短編③
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お店の前に女の子達が群がってるのを見て、
ああもうそんな時期かあと思った。
高校生になって初めてのバレンタイン。
今年・・・・・・どうしようかなあ。
去年。
中学最後のバレンタインは、忘れられない思い出がある。
・・・・辛い、思い出が。
「今年は何個もらえっかなァ、エース」
「知らねェし興味もねェ」
もうすぐバレンタインだとサッチが浮足立っている。
・・・・去年までは、俺だって。
バレンタインは密かに楽しみにしていた行事の1つだった。
それをぶち壊したのは、他の誰でもない俺自身な訳だが。
幼馴染のアコに恋をしてると気付いたのはいつだったか。
とにかく気づいてからは、中学を卒業したら絶対告白してやると決めてた。
・・・・中学、最後のバレンタイン。
毎年アコからもらえる手作りチョコを楽しみにしてたんだ。
去年ももらえた、アコの手作りチョコ。
ただ去年に限ってそれを同じクラスの奴らに見られて。
・・・・そこに、
『好きです』
と書かれた手紙が挟まっていた。
それを見られて冷やかされた俺は恥ずかしさでつい、
「別に俺はアコのことなんか好きじゃねェ」
と言い切った。
・・・・・・・それを、アコが聞いていた。
それ以来アコと話すことはなくなった。
高校も別。
・・・・今年は、絶望的だ。
好きじゃない、訳ねェだろ。
好きに決まってる。
・・・・違う、アコに伝えたいのはこんなことじゃねェ。
俺の言葉によって傷つけたことを謝りたい。
謝ってどうなるなんてわからねェけど。
今更恋人に、なんて思っちゃいねェけど。
・・・・・それでも、顔が見たい。
好きだと、言いたい。
バレンタイン当日、
チョコは結構もらえた。
帰ったらルフィにやるか。
・・・・ルフィも結構もらうからな。
俺が欲しいの1コだけだし。
どうせ今年はもらえねェけど。
「いいなぁエース、何個もらった?」
「見てねェ」
「その中に本命は何個あるんだろうなー」
なんてサッチがニヤニヤと紙袋の中を覗いて来た。
「全部義理だろ」
「わかんねェじゃんそんなの」
「もしあったら・・・・・」
「あったら?」
「めちゃくちゃ謝る」
「は、エースらしいな」
・・・・もう自分の気持ちを偽ったりしねェ。
「ルフィー帰ったぞー」
「エース!出掛けて来る!」
「おー飯は?」
「食う!!」
俺と入れ違いにルフィは楽しそうに出て行った。
部屋に入れば俺と同じように紙袋に入ったチョコレートと、
机の上に食べ終わったのであろうチョコの包装紙が散らばっていた。
・・・ゴミはちゃんとゴミ箱に入れろっていつも言ってんのによ、ったく。
・・・・・・去年までは、まあ義理でもらったチョコでも食ってたけど。
今年は食う気もしねェ。
「はぁ・・・・・」
ホントなら今頃。
と考えずにはいられない。
去年俺が、アコの気持ちに応えてたなら。
今年は高校が違っていても2人で会えて。
今年も手作りのチョコレートもらって。
・・・・駄目だな、俺。
夕飯の支度でもするか、と台所に向かった時、
ぴんぽーん。
来客の知らせに玄関に向かい、いつものようにドアを開けて固まった。
「や・・・・・やっほー」
「・・・・・アコ?」
幻か?
目の前にアコの姿。
「え、ええと・・・・エース、あの」
アコは気まずさそうに苦笑して、
「お、おおおおお、おう」
俺もつい緊張する。
「その・・・・・これ」
差し出されたのは綺麗にラッピングされた袋。
「・・・・これ、って」
「・・・・チョコレート」
・・・奇跡が起きた。
「じゃ、そういうことで!お邪魔しました!」
言うが早いかくるりと踵を返してそのまま去ろうとしたアコの腕を咄嗟に捕まえた。
「・・・エース、離して?」
「嫌だ」
「でも、あの、えっと・・・・」
引き留めてどうするんだ俺。
そう思いながらも、俺はそのまま腕の中にアコを閉じ込めた。
「・・・・悪い、離さねェ」
「・・・・うん」
今更俺が何を言ったって駄目なのはわかってる。
それでも。
「・・・・あん時は、悪かった」
「エースが謝ることじゃ、」
「ずっと後悔してたんだ。ずっと、謝りたかった」
「・・・・エースは、悪くないよ」
「ホントはアコのことずっと好きだった、って言ってもか?」
「え!?」
「あん時は好きじゃないとか言っちまったけど・・・・ずっとアコのことは、そういう目で見てた」
「ほ・・・・ほんと、に?」
「ああ」
アコはゆっくりと頷いた俺を見て涙をぼろぼろと零した。
「最低、だよな・・・・俺・・・・っ」
「ホントはね・・・・違うかもって思ってたの」
「・・・・違うかも?」
「エースって恥ずかしがり屋でしょ?だからあの場は私のこと好きじゃないって言ってたけど本当はって」
「・・・・わかってたのか?」
「ううん、諦めたくなかっただけ。・・・・でも諦めなくちゃってエースと違う高校に行ったの」
「それでもチョコ・・・・くれたんだな」
「すっごい迷ったんだけど・・・フられてるし、既製品でも、とか」
「・・・手作り、だろ?コレ」
「今までエースが美味しそうに食べてくれてたの忘れられなくて」
と泣きながら笑うアコが愛おしくて。
涙の落ちた頬に唇を落とした。
「・・・・エース・・・・っ」
「もう、離さねェからな」
「・・・・うん」
重なった唇は柔らかくて、
チョコよりも甘かった。
数年後。
もう何回目かなあ、エースへの手作りチョコ。
毎年あげてるけど本当に嬉しそうに受け取ってくれるし、
本当に美味しそうに食べてくれるエース。
今年も喜んでくれますように。
「はいっエース」
「お、サンキュ」
毎年恒例のバレンタインデート。
エースはいつも大袈裟なくらい喜んでくれるんだけど、今年は何か緊張した面持ち。
「・・・・エース?」
「・・・・・今年は、よ。俺からも渡したい物があるんだ」
「え・・・・何?」
エースから渡されたのは、
赤い薔薇の花束。
「・・・これ」
「・・・・すごい。何本あるの?」
「999」
「きゅ・・・・・っ!!」
あれ、薔薇の花束って本数によって意味あったよね?
999本て何だっけ!?
「アコ」
「は・・・・・はい・・・・」
いつになく真剣な顔のエースに思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「情けねェ俺だけど、アコのことはずっと大事にしたいと思ってるし、幸せにしたいと思ってる」
「・・・・あり、がとう」
「だから。・・・・俺と結婚、してくれません、か」
そして深く頭を下げたエース。
・・・・・・こんな、幸せなバレンタインってない。
「・・・・喜んで」
(999本の意味は何度生まれ変わってもあなたを愛します、という意味)