短編③
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決して高級とは言えない、
狭いマンション。
でも私にとっては大事な住処。
雨露を凌げてかつそこそこ安全。
・・・・・そんな私の部屋のお隣に、誰かが引っ越してくるという噂を聞いた。
嫌な人じゃないといいなぁ。
ドキドキしながら部屋でくつろいでたら、
ガタンと隣で音がした。
あ・・・・きっとお隣さんだ。
ど・・・どうしよう見に行きたい。
でもさすがにそれは失礼よね?
・・・・いやでもちょっとコンビニ行くついでに見て、
ばったり会っちゃったらご挨拶くらいは。
だってお隣さんなんだもの。
そうと決まったら服着替えよう。
それからお化粧もばっちりしないと。
可愛い女の子・・・だったらいいな。
ドキドキしながらさあ出かけようとした時、
ピンポーン、とインターホンが鳴った。
「っはーい!」
驚きながらそっとドアを開けたら、
「突然すまない・・・今日隣に引っ越してきたもんで、挨拶に来たんだが」
先越された・・・・!
挨拶早い!
・・・・・と悔しさを抑えてよくよく観察してみる。
赤髪の、片目に傷3本傷で。
無精ひげの精悍なおじさま。
着ているものはさりげないTシャツだけど、これ相当なブランドものじゃない?
靴は言わずもがな高そうだし。
「・・・あ、どうも」
・・・・ってまじまじ見てたらこんな言葉しか出てこなかった私。
「何かと迷惑かけちまうこともあると思うがよろしく頼む。それと、これ」
これ、と手渡された箱。
「あらまあ、わざわざご丁寧に・・・」
・・・やっぱり高級菓子。
「たいしたもんじゃないが良かったら食ってくれ。俺はシャンクスだ」
そう言って爽やかに微笑んだ後、
「じゃあ以後よろしく」
と軽やかに去って行った。
・・・・これはアレね、この後コンビニでも行こうと外にでたらまた出会って気まずくなるパターン。
・・・・せっかく出かける準備したけど仕方ない。
目的は果たしたし。
・・・男の人かぁ、お金持ちっぽかったな。
もらったお菓子を開封しながらそう思った。
「あ、美味しそ」
食べてみたらやっぱり高級な味がした。
次の日、噂好きなおばちゃんから聞いた話によると、お隣さんは何処かの有名な会社の偉い人らしい。
何でそんな人がこのマンションに?
そんな人ならもっといいマンションに住めるはず。
・・・倉庫代わり?
それとも愛人を囲う為の部屋?
・・・・怪しい。
変なことには関わりたくないけど、
謎には興味を惹かれるのが私。
・・・と、1週間程観察してみた。
結果、
朝が早くて帰りは遅いけどちゃんと生活していて、
女性を連れ込んでる様子はない。
至って普通。
まあ私も仕事が忙しいからそんなにじっくりと観察してる訳じゃないけど。
「はー・・・・・」
いつものように疲れて家に帰ったら、
珍しくお隣さんから音が聞こえた。
いつも私より後に帰って来ることが多いのに。
・・・・安いマンションだから気を付けないとね。
騒音問題で揉めたくないし。
あー夕飯何作ろう。
もうインスタントラーメンでいい気がしてきた。
思いながらテレビをつけたら美味しそうなカレーが出ていて、ぐぅぅ・・・とお腹が鳴った。
・・・・いいなぁカレー。
カレー食べたいけど作るの面倒。
ああ、悲しき1人暮らし。
お湯を沸かそうと立ち上がった時ぴんぽーん、のチャイム音。
こんな時間に来客?
訝しみながらドアを開けて驚いた。
「今、大丈夫か?」
「あ・・・・・はい、こんばんわ」
・・・まさかのお隣さんが、
まさかの可愛いエプロンを装着して、
まさかのカレーの匂いがぷんぷんさせてるお鍋を持って立っていた。
「実は今日カレーが食いたいと張り切って作ったはいいが分量がわからなかったもんで」
「・・・・はあ」
「箱に書いてある通り作ったら余っちまった。味は保証する」
「い・・・頂いてもいいんですか?」
「そうしてくれると助かる。1人暮らしなもんでさすがにこうたくさんは食えねェ」
たくさん食べそうながっしりした体格のお隣さんだけど、確かにこれはたくさんある。
「有難う御座います、遠慮なく頂きますね」
なんてタイムリー!!
