短編③
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恋を売るのが私の仕事。
・・・・お金と引き換えに。
「嫌です」
「もう金ももらっちまってるんだ、頼むよレナ」
「・・・私をご指名と?」
「ああ、あの赤髪のシャンクスだ」
大海賊、四皇の赤髪のシャンクスが島に来て。
遊女の1人である私を指名していると言う。
海賊は嫌い。
・・・・海賊は、信用出来ない。
そう断って来たけど、
「1ヵ月・・・・」
彼らが逗留する間私を買うと言う。
仕方ない、お金で買われた以上は。
・・・・彼は、お客様。
凛とした瞳から目が離せなくなった。
久しぶりに着いた島で出会った女。
とある店の遊女と知って、金で買った。
「お味は如何?」
「ああ、美味い。別嬪さんに注いでもらえる酒は格別だ」
「こんな素敵な方に飲んでもらえるなら幸せだわ」
最初は渋っていた、という話しだったが。
・・・さすがはプロだな。
そんな素振りは一切見えねェ。
・・・・が、俺はこれじゃ満足出来ない。
心からの笑顔を見せてもらおうじゃないか。
「で、そいつの弱点は鼻だったのさ」
「まあ、ふふ・・・っあははっ、素敵な冒険だったのね」
赤髪のシャンクスは思ってたより気さくな人物で、
今までの航海の話しを良くしてくれた。
上機嫌で酒を飲んで、楽しく話しをして。
「レナは笑った方が可愛いな」
・・・可愛い、と言って私を抱く。
最初のキスは首。
「・・・・ぁ・・・」
頬、額。
ちゅ、ちゅ、と優しく落とされていく。
海賊のキスって・・・海賊の目って。
こんなに優しいもの?
・・・最初だけね、きっと。
唇まで来たところで、
「待って。・・・ここは、嫌なの」
「そうか、わかった」
・・・誰が相手でも、唇のキスはしない。
私はそう決めてる。
・・・唇のキスは、恋人だけ。
シャンクスはそれに気分を害した風でもなく、
「片腕であることをこんなに後悔した日はないな」
と呟き、
「・・・痛みが?」
「いや、両腕でレナを抱きしめられねェのが辛い」
笑う。
「・・・だったら、私が」
ぎゅ、と抱きしめてみたらシャンクスはとても嬉しそうに微笑んだ。
「可愛いことをしてくれる・・・嬉しいもんだな」
・・・こんなことでこんな風に喜ぶなんて。
・・・キスを拒んでも、怒らないなんて。
無理やりしようと、しないなんて。
私を・・・・可愛いと言うなんて。
この人本当に海賊?
「レナの髪は綺麗だな」
「シャンクスの赤い髪も綺麗」
「赤が好きか?」
「ええ、好きよ」
行為の後彼は優しく髪を撫でる。
「俺も・・・好きだ」
「・・・ねえ、さっきの話しの続き、聞きたいわ」
海賊の話しなんて血生臭いものばかりだと思っていたけど。
「ああ、クジラに食われた時の話しだったな」
「そう、その続き」
彼の話しはそんなことなくて。
「腹ん中で暴れたら吐き出されたんだ」
「本当に?そんなことあるの?」
「あるさ」
・・・夜が、楽しみだと思った。
それは昼間、なくなりそうな化粧品を買い足しに外に出た時のことだった。
「おいレナ」
・・・前のお客さん。
この人、乱暴で傲慢で好きじゃなかった。
「・・・何か?」
「お前今四皇の相手してんだってな。キスも出来ねェような女が満足させられんのか?」
「今の貴方には関係のないこと」
「卑しい娼婦が偉そうに!!」
「・・・確かに私は卑しい娼婦。けれど恋は売っても、心まで売るつもりはないわ」
そう言い切った瞬間、くい、と腰を引かれた。
「俺は十分満足してる」
「・・・シャンクス」
「よ、四皇・・・・っホントの名前も教えられないような女にゃそのうち愛想も尽きるに決まってる!!」
「名前は関係ないさ、こんなに可愛いレナを独り占めできる俺は幸せだ」
「・・・くそっ」
前のお客さんは軽い舌打ちを残して逃げた。
・・・・わかってる、とは思うけど。
「ごめんなさいね。お店の決まりで本名は教えられないの」
「何、気にしてねェさ。俺はレナが好きだからそれでいい」
