短編③
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それを見つけたのは偶然だった。
同棲して数か月の恋人、シャンクスの仕事で使う必要な、大事な書類。
そういえばシャンクス昨日忘れ物ないようにって確認して鞄から出してたっけ。
確認してまた入れるの忘れたのね、きっと。
持って行ってあげないと、とシャンクスの職場へ向かうことにして。
・・・・・それを見たのも、
やっぱり偶然。
見慣れた赤い髪、
後ろ姿。
・・・・その人が、
私の知らない女の人と腕を組んで歩いていて。
ホテルに、入って行ったのを、見たのも。
呆然としながらも、手に持っていた書類だけは、と会社に持って行って。
「これ・・・・・シャンクスに渡してもらえますか?」
「ああ・・・生憎と今居ないんだ、あの阿呆は」
同僚のベンさんに渡した。
「お願い、します」
「・・・・どうした?」
「え?」
「喧嘩した、って話しは聞いてないが。妙に動揺してるように見えるな」
ベンさんの心配そうな顔に覗きこまれて、
思わず目頭が熱くなるのを抑えきれなかった。
涙が零れた。
「実はさっきシャンクスが・・・・・っ」
さっき見たことを全部話した。
「・・・・・それは確かにあいつだったのか?」
「・・・・後ろ姿は間違いなくシャンクスでした。顔は、見てませんけど」
顔が見えなくて良かった。
今はそう思う。
もしシャンクスがあの時笑顔だったのなら。
ショック、どころの話しじゃない。
「・・・そんな浮気野郎の為に書類を持ってくるとはお人好しだな」
「シャンクスにも言われたことあります、お人好しって」
「こんな書類破り捨ててやれば良かったんだ」
「そしたらベンさんにも迷惑がかかるでしょ?それに・・・・・・私」
ああ、ベンさんと話してたら何だか落ち着いて来た。
良かった。
「良くねェぜ、阿呆だけならまだしも浮気もするくそ野郎」
「・・・・何のことだ、ベン」
家に忘れたと思っていた書類をベンから渡されて、
良かった、と口にした俺にベンが妙に突っかかって来た。
「その書類が空から降って来たとでも思ってんのか」
「・・・・アコが来てくれたんだな?」
「泣きながらな」
「泣きながら?」
「アンタが他の女とホテルに入るところを目撃したそうだ」
あまりの衝撃に心臓が止まったかとさえ思った。
「アコ、が・・・・・・」
「・・・・その様子を見ると本当らしいな」
「・・・・・ああ」
一緒に住み始めてから、表情や仕草、
可愛さにアコへの愛が溢れて行った。
同時に湧き上がっていく不安。
どんなに近くにいても、年齢が離れていることだけはどうにもならない。
いつか飽きられるのではないか。
若い方がいいと言われるのではないか。
そう思っていた。
「それで浮気か」
「・・・・最近、1つ下の後輩から好意を受けていた」
大切な人がいるから、と断ってはいた。
「逃げたのか」
「違う。・・・・聞いたんだ、アコの心を」
彼女が持っていたスマホから流れて来た音声は、
『歳が離れすぎてるっていうのはやっぱり辛いかな、同棲してみてなんかただのオジさんだなあって・・・・魅力感じなくなっちゃった』
・・・というものだった。
「それで女の要求を呑んだのか」
「ああ・・・・・」
アコに罪悪感がなかった訳じゃない。
それでも、俺は。
俯いた瞬間頬に激しい衝撃と痛み。
「・・・・っ」
ベンに殴られたのだとわかった。
「あいつが何て言ってたかわかるか?」
「・・・・アコは俺を責めてただろうな」
想像するだけで心が痛い。
「シャンクスには何か事情があったのかもしれません、と言っていた」
「なん・・・・・・」
『それに私、浮気じゃないかもって今は思います。シャンクスには何か事情があったのかもしれません』
「浮気だったとしても魅力のなくなった自分が悪い、魅力ある女の人に惹かれるのは仕方のないこと、だと」
「アコが・・・・・・・・・」
「それは確かにあいつの声だったのか?本当にそう言うと思ってるのか?阿呆の極みにも程がある」
「そう、だな・・・・」
「惚れた女が傷ついて、こんなことしか出来ねェ俺の立場ってもんを考えろ」
「・・・・・すまん」
「謝るのは俺か?」
「・・・・・そうだな」
今俺が会わないといけないのは。
「アコ!」
家に帰れば身体が震えているアコの背中が見えた。
「シャンクス!?なんで、仕事・・・・っ」
振り返ったアコの目は赤い。
「謝って済むことじゃないのはわかってる・・・・だが謝らせてくれ・・・すまなかった!!」
「・・・・ベンさんから聞いたの?」
「ああ・・・本当に、すまん・・・・俺が愛してるのはお前だけだ」
アコは寂しそうに笑って、
「信じていい?」
俺に手を伸ばしてくれた。
俺はその手を取って、抱きしめて口づけた。
「また信じてもらえるように努める・・・アコは、必ず俺が守る」
心も、守りたい。もう2度とこんな顔をさせたくはない。
「うん・・・・シャンクス」
「アコ・・・・・っ」
アコの唇に再び自分の唇を重ねて、
誓った。
後日、アコへの詫びに何かプレゼントを、と買い物デートをしていた時。
「あ」
アコが声を上げたので何かと思ったら、
目の前に・・・例の後輩が立っていた。
「先輩、私会社辞めました」
「・・・・・そう、か」
「あの音声、詳しい友達に頼んで合成で作ってもらったんです。ご迷惑おかけしてすみませんでした」
そう言って深々と頭を下げたあと、
アコに向かって、
「あなたにも・・・・ごめんなさい」
それからアコの耳元で何かを囁いて、
「お世話になりました」
と去って行った。
「・・・・・アコ、なんて言われたんだ?」
気になって聞いてみたが、
アコは嬉しそうに笑んで、
「内緒」
と言うだけだった。
あの時は後ろ姿しか見てなかったのに、確かにわかった。
目の前に立った女の人が、あの時シャンクスの隣に居た人だと。
その人が私の耳元で、
「安心して、ホテルでは何もしてないから。私身体には自信あったのに、アコじゃないと駄目だって」
「え・・・・」
私が言うのもなんだけど、お幸せに。
・・・・年齢で不安になることもあるけど。
シャンクスとだから、
幸せになれると私は信じてる。
心の何処かにあった不安は、
消えた。