短編③
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「・・・・ふぅ」
こんなもんかな。
広い船内の掃除はキリがないので、
このへんで休憩にしよう。
そう思って食堂に行ったら、
「・・・・・・・・何してんですかお頭」
お頭が冷蔵庫の横でしゃがみこんで、
・・・お酒の瓶を持っていた。
私と目が合うと、
お頭はいたずらがバレた子どもの笑みを浮かべた。
瓶を一旦置いて、人差し指で静かに、の合図。
私は冷蔵庫からジュースを取り出して、
グラスに注いだ。
飲もうとしたら、
カチン、と金属音がしたので見てみたら、
お頭の持っていた瓶が当たった音だったらしい。
「乾杯、だな」
「・・・また昼から飲んで。怒られますよ?」
「ああ、だからあいつらには内緒にしてくれ」
へら、と笑うお頭の情けないこと。
・・・・・これが四皇で、
これがうちのお頭か。
「そのうち見つかっちゃうと思いますよ。・・・・でも、乾杯」
私の乾杯にお頭は嬉しそうに笑う。
・・・結局私はお頭の笑顔が好きなんだよね。
「ん、美味い」
「お酒だけ飲んでるの身体に毒ですよ?」
「適当なツマミがねェからなァ」
「・・・簡単なものでいいですか?」
「お、作ってくれるのか」
「あとでコックさんに謝っておいて下さいね、食材勝手に使っちゃいますから」
「船は予定通りに進んでる。問題はねェさ」
「どっかの誰かさんが毎晩のように宴にしたりしなければ大丈夫なんでしょうけど」
「想定内だ、あいつらだってわかってるだろう」
お酒を飲みながら上機嫌で笑うお頭を、
何故かカッコイイとさえ思ってしまった。
「ほんとに適当ですからね!」
再び前置きをして、料理開始。
フライパン出してー
焼いて。
あとはこれを和えて、
うん。
「・・・って、お頭」
包丁を持った私の首に巻き付いたお頭の片腕。
「怪我するなよ」
「今まさに怪我しそうです、お頭のせいで」
くるりと顔を向けて睨み付けたけど、
お頭はにこにこ。
「何作ってるんだ?」
「レンコンチーズ焼きときゅうりのピリ辛和えです」
「美味そうだ」
「・・・・腕、ほどいて頂かないと料理出来ないんですけど」
「こうしてると落ち着くんだ」
と、今度は私の頭に顎を乗せて来た。
「・・・私包丁持ってるんですけど」
「知ってる」
・・・・この余裕は四皇だからか、
それとも仲間だから、なのか。
絶句する私をどう思ったのか、
「心配しなくてもお前に怪我なんてさせたりしねェよ」
と笑った。
・・・・そっちの心配!?
かなーりやりづらいけど、
あとはお皿に盛るだけだし、まあいっか。
諦めてお頭を背中にくっつけたまま料理再開。
「・・・・よし、出来た」
少し時間はかかったけど完成。
「・・・・お頭?」
それでもまだ離れないお頭に声をかけたら、
ようやく頭に乗ってた顔が離れた。
首に巻き付いた腕もゆっくりと離れてほっとしたら、
「え、」
今度は私の腕に絡みついた。
「一緒に食おう」
「私はいいですよ、お頭の分ですし」
「こういうのは一緒に食うもんだ、ほら行くぞアコ」
ぐい、と腕を引っ張られて料理を持ったままテーブルへ。
「・・・もう」
料理をテーブルに置いて、
お頭の隣に座った。
・・・こんなお頭のワガママに振り回されてる自分も、
嫌いじゃない。
・・・・と思ってしまう。
「いただきます」
「・・・どうぞ」
ちゃんと礼儀正しく挨拶する姿はおかしくも可愛い。
「美味ェ。最高だな」
お頭の美味しそうに食べる姿にほっとした。
「ほら、アコも食え。飲め」
「私はジュースだけで。お頭もどうせ夜も飲むんですから程々にして下さいよ?」
「倒れたら介抱頼む」
・・・こんなことなのに、
頼む、なんて言われたら。
「・・・・頼まれました」
・・・・って言うしかないじゃないか。
「んな堅苦しいことより、ほれ」
「え」
お頭がレンコンを私の目の前に突き出してきた。
・・・・た、食べろと?
「ほれ、あーん」
「じっ自分で食べます!・・・ん・・・っ」
文句を言おうと開いた口に放り込まれたレンコン。
「あ、美味しい。・・・・・・・じゃなくて!」
「美味いだろ?」
・・・・やっぱりその笑顔に文句が言えなかった。
悔しい。
「昼間からこんなとこで酒盛りか?お頭」
「あ」
お頭の後ろにどんと現れた、
ベンさん。
「いいだろ?嫁手作りのツマミだ」
「嫁じゃないです!!」
「こんなとこで飲んでる場合じゃないだろう、あんたは・・・航海士が話しがあると言ってたんじゃないのか?」
「・・・言われてみりゃそうだった気もするな」
「半泣きであんたを探してた」
「あとで探しておく」
「今探してやれ、今」
「今は駄目だ。大事な用がある」
「何が大事だ」
「2人きりにしてくれ、わかるだろ?」
「・・・・あとで覚えておけよ」
なんて呆れ顔を残しつつ去って行った。
・・・こんな風に仲間に怒られるお頭って他に居るのかしら。
「いいんですか?航海士さん」
「緊急ならベンがここを教える。大丈夫だ」
・・・・こういう楽観的というか、
信頼してるとことか。
・・・・すごいなぁって思う。
「それより悪かったな、休憩中に」
「いえ、そんな」
「おかげで昼からいい気分だ」
そう言われるのは嬉しいんだけど、
一応ここは海賊船。
「・・・今敵船来たら余裕でやられそうですね」
なんて思ってしまった。
でもお頭は途端不敵な笑みを浮かべた。
「馬鹿言え。余裕でうちの勝ちだ」
「でもお頭結構酔ってらっしゃいますよね」
「アコに酔ってんだ、だから問題ねェ」
・・・・これ相当酔ってるかも。
「・・・まぁ、皆居るし大丈夫ですね」
信頼できる仲間ばかりだから。
そう思って言ったんだけど、
お酒を置いたお頭が私を睨みつけた。
こんなお頭の顔、見たことない。
「・・・・お頭?」
不安になって名前を呼んだら、
手を引かれた。
身体ごとお頭の方に吸い寄せられて、
驚く暇もなく額にちゅ、とお頭の唇が触れた。
「・・・・・・・・・へ?」
「仲間を頼るのも悪くはねェが、お前が1番に頼るべきは俺だろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
熱くなった顔で、
おでこを押さえながら呆然と返事をするのが精いっぱい。
私の返事にお頭は満足そうに笑う。
それが何だか悔しくて、
「・・・っていうかお頭お酒くさいですよ」
せめてもの反論。
だったはずなのに、
「俺から言わせりゃお前の方が」
と言われてしまった。
「え、私お酒臭いですか!?」
飲んでないのに!
驚く私にお頭がにやり。
「酒じゃねェ。何つーか・・・俺を誘惑する匂いがな」
「ゆうわっ・・・・!!」
「だから俺は悪くない」
「え?」
そう言ってお頭は、
今度は
私の唇に、
お頭の唇が触れた。
「・・・・・俺の女になるだろ?アコ」
「・・・・・・・・・・・・・・はい」
やっぱり、
呆然と呟くしかなかった
ちょっと情けなくて、
カッコ良くて優しくて強引な。
うちのお頭。
・・・もとい恋人。