短編③
夢小説設定
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「心中?」
難しい言葉だな、と思った。
同時に嫌な言葉、だとも。
所用があってイゾウさんの部屋に行ったら、和の国の本が出ていた。
イゾウさんによればそれは物語だと言う。
和の国の物語ってどんなのがあるんですか、と聞いた結果が冒頭の台詞に繋がる。
「恋愛物も多いが、悲恋も多いな」
「・・・・・・・・・・心中、ですか」
悲恋って言えば普通はフラれる、ってのが多いイメージ。
心中っていうのは、
一緒に死ぬ、ってことだよね?
「・・・・心中なんてクソ食らえ」
ぼそっとイゾウさんが呟いた。
「はい!?」
「そんな顔してる、ってことさ。そう思ってんだろ?」
・・・・・・・・・バレてた。
「思ってます、よ。いくら好きな人とだって死ぬなんてゴメンです」
「例えどんなに辛い状況にあってもそう言えるか?」
「・・・・え?」
イゾウさんの思わぬ言葉に戸惑った。
辛い状況?
「金もねえ、住むとこもねえ、着る物も食べ物もままならねえ。そんな状況で、
2人で居れればそれで幸せかい?」
「・・・・・・・・・・・幸せじゃ、ないです」
「それなら一緒に死んじまおう、って思うんじゃねえのか」
確かに辛い状況にあればそんなことは言ってられない。
でも、
「思いません」
「・・・・・・・・・・本当に?」
「だって死んだら駄目ですよ」
「でもなアコ。心中ってのは相手への義理立ての意味もあるんだ。相手への愛が変わらない誓いの証ってな」
イゾウさんのその言葉を聞いても、私の中に浮かぶのはもやもや。
「そんな誓いいりません」
「この人となら不幸になってもいいと、そう思える相手はいねえか」
「居ません」
即答で返せばイゾウさんは目を丸くした後、く、っと笑った。
「・・・・アコにゃまだ早いか?」
「・・・・好きな人ならいます、けど」
「けど?」
「私が好きだなって思う人は不幸になっても一緒に乗り越えてくれる人だって信じてますから」
どうにもならないことだってあると思う。
辛くて仕方ない時も。
でも、
「好きな人には笑ってて欲しい。幸せにしたい。今は辛くても未来を信じて一緒に生きて欲しい、です」
「・・・・・・・・なるほど、そいつぁアコらしいやね」
にぃ、と唇を引き上げて笑う艶姿。
「・・・・・・・・・イゾウさんは、乗り越えてくれないんですか?一緒に」
「お姫さんのお望みとあらば」
優しく笑うイゾウさんに見とれていたら、
不意に引き寄せられた。
「・・・・・・・・俺は離す気はないぜ?」
「私も、ですよ。ずっと一緒に生きて下さい、ね」
抱きしめられた時のあたたかさが、
ずっと続きますように。