短編③
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「何それ」
「DVD」
エースがいそいそと何かを準備している。
「・・・・それは見ればわかる。何のやつ?」
「S子襲来」
「・・・・楽しそうなタイトルね」
エースが明日休みだから、とレンタルビデオショップで借りて来たらしいもの。
それはパッケージを見ただけでわかる。
「面白そうだろ?」
「ホラーでしょ、それ」
「おう!」
何でホラー物見るのにそんなイイ笑顔で元気良く返事出来るのこの人は!!
・・・・我が恋人ながら、理解出来ない一面である。
エースと同棲を始めて数か月。
色んな壁にぶつかってはきたけど、
何とかやってきた。
これは初めての壁だ。
「じゃ、私お風呂入って来るからごゆっくり」
「一緒に見ようぜアコ」
「嫌」
「一緒に見ようと思って借りてきたんだぜ?」
「私ホラー苦手なの」
「知ってる」
私の心からの告白にエースはにっこり。
「なら何故借りて来た!?」
「俺が居れば怖くないだろ?」
「エースがいても怖いものは怖い」
「でもお化け屋敷は平気だろ?」
「だってアレは目の前にあるから作り物だってわかるし」
「これだって作られたもんだってわかってんじゃねェか」
エースが不思議そうに首を傾げる。
「こういうのは何か主人公の気持ちになっちゃうっていうか・・・とにかく駄目なの」
ね、と念を押して今度こそお風呂に入ろうとしたら、
「嫌だ」
ぐい、と無理やり抱き寄せられた。
「・・・っエース」
「なァ、いいだろ」
甘えるように囁いてくるエース。
「・・・エースも怖いの?」
「怖いって言ったら一緒に見てくれんの?」
「見ないけど」
「・・・見ろよ」
私の返事にがっくりと肩を落としたエースは、それでも私も背中に手を回したまま。
その顔はまるで餌を前にお預けをくらってる子犬のように寂しげ。
・・・・ぐっ、この顔に私は弱いんだよ・・・!
負けないけど!
「エースは怖くないんでしょ?」
「・・・まァな」
「じゃあ私居なくても」
「好きな女と一緒に好きなモン見たいってのは駄目なのかよ」
「・・・駄目じゃないけど」
「じゃあいいだろ?」
「・・・・・・・・・ちょっとだけなら」
「っしゃ!」
・・・・・・負けた。
拗ねてるような寂しそうなそんな顔でじっと見られたら無理。
あくまで私が怒ってないかと反応を確認するように見つめられたら無理。
私の返事にエースはぱっと腕を離し、
楽しそうにソファに座り、
「ほらここ座れよアコ」
自分の隣をぽんぽんと叩く。
・・・・子供みたい。
テーブルの上にはお茶とお菓子。
言われるがままにエースの隣に座ったら、
「逃がさねェからな?」
「え」
ぐっと腰を掴まれた。
「・・・・ちょっとだけって」
言ったよね!?
「まあちょっと最後まで見てけって」
「何それ何処の詐欺師」
「はい再生」
「ぎゃあああ!!」
「まだ始まってねェだろ。怖かったら俺に抱き着いてていいぜ」
エースはご機嫌でリモコンをいじる。
ったくもう・・・!
ぱっと画面に映る男と女。
「この2人が主人公みてェだな」
「だね」
どうやら2人は恋人同士。
ネットで噂の幽霊が出る場所に面白半分で行った2人。
その日は何も起きず、
次の日男の方が突然行方不明になり、それから彼女が一生懸命に彼を探しながら怖い思いをすることになるようだ。
「うわぁ・・・・」
「まだ序の口だぜ?」
「わかってる・・・・っ」
まだS子も出てきてないし!
怖い思いをしながらも、彼女はどうやら彼が居なくなったことにはS子という霊が関係していることを知る。
諦めず探し続ける姿に、
ホラー物ながらも感動を覚えざるを得ない。
「・・・・・・・・・・諦めればいいのに」
「・・・酷ェ。俺が居なくなっても探してくれねェのかよ」
ぽつりと呟いた私にエースが反応した。
「だってエースはいなくなったりしないから」
言いながらエースの服の袖をぎゅ、と握った。
エースは嬉しそうに目を細めながら、
ちゅ、と1回だけ私の頬に軽く唇を落とした。
「万が一、居なくなったら?」
「・・・・・・少しだけ探す」
「・・・・愛がねェなおい」
「エースは私が怖い思いしてもいいんだ?危険な目にあっても?」
「いい訳ねェだろ」
「じゃあいいじゃん探さなくても」
「・・・・じゃあ俺と会えなくなってもいいのかよ」
「良くないけど・・・・」
エースと会えないなんてそんなの考えられない。
だからこそ一緒に住んでる訳で。
「けど?」
「エースならきっと来てくれる。私が呼んだら。私が・・・泣いたら」
きっとそれだけで。
エースは来てくれるって信じてるから。
だから、
「だから呼ぶ。エースの名前、ずっと」
「・・・・当たり前だ。絶対行く」
「エース・・・」
テレビそっちのけで2人見つめ合った。
お互いの顔が近づいて。
・・・・あとほんの少しで唇が重なるところで、
『ころしてやるぅぅ!!!』
S子登場。
で、その声に驚いた私が、
「ほわぁぁぁ!!!」
咄嗟にエースの胸にダイブしていまい。
「あ」
顔を上げたらエースの怖い顔。
「・・・S子絶対許さねェ」
「・・・・・きゃーエースガンバッテー」
「俺は居なくなったりしないからな。アコを危ない目にあわせたりしねェし」
「うん」
「だから」
「・・・・うん?」
「ちゅーさせろっ!!」
言うなりエースの唇が私の唇と重なった。
「ん・・・・んっ・・・・・」
「・・・会えなくなったらキスも出来なくなるんだもんな。絶対ェ無理」
それからそのままゆっくりソファに押し倒された。
・・・・・あれ?
「エース?」
「ん?」
「・・・・S子さん襲来したよ?エース君振り向いてーって言ってるよ?」
「聞こえねェ」
「・・・見ないの?」
「もういい」
「せっかく借りて来たのに?」
「別にS子じゃなくても良かったんだけどな、アコとくっつきたかっただけ」
そしていたずらっ子のような笑みを浮かべたエースともう1回キスをして。
私もS子さんに負けないようにエースを腕に閉じ込めた。