短編③
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甲板に簡単な椅子を出して、
座った。
今日は天気も良くて、
波も風も穏やか。
そよ風が気持ち良くて、うとうとしていた。
「風邪引くぞアコ、こんなとこで昼寝なんかしてたら」
「・・・・・いいんです」
「ご丁寧に椅子まで用意しちまってまァ。眠いのか?」
呆れ顔のお頭を一瞥して、
私は再び目を閉じた。
・・・・せっかく寝れるとこだったのに。
「おい、無視か?」
「・・・・・お頭の嘘つき」
目を閉じたままぽつりと呟いた。
「嘘なんかついてないだろ?」
「つきました」
「・・・何のことだ?」
「私のことが、好きだって言った」
「それが嘘だって?」
「・・・・はい」
「目、開けろ」
「嫌です。寝ます」
「・・・・頑固だなァ」
声だけでいい。
顔は見たくない。
見たら泣いてしまいそうだから。
「何でそれが嘘だと思ったかくらい聞かせてくれるだろうな?」
「・・・・・・・・・・・・・ご自分の胸にお聞きください」
「そう来たか。・・・・このまま目を開けないつもりなら、どうなるかわかってるな?」
少しずつ真剣みを帯びて来たお頭の声。
・・・ドキドキしながら、
私は頑なに目を開けない。
「・・・知りません」
言い切った瞬間唇に当たった柔らかいものに驚いて、
思わず目を開けた。
「っおかしら・・・!!」
「やっと開けたな。もっと顔を見せてくれ」
悔しくて顔をぷい、と背けた。
お頭はそれが気に入らなかったらしく、
すぐさま顎を掴まれ勢い良く顔を戻されてしまった。
「いい加減にしろ」
「・・・・・っ」
少し怒っているらしい。
・・・・・でも、そんなんじゃ私は許せない。
「あの日から私・・・ずっと嫌な夢ばっかり見るんです」
「あの日?」
「それで眠れないから、いっそここで寝た方がゆっくり眠れるんじゃないかと思って」
目は見れなかった。
それでも少しだけ、自分の言いたいことを口にしてみる。
「それなら俺が添い寝してやるから、こんなとこで寝なくていいだろう」
「ここがいいんです。波の音が聞こえるから。お頭の側は・・・苦しいです」
「・・・なあ、はっきり言ってくれねェか?」
困惑したお頭の声。
言いたくない。
思い出したくもない、あの日のあの言葉。
「あの日ってのはいつだ?俺はアコに何を言った?」
「もういいです、部屋で寝ます」
立ち上がって部屋に戻ろうとしたけど、
お頭に腕を掴まれて動けなくなった。
「逃がすか」
「お頭、痛い」
「俺がお前を傷つけちまったんなら謝る。だが俺がお前を好きじゃないってのは聞き捨てならねェな」
「だから嫌いです・・・!」
「ずっとそう言ってるつもりか ?」
お頭の言葉にかっとなって、
「私の好きなタイプは細身で優しくて紳士でお酒と争いが大嫌いな若い男の人です!」
思い切り叫んだら、ほんの一瞬だけお頭の腕の力が緩んだのでその隙に私は逃げ出した。
部屋に戻って急いで鍵をかけたら、
すぐに無理やりドアを開けようとする音と、
「今の言葉を撤回しろ」
いつもより少しだけ低いお頭の声。
ここまで言って気づかないなんて、最悪だ。
「嫌、です」
「・・・・そうか、わかった」
ゆっくりと告げられた言葉に胸がずきりと痛んだその瞬間。
ばん、とすごい音がして目の前のドアが壊れた。
それから、ものすごく怒ってるお頭の姿。
肌が少し痛いのは、お頭の覇気だ。
「身体に言い聞かせないと駄目みてェだな」
「っどうせ私はぼんっきゅぼんじゃないです」
「・・・そんなことは関係ないだろう」
「目も大きくないし色っぽくもないし大人しくもありませんし!」
ふ、と張りつめていた空気が緩んだ。
それからお頭は考えるように黙り込んで。
「それを・・・俺が言った、のか?」
小さく問いかけてきた。
だから私は大きくこくりと頷いてみせた。
「すまん、覚えてねェ。・・・いつだ?」
渋い顔のお頭。
「・・・この間の島で、綺麗なお姉さんに」
「あの時、居たのかアコ?」
「迎えに行ったんです。そしたらでれっでれしたお頭が」
私の目の前で言った。
『ねえ、お頭さんの好みの女性を教えて下さらない?』