「鍋は後日返してもらえりゃいい。俺の休みはカレンダー通りだ」
「あ、私もです。お帰りは遅いみたいですしお休みの日に洗ってお返ししますね」
ここまで言ってお隣さんの顔を見たらきょとん、とされたので私の頭に浮かぶハテナマーク。
でもすぐに気付いた。
「あ。・・・・・あの、音が・・・・しますので」
・・・・・そうよね、何でそんなこと知ってるんだって思われるよね普通。
「ああ、確かに壁は薄いな。うるさかったらいつでも言ってくれ」
「うるさい訳では!わ・・・私もテレビの音とか、気を付けます・・・」
「今のとこ気にならないんで大丈夫だ。カレー、冷めないうちに食ってくれ」
「あ・・・有難う御座います」
バタン、とドアが閉まってなお私の心臓がどくんどくんと大きく動いている。
・・・・危なかった。
変態だと思われるとこだった。
冷や汗を感じながら温めたカレーを食べたら、ものすごく美味しかった。
・・・・侮れないわお隣さん。
その週の土曜日、約束通りお鍋を返す為に私は必死に鍋を洗って、コンビニで買った安いお菓子を添えて袋に入れた。
・・・・何か緊張する。
まずインターホン押して、挨拶して。
・・・・・よし。
震える手でゆっくりとインターホンを押した。
心の準備をする間もなくすぐにドアが開いた。
「あ・・・っあの先日はカレーを有難う御座いました。大変美味しく頂きまして・・・」
家で心の準備してくるんだった!
しどろもどろになりながら心の中で後悔。
「ああ、持ってきてくれたのか」
「ご馳走様でした・・・」
「わざわざ菓子まで、気を遣わせちまったな」
「いえ、そんな・・・」
・・・・・・・・よしもう済んだ。終わった。
失礼します、って言って帰ろう。
「じゃあ、」
「料理は得意か?」
「・・・・・・苦手ではないです」
・・・いきなり何を言い出すのこの人。
「実は知り合いから見慣れない食材をもらったんだが手をつけられなくて・・・見てくれると助かるんだ」
「・・・私にもわかるかどうか・・・」
私だって料理詳しい訳じゃない。
「駄目ならそれでいい、他にこのマンションのことで聞きたいこともある。部屋が嫌なら前のカフェで話しでも」
・・・ナンパ?
部屋に入るのは危険な気もするけど、他の部屋がどうなってるのか興味はある。
「・・・いいですよ、隣の部屋の誼ですし」
了承したらすごく嬉しそうに笑って、
「汚い部屋だが入ってくれ」
・・・招き入れてくれた。
「お邪魔します・・・・・・・・・・・・かっ」
「・・・・か?」
「・・・いえ、何でも」
入ってすぐに金持ちめ!と言いそうになった。
何この高そうな調度品の数々とセンスのある部屋は!!
私と同じ部屋とは思えない。
「早速だが、これなんだ。わかるか?」
彼が持ってきた紫色のもの。
「あー・・・これアケビですね。果物として中のゼリー状のところを食べてもいいですし、揚げ物にしても」
良かった私の知ってるもので。
「聞いたことある。最初は食えるかどうかもわからなかった」
「確かネットにレシピが・・・・・えと、あ、これです」
スマホで調べて画面を見せたら、
「ほー美味そうだ。酒のツマミにも良さそうだな」
「あ、いいと思います」
「酒は嗜むのか?」
「好きですよ」
お酒の話しになって、
「近くにいい酒屋は?」
とか、
「安くて美味い居酒屋があると嬉しいんだがな」
とかお酒の話しをしたり、
「ゴミ出しの日なんだが・・・」
マンションの暗黙のルールの話しをしたり。
・・・話してみると結構気安くていい人だ。
何だかんだ話してたら結構いい時間になって、
「長々とすまなかった・・・助かったよ」
何事もなくお隣さんの部屋を出て無事に我が部屋へ。
さて私も片付けと夕飯の支度、と休みながらに気合も入り、
お酒の話しをしたので今夜は私もお酒で、と準備したところでぴんぽーんと鳴り響いた音。
もしかして、とドアを開けたら、
「今日の礼を持ってきたんだ。ついでにどうだ?一緒に」
恐らくレシピ通りに作ったんだろうアケビの揚げ物と美味しそうな(高そうなともいう)お酒。
・・・真面目な人なんだなぁ、意外と。
そう思ったら何だかほんわかして、
「はい、是非一緒に」
・・・・・・・と2人酒。
昼間以上に色んなことを話して、
会社が近いからこのマンションにしたことや、
管理職という地位で大変だということ。
独身なことも。
料理はそこそこ好きらしい。
全然怪しい人じゃなくてほっとした。
それどころか、一緒に居て妙に楽しくて。
・・・・・別の意味で気になり始めてしまった、お隣さん。
お隣さんはそれから、
知り合いにもらった、と高級なお肉やお魚を度々持ってきてくれるようになった。
