短編②
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「俺と別れてくれアコ」
「え、あ・・・・・・うん。わかった」
突然だった。
本当に何の予兆もなく、
私は恋人であるシャンクスに別れを告げられた。
心の準備も何もあったもんじゃないから、
勢いでそう答えてた。
そして、
「えーと・・・じゃあ、元気で」
それだけ言って、
私は呆然としながら家路に着いたのだ。
「はぁ!?何それ」
「・・・ねえ?」
「ねえじゃないわよ!あんた何してんの!慰謝料くらいもらってから別れなさいよ馬鹿ねー」
「慰謝料って・・・結婚してた訳じゃないんだから無理だよ、ナミ」
「にしたって何でそんなアッサリ別れちゃったのよ勿体ないわねー」
ナミらしい言い方に思わず苦笑する。
幼馴染のナミには、
シャンクスと付き合う前から色々相談に乗ってもらってたから。
だから別れた、ってメールしたら飛んできてくれた。
「・・・びっくりして言葉が出てこなかった」
「そりゃ驚くわよね。あんた達あんなに熱々だったのに。心当たりないの?」
「まったくない」
別れようと言われるまで、いつも通りだった。
これと言って喧嘩もしてない。
だからもし理由があるなら、
「・・・シャンクスに好きな人が出来たんじゃないかな」
「それはないわ。絶対ない」
「いや、でも」
「ないわよ。ある訳ないじゃない、私はつい2日前にあんた達を見たのよ」
「・・・・そうなの?」
「そうよ。その時のシャンクスの様子からはそんなの微塵も感じなかったもの」
「・・・感じなかっただけじゃ」
「わかるわよ!もう気持ち悪いくらいでれっでれしてんのよ!あんたに!」
「・・・・すみません」
ナミの勢いについ謝ってしまった。
「あんたもねえ、せめて理由くらい聞いてから別れなさいよ」
ナミが私のことを心配してくれてるのはわかってる。
でも、言いたい。
「あのね、ナミ。シャンクスって優しいんだよ、すごく」
「・・・・だから?」
「その優しいシャンクスにあんなこと言わせちゃったって私反省してる」
きっと私がそこまで追い詰めちゃったから。
途中で気づいてあげれば良かったのに。
私は気づかなかった。
だから・・・・これで良かった。
「・・・アコのお人好しなとこ嫌いじゃないけど、どうかと思うわ」
はぁ、と呆れのため息を吐くナミに、
「今日は宴ね!付き合って、ナミ」
ワガママなお願い。
シャンクスと付き合えた日も、宴をした。
「わかってるわよ。ぱーっとやるわよ、ぱーっと!」
「おおー!!」
・・・・・なんて、言ってはみたけど。
「今日はありがとねナミ!」
「今度会ったら私が慰謝料ふんだくってやるからね!」
「あはは、よろしくー」
・・・・ナミを見送って、1人になった途端。
じわりじわりと寂しさが押し寄せて来た。
今までなかった、実感も。
・・・・・そっかぁ、私シャンクスと別れたんだ。
もう会えないんだ。
もう、好きって言ってくれないんだ。
もう抱きしめてくれないんだ。
キスも、してくれないんだ。
・・・・あの笑顔が、見られないんだ。
こういう時ってどうしたらいいんだろう。
あ、連絡先消しとくべき?
いやー意外と冷静だなぁ私。
・・・・・涙、零れてるけど。
頭ん中ぐちゃぐちゃだけど。
「・・・・っ何もわかってないわ、私」
何がわかった、だよ。
何もわかってないじゃん、私。
シャンクスと別れるってことがどういうことか。
でもきっとこの感情は序章に過ぎなくて、
明日になったらもっと、
明後日になったらもっともっと、辛くなるんだ。
私・・・・耐えられるのかな。
「・・・・・・ぅ・・・・っ」
悔しい。
シャンクスの辛さに気づいてあげられなかった自分が。
悔しい。
何も知らず笑ってた自分が。
・・・・・辛い。
シャンクスと、会えない日が来ることが。
・・・・・・悲しい。
もう、謝ることさえ出来ないことが。
「・・・っごめんね、しゃんくす・・・」
今ここで、呟くことしか出来なくて。
もう届かない言葉。
・・・・・だと、思ってた。
「・・・・・すまん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
聞きなれた声が下から聞こえた。
あれ、おかしいな。
幻聴が。
つられて下を向いたら、
赤い髪が見えた。
「・・・・本当に、すまなかった・・・・!」
切迫した声。
あの時と、同じような。
「・・・・・シャン・・・クス?」
頭を下げたシャンクスがいきなり現れた。
「・・・別れたいと言ったのは嘘だ」
「・・・・・・・・・・・・・う、そ?」
うそ?
