短編②
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ね、アコ。このチョコパフェ美味しそうじゃない?」
「あ、ホント。美味しそうー」
「ちょっと遠いんだけど行ってみない?」
「・・・面倒くさい」
「うわ、言うと思った」
「取り寄せてうちで食べない?」
「はいはい、それでいいですよー」
私は面倒くさがりだ。
最低限のことはするし、
仕事上ではある程度仕方ないことは理解してる。
でもなるべく面倒なことにならないようにいつも考えている。
そんな私が今、
究極の選択を迫られている。
珍しく定時であがれた日、
「奢るから一緒に飯行かないか?」
・・・・と、先輩であり上司であるシャンクス先輩からお誘いを頂いた。
「割り勘ならご一緒させて頂きます」
奢りは後々面倒なことになりかねないからね。
「よし、それでいい。行きたいとこあるか?」
ここで希望したらしたで、
期待した味と違ってたら気を遣わなきゃいけなくて面倒だから。
無難に、
「駅前のファミレスに行きたいでーす」
「了解」
・・・・で、食後のデザートを頬張っているときに言われた言葉。
「結婚を前提に俺と付き合う気はないか?」
言われた瞬間、
私はまず思った。
あ、面倒なことになった。
・・・・・と。
「あ・・・・・・え、っと」
「返事はいつでもいい。考えておいてくれ」
「・・・・・は、い」
それから1週間。
私はずっと、落ち込んでいる。
「悩むんじゃなくて落ち込んでるの?何で」
あまりにも落ち込む私に声をかけてくれた友人に、思い切って相談。
「だって私告白された瞬間、まず先に面倒なことになったな、って思った」
「・・・・面倒?」
「シャンクス先輩って人気あるじゃない?」
「そりゃあね」
シャンクス先輩は隠れファンクラブもある程カッコ良くて優しいと人気がある。
「受けたら受けたで釣り合わない!って言われるに決まってるし」
「・・・・そう?」
「断ったらきっと生意気ーとか言われるし」
どっちに転んでも面倒だ、と思った。
「で、それ想像して落ち込んでる訳?」
「・・・違うよ」
「じゃあ何」
「真剣な告白に対して真っ先に面倒と思った自分最低だなって思って」
いくら何でも失礼だ。
・・・私は本当に最低だ。
「成長したのねえアコ」
「・・・それ褒めてる?」
「一応ね」
「・・・どうも」
はあ、とため息が漏れる。
そんな私を見て友人が苦笑。
「そこまでわかってるんなら落ち込むんじゃなくて真剣に考えてあげなさいよ、答え」
「・・・・うん」
考えないと、なあ。
そう思うのに。
「アコ、この書類なんだが」
「あ。・・・・・・はい」
部下のことは名前で呼ぶ、がモットーのシャンクス先輩。
・・・目、見れない。
「こことここ、直しておいてくれるか?」
「はい、わかりました・・・」
「・・・アコ」
「は、い」
ただひたすら地面を見つめる。
失礼なことだってわかってる。
普段ならこんなこと絶対しない。
シャンクス先輩じゃなかったら後々面倒になるだけだし。
・・・・でも今は、どんなに頑張ろうとしても見れない。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
心の中で謝るしか、出来ない。
不意に、ぽんぽん、と2回頭を軽く叩かれた。
「頼む」
「・・・・・っはい」
またある時は、
自分の席から離れていて、戻ろうとした時。
「アコは何処だ?」
そんなシャンクス先輩の声にドキッとして。
慌てて隠れて、
自分の席に戻れなくなる。
・・・・何か、
今1番面倒なのって。
・・・・・・・私だね。
そして私はついに、ミスをした。
「あ」
ああああ・・・・・!!
どどどどうしよう!
