短編②
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ざざん、ざざんと波の音が耳に響く。
・・・片腕のない、背中。
きっとどんなたくさんの人が居てもすぐに見つけられるであろう鮮やかな赤い髪。
「シャンクス」
呼びかければ振り向いてくれて。
・・・射抜く視線はまるで獣。
私は彼から、目が離せない。
「・・・見送りに来てくれたのか?」
誤魔化すように笑ったシャンクスに、
「何で海賊だって私に言わなかったんですか?」
私はまっすぐに言葉を投げかけた。
シャンクスは少しだけ驚いたような顔をした。
地図にも載ってないような小さい島に、
2年前彼は来た。
たくさんの仲間を引き連れて。
旅人だ、と彼は言った。
船を見れば、その髑髏で海賊だということがすぐにわかったんだろうけど。
情けないことに小さなケーキ屋の店主である私は船に興味を持てず、
毎日ケーキ作りにいそしんでいた。
彼はたまにケーキを買ってくれて、
店にあるイートインスペースで美味しいと食べてくれた。
この島を拠点にしばらく旅をする予定なんだ、と今までの旅の話しをよくしてくれた。
その話からも彼が海賊であることなんかこれっぽっちもわからなかった。
彼はお土産もくれた。
旅に出て、帰って来たと言ってはお店に顔を出して、
花や、珍しい物を私にくれた。
本当に旅が好きな人なんだな、という印象を受けた。
彼は店でもケーキを食べてたし、
お土産に持って帰ってたりもしたから甘い物が当然好きなんだと思ってた。
でも本当は大酒飲みで甘いものはあまり好まない、ということを知ったのは出会ってから半年を過ぎた頃。
酒屋で仲間と楽しそうにお酒を飲む姿を見た。
「お酒が好きなんですね」
と言ったら、
「両方イケる口なんだ」
と言われた。
・・・でも本当は、お酒の方が好きなんじゃないかなあと思った。
何を話す時も心の底から楽しそうに笑う彼に私が惹かれたのは言うまでもない。
名前はシャンクス、そう聞いていたのに、
仲間からは『お頭』
と呼ばれていた。
船に乗る人の中でも1番偉い人なんだ、きっと。
そうとしか思ってなかった。
「また海に出るんですか?」
いつものようにふらっと来て、新作のケーキと珈琲を注文した彼は、
今度は2か月くらいだな、と呟いた。
「この辺はまだ行ってないとこがたくさんあってな・・・冒険のし甲斐がある」
「気を付けて下さいね・・・あんまり居ないけどたまに海賊とかもうろついてるらしいですし」
「心配してくれるのか、嬉しいな」
「・・・海は危険ですから」
「危険すら楽しいと思っちまうからなァ俺達は」
「皆さん強そうですもんね」
「ああ、強いぞあいつらは」
「・・・シャンクスが1番強いんですか?」
「当然だ」
・・・なんて不敵に笑う彼はカッコイイんだけど。
「・・・それはそれは素敵ですわね、クリームつけた最強の冒険家さん?」
頬に生クリームをつけたままカッコつけられても。
くす、と笑ったら彼はだっはっは、と豪快に笑った。
「旅先で美味しい砂糖見つけたら買って来てくれると嬉しいんですけど」
「覚えておこう。これより美味いケーキが食えるんなら安いモンだ」
「あら、有難う御座います。・・・今までの旅の中で1番美味しかったケーキってどんなでした?」
「ここの1番最初に食ったやつだ」
「・・・ショートケーキ?」
「それだ。今日のも美味かったが、あれが1番だな」
「そりゃあ自信作ですもの」
「自分のとこが1番美味いってことか?」
「当然」
さっきの彼の言い方を真似してみたら、
「残念だ。クリームつけて言ってくれりゃキス出来たのに」
・・・何処まで本気で何処までが冗談かわからない風に言う。
何気なく鏡を見てみたら、
「小麦粉ならついてますけど?」
ほんの少しの小麦粉が頬についていた。
「問題ない、十分甘い」
「え?」
近づいて来た顔に驚く暇もなかった。
私の頬に彼の唇が、くっついた。
「もっと甘いモン、出せるか?」
「・・・・品切れです」
「じゃあまた来る。ごちーさん」
・・・片手で器用にケーキを食べる人。