「・・・嬉しいわ」
・・・・綺麗に。
美しくあろうと努力してきた。
その甲斐あって綺麗だ美人だと言われてきたけど。
私を可愛いと言う人はいなかった。
・・・どうしよう、顔が熱い。
「海賊に家族を殺されたの」
行為のあと、レナがぽつりと呟いた。
最近自分のことを少しずつ話してくれるようになった。
なるほど、嫌っていたのは俺ではなく海賊という存在そのものか。
内心安堵しながら、レナを片腕で抱き寄せた。
「・・・シャンクス?」
「もう、大丈夫だ。レナの大切なものは奪わせねェ」
「・・・・有難う」
赤い耳にキスを落とせば、
小さく声が上がって、ますます可愛いなと思う。
・・・・ますます、好きになっちまったな。
駄目、好きになってはいけない。
わかってるのに、もう止められない。
・・・私はお金をもらい、恋を売る遊女。
だったはずなのに。
シャンクスのことが好き。
海賊と言うだけで嫌悪感を抱いていた自分が恥ずかしい。
・・・・1ヵ月しか側に居られないなんて。
寂しい。・・・・苦しい。
・・・ううん、もう1ヵ月もないわ。
時が来れば彼は居なくなる。
・・・彼は、お客様。
私は『レナ』
恋を売る仕事。
・・・・仕事。
レナの反応が可愛くて、
好きだと何回も伝えてはいるが、甘かった。
可愛いと伝えれば有難う、と答えちゃくれるが、好きだと言っても困ったように笑うだけ。
・・・以前は完璧な笑みを作って礼を言うだけだったから、それがレナの本心なんだろう。
あわよくば、と思ったが。
・・・所詮俺は客か。
「レナ・・・・っ」
「は・・・あ・・・っ、シャンクス・・・っ」
熱の籠った視線。掠れた声。
レナの露わになった胸もとに印をつけた。
・・・これくらい、罰は当たらんだろう。
「シャンクス・・・・っ」
・・・客なら、こんな目を向けないでもらいたいもんだ。
やっぱり海賊は嫌い。
私の心を奪っておいて、居なくなってしまうんだもの。
「明日?」
「ああ、出港する。世話になったな」
「・・・・そう。世界には私なんかよりいい女がたくさんいるんでしょうね」
「レナが1番可愛いさ」
ああ、もう駄目。
泣いてしまう。
・・・もう演技なんて、出来ない。
零れそうな涙を必死にこらえて、私は自分からシャンクスと唇を重ねた。
「・・・いい、のか?レナ」
「特別。ご贔屓にしてくれたから」
・・・・特別な、恋だったから。
きっと私にとって最初で最後のキス。
・・・・さようなら、愛しい人。
シャンクスはゆっくりと私を倒した。
最後の行為は今までの中で1番優しかった。
隣で気持ちよさそうに眠るシャンクスの顔を見る。
・・・・これが最後。
明日の夜彼はもう居ない。
「・・・・さようならシャンクス。私が・・・アコが愛したのはあなただけよ」
だからどうか、お元気で。
寝てる彼の耳元に呟いて、私の眠った。
今日は出来るだけシャンクスに寄り添って。
「・・・・・あ、れ」
翌朝目が覚めて1番に見えたのは見慣れぬ天井だった。
・・・何処?家でも店でもない・・・・?
「お、目が覚めたなレナ。・・・・いや、アコ」
「どう、して・・・・」
「あんな言葉聞かされて黙って別れられる程お人好しじゃねェもんでな」
「・・・・起きてたの?・・・ここは何処?」
「レッドフォース号、俺達の船だ」
まさかあれを聞かれてたなんて恥ずかしい。
・・・・どころじゃない。
四皇の船!?
「俺はアコの心が欲しい」
真っ直ぐな目に見つめられて心臓が大きく動いた。
・・・・涙は、止まらなかった。
「私・・・・貴方の側に居てもいいかしら。ずっと」
「勿論だ」
「・・・・・っ、嬉しい・・・」
「可愛いなァ、アコは」
そう言って嬉しそうに頭を撫でられて、
「恥ずかしいからあんまり言わないで!!」
仕事モードじゃないから取り繕えない!!
「言わせたくねェなら俺の口を塞ぐしかないな?」
「・・・・・っ、もう」
それから何度も唇を重ねた。
もう恋も心も売れないわ。
・・・シャンクスに買われてしまったから。