ゆっくりと顔を上げたシャンクスは、
やっぱり辛そうで。
何が嘘で、何が本当なんだか。
「別れるつもりはなかった」
「どういう、こと?」
「アコの反応が知りたかった。・・・傷つけることがわかっていても」
まだ上手く働かない頭で考える。
「えーと・・・・・・・とりあえず殴っていい?」
出た結論。
「勿論だ」
シャンクスは迷う素振りも見せずに頷く。
「・・・・や、いい。今の嘘」
どうしよう。
「・・・・あのねシャンクス?私不意打ちに弱くてね?」
だから今朝も突然のことに対応出来ず頷くしか出来なかった訳で。
「わかった。なら心の整理が出来るまでここに居よう」
「え」
普通明日出直すとか言うとこじゃないのここ。
待って待って、えーっと。
こういう時は原点から考え直そう。
私はシャンクスのことが好きで。
だから付き合ってて。
何処が好きかっていうと優しくて心が広くて。
・・・いつでも私を守ってくれるとこで。
それは付き合い始めてから今まで何も変わらなくて。
じゃあそのシャンクスが、
私を傷つけることを承知でどうしてあんなことを言ったのか。
「・・・・・とりあえず、あがって?」
「いや、ここでいい」
「駄目。・・・・突然だから散らかってるけど、あがって」
「・・・邪魔する」
シャンクスはいつだって突然で。
告白された時も突然だった。
『好きなんだアコ、付き合ってくれ』
『あ、はい』
・・・・って感じで付き合い始めた。
ナミには、
『私が散々アドバイスした意味は!』って少し怒られたけど、
でも喜んでくれた。
まさかシャンクスも私のこと好きでいてくれてたなんて思ってもいなかったから。
「・・・・どぞ」
座布団を出して、そこに座ってもらう。
シャンクスは何も言わない。
・・・・私の言葉を待っててくれてる。
「とりあえず・・・良かった」
今私が言えること。
「・・・良かったってのは」
「シャンクスにまた会えて・・・お別れ、嘘で」
良かった、本当に。
「勝手は承知で言わせてもらうが・・・許してくれ」
「・・・私も。わかった、なんて言っちゃってごめん。何もわかってなかったのに」
すごく後悔した。
「・・・・ベンに炊きつけられてな」
「え・・・何を?」
「別れを切り出してみろ、どうせフられると」
「・・・・・・・それで突然、別れようって」
「ああ。俺自身悩んだんだが・・・言われてみたかったんだ、別れたくないと」
・・・・・にも関わらず私はあっさりとわかった、と言ってしまったと。
「まさかああ来るとは思ってなかったんで驚いた。・・・・焦った」
「ごめん、ほんっとごめん」
「わかってはいたんだ、突然言ったらどんな反応になるか」
タイミングを間違えた・・・・とシャンクスが項垂れた。
「・・・これからはちゃんと心の準備させてくれる?」
「もう言わねェ、絶対にだ」
シャンクスが言いながら手を伸ばしてきたから、
仲直りの合図だと思って手を取ったら、ぐいっと引き寄せられた。
「あ・・・」
「・・・もう離さねェ」
「うん、私も」
「今から大事なことを言う。心の準備してくれ」
「・・・・わかった」
ドキドキと高鳴る心臓が、シャンクスに聞こえそうな程密着した身体。
無理なことはわかっていても、
落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせた。
「うん、大丈夫。何?」
「結婚しよう」
「・・・・・・・・それ、は。考えるまでもないかも」
だってこんなに好きなんだもの。
「返事を聞きたいな」
「末永く、よろしくお願いします」
人生はいつでも突然転機が訪れるらしい。
別れも結婚も。
「アコ、キスするぞ?」
「待って心の準備するから・・・!」
心の準備なんて、
「あ・・・・っん」
待ってくれないらしい。