このままじゃまずい、と近くに居たシャンクス先輩を呼び止めた。
「シャンクス先輩・・・っ!」
「ん?どうした?」
今まで散々失礼な態度をとってきた私に優しく笑いかけてくれる。
・・・これだけで泣きそう。
「わ・・・私ここ、このまま登録して送っちゃったんです」
「・・・・・そうか」
真剣な表情でパソコンの画面を見つめて数秒、
シャンクス先輩は私を見て、笑った。
「大丈夫だ、何とかなる」
「でも・・・・」
「ここ、いいか?」
「っはい・・・」
シャンクス先輩に私の席に座ってもらって、私は立ち上がった。
カタカタとキーボードを打ちこむシャンクス先輩をただ呆然と見つめるしか出来なかった。
「申し訳ありません・・・」
「気にするな、たいした問題じゃない」
そんなことある訳ない。
大した問題じゃない、なんて。
「私・・・面倒くさがりなんです」
ぽつり、と呟いた。
そんな声にもシャンクス先輩は反応してくれて、
「俺もだ」
・・・・と、信じられないことを言う。
「え、嘘」
だってシャンクス先輩って面倒ごとに自分から喜々として突っ込んでいくイメージなのに。
「面倒は嫌だが、その先にあるモンにどうしても惹かれちまう」
「・・・・先にあるもの?」
「まァ、今回のこともな。アコに告白して周囲に知られりゃ仕事はしにくいだろうしな」
・・・・確かに。
「それでもアコが好きだから、そういう関係になれりゃ最高だからな」
それに、とシャンクス先輩は笑う。
「今俺は嬉しいんだ」
「・・・嬉しい、ですか?」
「俺を頼ってくれたことと・・・久しぶりにアコが目を見てくれたことが」
それからシャンクス先輩はマウスをクリックして、
「よし、出来た。これで大丈夫だ」
・・・怒るどころか、
嬉しいと言ってくれた。
「有難う御座います・・・!」
「また何かあったら俺を頼ってくれ」
「・・・っはい」
しゃんと背筋を伸ばして返事をしたら、
「代わりと言っちゃ何だが、今日飯行かないか?」
・・・食事の、お誘い。
「・・・・ラーメン、食べたいです」
何も考えずに、言ってみた。
「ラーメンか。駅前に美味いとこがあるんだ、どうだ?」
駅前のラーメン屋。
ちょっと気になってた店だ。
「行きたい、です」
おススメの店、なんて。
今までは一緒に行くなんて面倒だから絶対嫌って思ってたけど。
「楽しみにしてる」
・・・面倒の先にあるものを見てみたいと思った。
「今まで・・・目合わせなかったりしてすみませんでした」
仕事が終わってラーメン屋に向かって歩きながら、私は初めて謝ることが出来た。
「意識してくれてる証だ、気にするな」
「・・・でも私、先輩に告白されたとき・・・・」
言いかけて、悩んだ。
これを白状するのかさすがに失礼すぎるかも、と。
でも、
「面倒なことになった、と思ったんだろ?」
「・・・・おわかりになりましたか」
・・・先輩には全部わかってたらしい。
「いいんじゃないのか、それで。アコらしさだろう」
・・・・優しすぎですシャンクス先輩。
「ここだ、アコ」
話してる間にラーメン屋に着いた。
席に着いて、醤油ラーメンを注文。
数分後にお待たせしましたー、とやってきたラーメンは確かに美味しそう。
香り良し。
湯気良し。
「頂きます・・・」
まずスープを一口。
「・・・・美味しい」
スープ抜群。
次に麺をすする。
もちもちの太麺ながらも見事にスープに絡んでる。
・・・今まで来なかったことを後悔した。
「美味いだろう?」
「美味しいです、すごく!」
感動して答えたら、
「お、美味いかい?有難うよお嬢さん」
店主さんに聞かれていたようで。
「・・・・お嬢さんって年齢じゃないですけど、有難う御座います」
・・・お嬢さんって言われちゃった。
「こういうのも店ならでは、だろ」
「・・・・ですね」
ほんわかとした気分になった。
それにきっと、1人で食べるより美味しい気がする。
今度、友達を誘ってチョコパフェを食べに行こう。
お店に。
「先輩、面倒な私ですけど・・・付き合ってもらえますか?」
面倒の先にあったものは、
今まで見たことない、先輩の笑顔でした。