短編②
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23時半。
時計を見た。
こんなもんだろう。
社会人の飲み会だ。
今何処だ、なんて連絡を入れるような時間でもねェのはわかってる。
ガキじゃねェんだ、お互いに。
・・・・・わかっちゃいるが、
手元の灰皿に溜まっていく一方の吸い殻。
帰って来たアコがこれを見たらなんと言うか。
吸い過ぎだ、と怒るか。
それとも寂しかったんだろうと揶揄ってくるか。
・・・・・想像したら早く顔が見たくなった。
参ったな。
「たっだいまー!!」
楽しかったー!!飲み過ぎた!!
でも飲み会だからいいよね!!
「・・・・随分飲んだみたいだな」
「楽しくて、つい。でも粗相はなにもしてませんよー」
「ほら、水」
「あ、ありがとー」
同棲中の恋人ベックは、顔は怖いけど優しいんだ。
水を受け取って飲み干した。
「ぷはーっ!!」
「・・・・おっさん」
「どっちが」
「俺はおっさんだ、間違いなくな」
「ってちょっとベック、煙草吸い過ぎ。何この吸い殻」
「・・・・どっかの誰かさんの帰りを待ちわびてただけさ」
目に止まった吸い殻に驚いて非難すれば、
ベックはそう言って苦笑いを浮かべた。
「・・・・心配した?」
「暇を持て余した」
・・・・素直じゃないなあ。
「先に寝てて良かったのに」
「へべれけになったら誰が迎えに行くんだ?」
「・・・・・むぅ」
「・・・・まったく」
確かに、飲み過ぎて足元がおぼつかなくなって迎えに来てもらったことは何度かある。
反論出来ない。
今日も何とか帰っては来れたけど正直だるい。
「ベックー水もっとー」
「氷は?」
「欲しい!」
「仕方ないお姫様だな」
と言いながらもベックはちゃんと氷入りの冷たいお水をくれた。
「ありがとベック、大好き」
優しい恋人にお礼を言いながらぎゅ、と抱き着いた。
「・・・アコ」
「・・・・何?」
「・・・・・・・いや、何でもない」
いつもなら何も言わずに抱きしめ返してくれるベックが、何だか変。
「でも」
「・・・明日休みじゃないだろ、早く寝ろ」
・・・・・あ、何か不機嫌だ。
抱き締め返してくれずに突き放された。
「・・・ベックー?」
「俺ももう寝る」
「一緒に寝る?」
「酒臭い奴とは寝れん」
・・・・・あれれ。
酒臭い、とは俺も嘘が上手くなったものだなと我ながら感心する。
無事に帰って来たことにはほっとしたものの、
抱き着いて来たアコの身体から匂った煙草の匂いが鼻についた。
アコは煙草は吸わない。
・・・・が、煙草の匂いは常にさせている。
俺の煙草の匂いだ。
が、今日のアコの煙草の匂いは違うもの。
・・・・当然か、今日アコの隣に居たのは俺じゃない。
そんな当然のことに苛ついている自分がいる。
・・・酒臭いから嫌なんじゃない、
他の男の匂いをさせているアコが嫌な訳なんだが。
そんなガキくさいこと言える訳ない。
「ベックぅ」
「・・・・水のおかわりなら自分でやれ」
「お風呂入って来る」
「・・・・・・・・風呂か」
「止めないの?」
・・・・・きょとん、と赤い顔で見上げて来るアコを思わず抱きしめたくなる。
アコの言う通り、飲み会のあった日の風呂はいつも止めている。
酒を飲んだ後の風呂は危険だから、だ。
特にこいつは酒をよく飲む。
・・・・が。
風呂に入れば今のアコについた煙草の匂いは消える。
「・・・ベックー?お風呂入っちゃうよ?あ、それとも一緒に入る?」
にこ、と微笑みかけて来る。
・・・この笑みを、飲み会でもしたのかこいつ。
俺の知らない煙草を吸う男に。
「・・・酔ってるな、アコ」
「そりゃそうでしょ飲み会帰りなんだから」
アコの言う通りだ、何を言ってるんだ俺は。
「・・・そう、だな」
「・・・ベック大丈夫?疲れてる?」
・・・・匂いなんか気にする俺はまだガキか。
年齢だけいっちょまえで情けないな。
匂いがどうだろうと可愛い恋人に違いはない。
「アコ」
「・・・ベック?」
そっと腕を伸ばして抱きしめればくすぐったそうに顔を胸に寄せて来る。
・・・・・・・・さっきは悪いことをしたな、と思いながらも。
・・・・・・俺の煙草とは違う匂いは変わらない。
内心舌打ちをするも顔には出していないはずだった。
「・・・さっきから何に怒ってるの?」
「・・・・怒ってるように見えるか?」
「怒ってるようにしか見えない」
「・・・・・そうか」
「お顔怖いですよーベックさん」
怖い、なんて言いながら全然怖がってない様子のアコに、
軽く口づけた。
煙草の匂いより酒の方がまだいい。
そう思った。
・・・・のだが。
「・・・・甘いな」
「何それ、ベックでもそういうこと言うんだ」
くす、と笑うアコは可愛い。
・・・・じゃない。
「バニラ・・・・か?」
「ああ、ホントに甘かったのね。アイス食べたから」
「アイス?」
「今日コースで、最後にデザートもあったのね。で、私が選んだのはバニラアイス」
「それでか。・・・今は何でもあるんだな」
「レディス限定だよん」
「・・・・・・・・・レディス?」
「ちょっと、私はおばさんだからレディじゃないって言いたいの?」
「今日の飲み会は・・・・」
「女子会だから。あ、女子じゃないだろうっていう意見もナシね!!」
俺の心など到底知らないアコは、
まったく違うところで勘違いをして憤慨している。
「は・・・はは、まったく、まだまだガキだな俺も」
突然ベックが笑いだした。
・・・・抱きしめてくれて嬉しかったけど、
変にも程がある。
今日のベック。
「・・・・入りたいか?風呂に」
「え、まあ」
飲み会あった日はいつも止められるんだけど。
でも煙草臭いし出来れば入りたいのは本音。
「許可する」
「え、ほんと?」
「ただし俺も一緒に入るぞ」
「え・・・嘘でしょ」
「先に誘って来たのはアコだ、忘れたか?」
「わ・・・・・・・・・・忘れてない・・・・けど」
「行くぞ」
「・・・・はぁーい」
・・・・ベックは私が飲み会帰りにお風呂に入りたがることを、
私が綺麗好きだからだと思ってるんだろうなあ。
・・・お風呂に入りたいのは、
身体についた匂いを消して。
ベックの匂いに戻る為、なんだけどな。
ま、ベックの機嫌も直ったし。
お風呂にも入れるし、いっか。
また彼の匂いに戻れる幸せ。
噛みしめて。