私ももらってばっかりじゃあ申し訳ないと思うものの、
どちらかの部屋で一緒にお酒を飲んでいる時に、
「1人飯も寂しいんで、こうして一緒に飲んでくれるだけで有難いんだ」
と幸せそうなお隣さんに言われてしまい、
高価な食材に返せるものもないのでそのままの関係が続いている。
「完全な餌付けね」
「餌付けはひどくない?・・・隣同士の普通の交流でしょ?」
口は悪いけど根はいい子、友人のナミの目がきらんと光った。
「だって怪しいじゃない。金持ちがなんであんなマンションに住むのよ」
「・・・会社が近いから」
「あんたのマンションのすぐ隣に高級マンションあったわよね」
「・・・・ありますね」
「しかもあんた、たいしてお礼してないんでしょ?今度はあんたが喰われるかもしれないわよ」
「まっさかぁ」
「今度もらったら、もう高いものはいらないって断るのよ。そして相手の反応見なさい」
「・・・・はーい」
ナミに言われて次の日、
お隣さんがキャビアを持ってきてくれた。
キャビアなんて初めてで大興奮。
・・・・でも、
「とても嬉しいんですけど・・・心苦しいのでもう高いのは、その・・・これで終わりにして下さい」
それとなく伝えてみたら、
「・・・そうか。苦しませるつもりはなかったんだ、すまん」
お隣さんは寂しそうに去って行った。
・・・・・確かに今までたいしたお礼も出来なくて苦しかったけど。
・・・・・・今の方がもっと苦しい。
それからお隣さんがうちに来なくなった。
『お隣さん』なんて、中途半端だ。
行く時にも帰る時にも見えちゃうし、灯りとか気になっちゃうし、
・・・・音だって。
でも今日は仕事で疲れてそれどころじゃなかった。
・・・・・・・あー疲れた。
「・・・・・お客様が神様な訳あるかー!!!」
ストレスの限界で帰って来た瞬間にそう叫んでいた。
やってられるか!!
泣きそうになったけど、隣でごとんと音がして我に返った。
・・・・お隣さんもう帰ってるんだ。
今の聞こえたかな。・・・よし、テレビつけて誤魔化そう。
ぱち、とテレビをつけた瞬間目に映る肉じゃが。
「・・・・・食べたいなぁ、肉じゃが」
そう言えば最初に食べたお隣さんのカレー美味しかったな。
コツ聞けば良かった。
なんてしみじみ思ってたら、お隣さんが出て行く音が聞こえた。
・・・・・切ない。
お腹は空いてるのに何だか食べる気がしなくて、
ぼーっとテレビを見ていたら、ガチャンとお隣さんが帰って来た音がした。
何処行ってたんだろ。何か買ったのかな。
・・・・・ってこれじゃストーカーじゃないか私。
自分の為にもお隣さんの為にも引っ越した方がいいのかもしれない。
・・・・あ、でも私お金ないんだった。
肉じゃが・・・・・・買いに行こうかなぁ、せめて。
「・・・・よし!」
肉じゃが食べて元気出そう!
そう思った時、いつものピンポン。
「・・・・・・・・こんばん、は」
・・・・そっとドアを開けたら真剣な顔のお隣さんが居た。
「食わないか?・・・肉じゃが」
「・・・・・は!?」
まさかの肉じゃが!?
「高くはない。その辺のスーパーで作ったやつだ。・・・作り過ぎた」
「・・・・あは、あははっ有難う御座います!信じられない!」
「いいタイミング、だったか?」
「ええ、とても。・・・嬉しいです、また来て下さって」
「喜んでもらえて良かった。・・・それと、これが最後だ」
最後だ、と渡された小さい紙袋。
「・・・開けてもいいですか?」
「ああ」
了承を得て開けたら、小さい箱の中に、
綺麗なルビーの指輪。
「え、と・・・・・これ・・・は?」
「指輪だな」
「・・・・それは見ればわかりますが」
「受け取って欲しいんだ」
「・・・・私に?」
何故?
「ここに引っ越す前に・・・買ったんだ」
「ってそれもしかして別の人に渡すものでは」
「・・・ここに来る前に会ってた、と言ったら驚くか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・めっちゃ驚きます」
・・・・・・・・私がお隣さんと?
・・・・・嘘?
「その時もさっきみたいに叫んでた。お客様は神様じゃなーいってな」
「・・・・っき・・・・」
聞かれてましたかやはり・・・・!
「その後顔を上げて真っ直ぐに歩き出した姿に惚れたんだ。もう1度会いたいと、探した」
「は・・・・・」
「それでここを探し当てて来た。・・・隣に、居たかったんでな」
驚きのあまり声も出ない。
「俺と結婚を前提に付き合う気はないか?・・・アコ」
「・・・・・・・・お隣さん、じゃなくて」
シャンクス。
私が彼のことをそう呼ぶようになって、
1つの部屋で一緒に住むようになるのは、
少しだけ遠い未来の話し。