そのお姉さんがそう聞いたのは私への当てつけだったんだと思う。
迎えに行った私をちらりと見ていたから。
そんな私に気づかずお頭は酔ったまま、
『まずぼんっきゅぼん、だろ?それから目が大きくて色っぽいのがいいな』
すらすらと出て来る私とは正反対のイメージ像。
それはまるでお頭の前に居る女性のことを言っているような。
『大人しい女が良くなぁい?』
『ああ、そうだな・・・いいな』
・・・・・私のことを好きだと言ってくれたお頭の口から。
私と正反対の好みのタイプを聞かされるなんて。
遠回しに本当は好きじゃないと言われた気がした。
直接言われてなくたって、言われたのと同じだ。
あの日から、私は嫌な夢しか見なくなった。
それはお頭が出て来るものから、
関係ないものまで。
「だいたい私を放っておいて美人のお姉さんと飲んでる時点で最低です」
お頭は数か月前私のことが好きだと言ってくれた。
私も好きだったから、
それで両想いになれた。
・・・・・と、勘違いしていたんだ、私は。
「女なら誰でもいいんですか?」
「違う」
「何が違うんですか。ドア直して出てって下さい」
「聞いてくれ、俺は」
「聞きません、知りません」
もう、何も聞きたくない。
お頭の言うことが信じられない。
泣きそうな私をお頭は片腕で強く引きせて、
片腕に閉じ込めた。
「・・・・っ私、大人しくないです、よ!」
思いっきり抵抗を試みる。
「・・・お前の力じゃ俺はびくともしないってわかるだろう?」
「わかっててもするのが私ですから!」
「・・・そうだな、そういう可愛いところが大好きだ」
「またそうやって嘘、」
反論しかけた私の前を壊れたドア越しにヤソップさんが通って、
「お、アレ上手くいったんだなぁお頭」
と声をかけて通り過ぎて行った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・アレ?」
「・・・・・・あいつ」
はあ、と耳元でつかれたため息。
「くすぐったいんで離して下さい」
言ったすぐそばからまたふぅ、と今度はわざとらしく息を吹きかけられた。
「・・・ぁっ」
「・・・色っぽい、だろ」
「・・・え?」
顔を見たら酷く優しい顔のお頭が居て。
こんな状況なのに少しだけ見惚れてしまった。
「俺から言わしてもらえば十分出るとこ出てるし、驚いた時のでっかい目は可愛い」
「そ・・・・そんな、こと」
「いじらないでそのまんまのでかい目の方が魅力的だからな」
「・・・・化粧しなくてすみませんね」
「まあ聞け。ベッドん中では十分に色っぽいし、大人しいと思ってる」
「今言うことですかそれ!・・・・・って、もしかして・・・・!」
「ああ、全部アコのことだ」
・・・・・私のこと?
「でもあの状況じゃ目の前にいたお姉さんのこととしか!!」
「まあ確かに別嬪ではあったが・・・あれじゃつまらねェだろう?」
「つまらない・・・?」
どういうこと?
首を傾げる私にお頭が突然、
「ぎゃああ!何してくれてるんですかぁぁ!!」
胸もとに吸い付いて来た。
「・・・・っ、ぁ」
「そういう反応がたまらねェ」
「んな・・・!」
胸元に出来た赤い痕。
「我ながら上出来だな」
満足そうにお頭が見つめて来るので、
「じゃあヤソップさんの言ってたアレって何ですか!?」
「名付けて妬かせよう作戦だ」
「・・・・・・まんまですね」
もっとすごいことかと思ってたので拍子抜けした。
「作戦は成功だったって訳だ」
「でも何でそんなこと・・・」
「うちは男所帯だから仕方ねェが、いつも妬くのは俺ばっかりなもんでたまには妬かせたいとヤソップに相談したんだ」
「だって・・・お頭は海賊だから・・・束縛しないようにって」
・・・・私なりに色々頑張ってたのに。
「確かに束縛されんのは好きじゃねぇが、妬くくらいはして欲しいなァ」
「・・・・はい」
ほっと安堵したのも束の間。
「で、改めて聞かせてもらおうか」
「え」
「アコの好みのタイプ」
・・・・・・・・・・ですよね。
「私の好きなタイプは・・・逞しくて意地悪でお酒と面白いことが大好きな、おっさんです」
大好きな人。
「よし、じゃあベッド行こうな」
「その前にドア直して下さい」