短編③
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金曜夜、23時。
「だぁからさ、そっちにとって金曜日は花金かもしれないけど私は今日休みで明日明後日仕事なの」
『・・・・古いなアコも』
「悪かったわね。とにかく今日も会えないから、ごめん」
花の金曜日。
金曜の夜に飲んだり遊び歩いて楽しむことの意味。
・・・・そりゃあね?
土日休みの人はそれでいいかもしれない。
でも、
私はサービス業。
・・・・恋人のシャンクスは普通のサラリーマンで。
主にカレンダー通りに土日祝日が休み。
サービス業の私は、
土日に休める訳がなく。
平日・・・主に月曜と金曜が休み。
シャンクスは今日みたいな金曜の夜によく会えないか、と電話をくれる。
時間が早ければ会えるけど、
今日みたいに少し遅いと会えない。
・・・・本当は少しなら会える。
でも少しだけ会ったって寂しいだけだ。
お互いに。
『職業変える気ないか?』
「ない」
『俺と結婚して専業主婦』
「・・・ごめん、まだこの仕事続けたい」
『いや、いいさ。また別の日に改めてプロポーズする』
「シャンクスは・・・しっかり休んで」
『・・・仕事、頑張れよ』
「うん、ありがと」
淡々と返して、
それからじゃあね、と通話を切った。
・・・・はあ、と深いため息が出た。
こんなすれ違いになるなんて思ってなかった。
高校で出会って卒業と同時に付き合いだして、
でも大学一緒でずっと楽しかった。
些細な喧嘩もあったけど、シャンクスが心広いから割とすぐ仲直りも出来た。
・・・・でも今は、喧嘩すら出来ない。
するほど会ってもいないし会話も出来てないんだもの。
私は某大手スーパーのオールラウンダー。
普段はサービスカウンターに立ち、
混雑すればレジも打つし、
必要とされればお寿司も握るしレタスやキャベツの品出し、
お魚を捌いたりお肉をカットしたりもする。
・・・・必要とされてることが、嬉しい。
だからまだ仕事を辞めたくない。
でも、結婚だってそろそろ・・・とは思ってる。
とかいろんなことを考えているうちにもう寝ねければいけない時間。
1人寂しくおやすみなさい、と呟いて布団にもぐり、目を閉じた。
「いらっしゃいませー有難う御座いましたー」
楽しい・・・・けど、仕事であるからには楽しいことばかりでもない訳で。
「ねえちょっと!」
「・・・・はい、いらっしゃいませ」
・・・・・クレームなんかも当然ある。
だけでなくて、無茶な要求だったり、
我が儘な要求だったり。
「はい・・・・はい、申し訳ございませんでした、そのように上に伝えておきますので」
「頼んだわよ!」
この仕事を始めてから世の中には色々な人がいるもんだなぁと思い知った。
でも嬉しいことは、
「あら、ねえ貴方がこの間おススメしてくれたお菓子美味しかったわ、有難う」
「わあ、有難う御座います。またのお越しお待ちしております」
・・・・こういう時。
シャンクスは今頃何してるかなぁ。
1人でお昼ご飯食べてるかな。
どっか行ってるのかな。
・・・・・それとも、何処かで女の人と一緒だったりして。
うーん、駄目だ。とにかく休まないと。
「じゃあ休憩行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
ようやく休憩。
「お疲れさん」
「あ、お・・・・・?」
いつもの調子で笑顔を作ってお疲れ様です、と言い返そうとして固まった。
「・・・・大丈夫か?」
「シャンクス・・・・?」
びっくりした。
目の前に居るシャンクスは本物、だ。
「これから休憩か?上にカフェがあっただろう、飯だけでも一緒にしないか?」
「あ・・・・うん」
呆然とする私を笑って、シャンクスは、
「着替えるだろ?先に行ってる」
エスカレーターに乗って行った。
・・・・・・シャンクスだ。
シャンクスが私の職場に来てる。
遠い訳じゃないけど、近い訳でもないのに。
・・・・いや、こんなことしてる場合じゃない。
慌てて更衣室に行って、上着を簡単に羽織って2階のカフェに向かった。
「お待たせっ」
「そんなに待ってねェから心配するな。何頼む?」
「・・・・えっと、オムライスとアイスティー」
「了解」
こうしてシャンクスを目の前にしても、
私はまだ実感が湧いていない。
シャンクスはカツカレーとアイスコーヒーを注文した。
「突然、すまん」
「・・・うん、ほんと、びっくりしてる。何かあった?」
私の質問にシャンクスは苦笑した。
「何かあったという訳じゃないが・・・我慢出来なかった」
「・・・何を?」
「会いたかった、と言ったら迷惑か?」
ガン、と頭に隕石が落ちて来たような大きな衝撃。
・・・・そんなことすら、今の私には思い浮かばなかった。
「あ、そ・・・そうだよね」
「アコの仕事してる姿も見たかったんだ」
「そんな、たいしたものじゃ」
・・・会えてなかった恋人に会えて嬉しいと思うべきなのに、
今私は戸惑ってる。
何で、どうしてシャンクスがって。
別にやましいことなんかないのに。
「制服新しくなったんだな」
「あれ、言ってなかったけ。パン屋さんみたいだよね」
「可愛い」
「ありがと・・・」
「3連休の初日だけあってそんなに混雑してないな」
「え?・・・・3連休?」
「月曜日が祭日で3連休だ」
し・・・知らなかった・・・!
