだけ、いつもと違う匂い。
煙草の匂いじゃない。
・・・香水の、匂い。
それが私の不安を、強くさせた。
ひでェ目に遭った。
この業界で食ってくのって大変なんだな。
・・・わかっちゃいたが、絶対アコを幸せにする為に仕方ないんだ。
横で眠るアコの寝顔を見ながらそっと髪の毛を撫でる。
・・・・可愛いな。
ちょっと前まではこんなこと考えられなかった。
どんなに会いたくても一瞬しか会えなくて。
・・・・今、目の前にいるアコを大切にしたいんだ。
今日は帰れないかもしれない、という連絡が増えた。
・・・・それと同時にエース君をテレビで見る機会が増えて行った。
嬉しいはずなのに、胸が痛い。
テレビの中のエース君は元気そうで。
・・・でも何処か苦しそうにも見える。
新曲は大ヒットを記録して、
それでも休みの日は私の側に居てくれて。
料理もしてくれた。
大丈夫、信じてる。
・・・例え、ネットでエース君と知らない女の人が歩いてるところの写真が載っていたとしても。
・・・大丈夫。私だけは。
エース君を信じる。
前にエース君の彼女は私、の騒動があった時だって。
・・・・大丈夫。
ふとテレビの中のエース君の唇がほんの微かに動いた。
一瞬。
アコ、すき。
・・・そんな風に聞こえた。
画面の真ん中に居るのは別の人。
エース君は後ろの方で小さかったから、よっぽどのファンで目が良い人じゃないと見えなかっただろうし、
耳が良くなければ聞き取れなかったと思う。
ああ、私の信じた彼だ。
とは言えこれは生放送。
・・・打ち上げ、あるよね。
一応食材は用意はしたけど無駄になる覚悟。
生放送が終わって30分後、
携帯に入ったメッセージには、
【すぐ帰る】の文字。
嬉しくなって慌てて料理。
「ただいま!」
「おかえりなさい、エース君」
帰ってアコの笑顔が見れるとほっとする。
「見たか?テレビ」
「見たよ、秘密のメッセージ」
「お、気づいてくれたんだな!」
「私も好き。・・・・で、返事は合ってる?」
「合ってる。今日の飯何?」
「チキンステーキ。あと喉に良いお茶も用意しておいたよ」
「・・・いつもありがとな、アコ」
「ううん、いつもお疲れ様」
そう言ったアコの笑顔に陰。
「・・・また何かあったんだな」
「え」
「握手会ん時と同じ顔してるぜ、アコ」
「え!?」
「俺の彼女はアコだけ」
そう言ってあの時と同じように頭を撫でてやれば、
「・・・・女の人と歩いてる写真が、ネットに。あの、でも私は信じてるからね!!」
「女?・・・飯食いに行った時か・・・?」
「だ・・・・だよね!?」
「・・・・なァアコ」
「・・・・何?」
「ピアノ出来るんだよな?」
「え、まあ」
アコは幼稚園から高校卒業までピアノを習ってたと聞いたことがある。
「キーボードやらねェ?」
「はい!?」
「そしたら一緒に仕事出来るだろ?飯も一緒に行ける」
「そ、そうだけど・・・・」
「そんでさ」
これも見せつけてやろうぜ、と渡した銀の輪っか。
「ゆび、わ・・・・・」
「あー・・・・その、出来れば左手の薬指にして欲しい」
「ほ、ほんとに?」
「写真の女とはホントに何でもねェ。付き合わないと仕事させねェとか言われたけど断った」
「そっそんな怖いことになってたの!?」
「飯だけは行ったんだ、言っとけば良かったな」
ごめんな、と謝ればアコは必死に首を横に振った。
「エース君が大変な時に何もしてあげられなくて、ごめんね」
「笑ってくれてればそれで十分だ」
仕方なく記者の女と飯には行ったものの、アコのことをずっと話してたら帰ってったんだよな。
訳わかんねェ。
「そんで、返事聞かせてくれねェか?」
アコは呆然としながらも、
「やりたい!」
としっかり返事をくれた。
「よっしゃ、決まりだな!」
「・・・エース君、最近ごめんが多かったから少し不安、だった」
何処か泣きそうな顔でアコが笑うから、
強く抱きしめた。
「・・・食材、せっかく用意してくれてたのに無駄にしちまったろ?」
「大丈夫、お昼とかに使いまわしてたから」
「・・・俺は、アコ以外の女には手は出さない」
「仕事なくすわよって言われても?」
「世間に認められれば問題ねェ。アコ悲しませることの方が嫌だ」
最近はアコをキーボードに引き入れるのを認めてもらうために飯に付き合ってたりしてたけど、
ようやく認めてもらえた。
「・・・・・エース君」
「・・・ん?」
「これから何があっても、エース君のこと愛していいですか?」
「・・・ああ、俺も」
何があっても側に居る。
何があっても。
・・・・・守り抜くんだ。
1人の大切な女として。