今度お酒好きのあの人にアルコール入りのケーキでも作ってみようかと考えた。
彼が海賊だと知ったのは出会ってから1年後。
「アコちゃん何もされてない?大丈夫?」
よく来てくれるお客さんに・・・・そう聞かれて、何のことかわからなかった。
「特に何も・・・」
「まぁ赤髪は一般人には手出さないって噂だけどね。気を付けた方がいいわよ」
「・・・あか、がみ」
「知らなかったの!?海賊よ、しかも超有名な」
「海賊・・・・・」
彼が。
海賊の・・・お頭。
お客さんから手配書も見せてもらった。
それからすぐに彼の船を見に行った。
こんな大きい船の、
船長。
・・・・こんなに堂々としてたのに。
私、今まで気づかなかったんだ。
そう思ったらおかしくなった。
でもそれからも彼は私に何も言わなかった。
ただ、『冒険』の話しをして。
たまにお土産をくれて。
ケーキを食べてくれる、大事なお客様。
「シャンクスは海とお酒どっちが好き?」
新作のお酒入りケーキを食べてもらって、
いつもと変わらない会話。
「どっちもだ」
「どっちも?」
「海があって酒がある。最高だなァ」
「・・・欲張り」
「ああ、俺は欲張りだ」
それはきっと、彼が海賊だから。
「そんな貴方の為のケーキですよ、これ」
「酒と甘いモンが入ってるのか。美味いよ」
「売れるかしら、お酒好きな人に」
「売れるさ、俺のお墨付きだ」
四皇のお墨付きのケーキ。
・・・それは売れるでしょうとも。
「それはともかく、今も言ったが・・・アコ」
「はい?」
「俺は欲張りなんだ」
「それは聞きましたけど」
「だから今日はもっと甘いのが欲しい」
「お砂糖100倍入れたケーキとかですか?」
「そんなんじゃ俺は満足出来ねェんだ」
耳元でそう囁いて、
重なった唇。
広がる香りは試食した時のケーキの甘さで。
その唇は驚くくらい優しかった。
「四皇が甘い物好きっていうのは恥ずかしいものですか?」
「騙してた訳じゃなかったんだが・・・」
シャンクスはそう言ってぼりぼりと頭を掻く。
「確かに嘘はついてないですね。冒険が好きで旅をしている人ですもん」
・・・海賊として、が抜けてただけで。
たいしたことじゃなかったのかもしれない。
彼にとっては。
でも私は聞きたかった、シャンクスの口から。
「・・・何で、言ってくれなかったんですか」
シャンクスは今日までついに私に言ってくれなかった理由を。
私の心の底からの問いかけに、
シャンクスは私をじっと見つめた。
そして。
「いやーアコがいつ気付くのかと思ってたんだ」
あっけらかんと、答えた。
「・・・・・は?」
「ついに気づかなかったかと思ったが・・・気づいてたのかァ」
そして口を大きく開けて笑った。
「じゃっじゃあ・・・今日出港することを言ってくれなかったのは!?」
「こっちにも色々あってな。・・・・何でわかった?」
「小さい島の情報網なめないで下さい」
全部筒抜けなんだから。
「そりゃ参った。なら覚悟も出来てるんだな?」
・・・お別れの、覚悟。
「・・・だから来たんです」
「・・・そうか。手間が省けた」
そう言って何処か悪い笑み。
「・・・シャンクス、さよな」
ら、が言えなかった。
言う前に唇を塞がれたから。
「・・・・っ!?」
荒々しい口づけに、確かに彼は海賊なんだと思い知らされた。
「よし、行こう」
「・・・・・何処に」
「とりあえずは南の方だな」
何その答え。
「・・・・わたしも?」
驚く私にシャンクスも驚いた顔をした。
「・・・情報は筒抜けなんだと思ってたんだが」
「・・・私が知ってるのはシャンクスが海賊ってことと今日出港するってことだけど」
答えた私にシャンクスががっくりと肩を落とした。
「・・・・なら聞いてなかったんだな」
「・・・何をですか?」
「今日出港と共にをアコを掻っ攫う」
「え」
・・・・聞いてません。
「だから言わなかったんだが・・・ま、いいか」
それからへらりと笑ったシャンクスは、
「今日は祝いの宴だ、自信作作ってくれ。俺だけに」
私に手を差し出した。
「・・・ショートケーキで、いいですか?」
「勿論だ」
これから始まる甘い旅。
ずっと狙ってたの、気づかなかっただろう?
と嬉しそうに言う彼の隣で。