どうしようそしたら月曜日の人集めして、
シフト作成し直して、
それからそれから・・・・!
「来なかった方が良かった・・・・か?」
「っ・・・・・」
シャンクスの寂しそうな顔に、さっきまでの胸のざわつきの原因がわかった。
「仕事の邪魔をするつもりはなかったんだが・・・」
「っし、仕事は、その、えと・・・・っ」
「・・・どうした?」
「こ、っこの制服あんまり気に入ってないから見られたくなかっただけで・・・っ邪魔、なんて」
「そうか?俺は可愛くて好きだが」
「可愛く、ないよ・・・」
可愛くないよ。
シャンクスより仕事をとる私なんて。
・・・・・フられても当然だ。
当然なのに怖い、シャンクスにフられるのが。
こうしてわざわざ職場に来たのは、私に別れを告げる為なんじゃないかって。
それがざわつきの原因だったことにさっき気づいてしまった。
気づいたら心臓がばくばくと暴れ出した。
さっき以上に落ち着かなくなってきた。
「オムライスとカツカレーお待たせしましたー」
「あ・・・・どうも」
「・・・食うか」
「うん」
・・・・こんなに味がしないオムライスは初めてだ。
ふと、シャンクスの足元に置かれた紙袋に目がいった。
「・・・買い物してきたの?」
「ん?」
「その、紙袋」
「ああ、これは・・・・ちょっとな」
ちょっとな、と言うだけでシャンクスはそれ以上何も言わず、何処か幸せそうに微笑むだけだった。
・・・・・それがまた、私を不安にさせた。
「そっか。・・・・カツカレー美味しい?」
「美味い。食べるか?」
「え、いいよ」
「ほら」
あーん、とシャンクスがカレーを乗せたスプーンを突き出してきた。
「・・・っ」
カレーもやっぱり味はしなかったけど、何だか無性に涙が溢れた。
「・・・・っごめ、なさ・・・」
「熱かったか!?」
「ちが、」
「美味くなかったか?すまん、吐き出してくれていい」
「違う・・・・ごめん、私・・・仕事、ばっかりで」
ごめんなさい。
だからどうか、嫌いにならないで。
止まらない涙にシャンクスは少し焦った様子で心配してくれた。
「気にしなくていい、そんなこと」
「・・・・でも」
「そんなことより俺が土日に何してるか気にならないか?」
「・・・・気になる」
浮気宣言だ。
きっと。そしてフられるんだ私。
「休みはまぁ家で寝てる日もあったが、1人でふらっと出かけてたんだ」
「何処に・・・?」
「色々な。買いたいモンも買った」
「何、買ったの?」
「俺のじゃない。仕事を頑張ってる愛しい恋人へ」
そう言ってシャンクスは足元に置いてあった紙袋を私に差し出した。
「・・・・・・私?」
「しばらく会えなかったんで随分溜まっちまった」
「開けても、いい?」
「勿論だ」
少し大きめの紙袋の中にはごちゃごちゃとたくさんの箱。
「わ・・・・」
思わず声が出る程。
そしてその中身はそれぞれで、
「ブレスレットにネックレス、ヘアアクセに鏡・・・ストラップ」
そして、
「指輪・・・」
「今でなくていい。・・・いつか、いいと思える日が来たら俺と結婚してくれないか?」
「わ・・・・たし・・・は」
・・・・この期に及んで、まだ渋ってる、最低な私。
「アコが今の仕事が好きなのはわかってる。だがこの店でなくてもいいんだろ?」
「・・・・・へ?」
「家から近くもないしな」
「・・・・っと、シャンクス?」
「ついでに報告だ。俺は昨日で会社を辞めた」
「・・・・・はあああ!?」
いきなりのことに驚きを隠せない。
何!?何が起きてるの!?
「そして会社を作ることにした。スーパーを作るつもりだ」
「・・・ま、待って。ちょっと待って」
「手伝ってくれないか?」
「・・・・どういう、」
「俺たちの家の近くにスーパーを作る。楽しそうなお前の顔を俺にもっと見せてくれ」
呆然。
でも1つわかったのは、
「・・・私、フられるんじゃないんだ・・・」
この言葉に今度はシャンクスが驚いた顔をした。
「俺が別れを望む訳ないだろう?こんな可愛い恋人に」
「・・・・だってずっとすれ違ってたし、私仕事ばっかりで」
「俺だってそうだ。そんなことで手放したりしねェさ」
「良かった・・・・・ぁ」
「じゃあ改めて。俺と結婚して一緒に働いてくれないか?・・・必要なんだ、アコが」
すっと手を取られて、ちゅ、と手の甲に口づけられた。
ああ、こんなことされたら私。
「・・・シャンクスの側で働けるなら私頑張る。でも今日は返事、保留でもいい?」
「ああ、構わない」
「ホントはね、もう決まってるんだけど。・・・返事しちゃったらこの後仕事にならないから」
ニヤける口もとを抑えるのが大変。
「・・・楽しみにしてる」
「有難う、シャンクス」
「同じ仕事になったら・・・金曜日を休みにしよう」
「・・・何で?」
「2人でデート出来る金曜なら、土日休みじゃなくても花の金曜、だろう?」
「あははっ、そうね。花の金曜、楽しみ」
「っと、そろそろ時間だな。さっさと食っちまおう」
「あ、うん」
笑いながら食べたオムライスはすごく美味しかった。
これからは、
一緒に出掛けて美味しいものを一緒に食べる花の金曜日が過ごせそう。