短編②
夢小説設定
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「お前誰だ?」
朝会ってすぐに言われたその言葉に私は何とも言えない衝撃を受けた。
「・・・・・・・・・エース?」
「見たことねェ顔だな、何処の隊のモンだ?」
至って真剣な顔で私を見つめて、
更にエースは追い討ちをかけた。
「お前、名前は?」
「・・・・・・・・・・・・・・アコ」
「そっか、よろしくな」
その時私は泣けなかった。
「記憶喪失?」
すぐにマルコさんに相談に行って、船医さんに見てもらったところ、そんな答えが返ってきた。
原因は昨日エースが酔っ払ってふらついて頭を打ったことだと予測された。
ちなみにエースはマルコさんのこともサッチさんのこともわかってる。
わからないのは、
「・・・・・・・よりによってアコちゃんのことだけわからねェなんてな、エースの奴」
・・・・・私のことだけ。
「もとに、戻らないんですか?」
「何かきっかけがあれば戻る可能性もあるが・・・あとは時間が解決してくれるのを待つしか」
「きっかけ、ですか」
私のことを思い出せるようなきっかけ、か。
「・・・・・悪ィ、俺全然思い出せなくて」
隣で聞いていたエースが申し訳なさそうにしていて、私は慌てて首を横に振った。
「いいよ、敵だって認識されてたら悲しいけど」
「何で俺、お前のことだけ忘れてんだろーな」
「何とか思い出せない?エースがうちに来た時のこととか」
「・・・・・・・・・・・・わかんねェ」
エースは少し考えるように俯いて、首を振った。
そう簡単には思い出せないよね・・・・。
とはいえ、私だってそう簡単に諦めるつもりはない。
「一緒に買い物したり、おせんべい食べたり・・・・お化け屋敷とか、観覧車、とか」
私にとっては全部大切な思い出で。
でもエースはやっぱり首を捻るばかり。
「っちょっと待ってて!」
そんなエースにそう声をかけて私は自分の部屋へ走った。
そしてすぐにそれを手に取り、戻る。
「これっ!エースが向こうで買ってくれたネックレスとこっちで選んでくれた服っ」
エースとお揃いの赤い玉の連なったネックレスと、
エースが選んでくれたワンピースを見せる。
「・・・・・・・・俺が?」
「やっぱ駄目?」
「・・・・・・・・・・・・・ごめん」
ああ、もう。
そんな顔して謝らないでよ。
余計悲しくなる。
「ったく仕方ねえ奴だよい」
「マルコさん?」
不意に隣に居たマルコさんが何か呟いたと思ったら、
「え?」
ぐい、といきなり肩を引き寄せられた。
「じゃあこいつは俺がもらっても構わねえだんだな、エース?」
「ままままマルコさん!?」
何言ってんの!?とツッコミを入れようとしたところで、力強く身体を引き離された。
・・・・・エースに。
「何顔赤くしてんだよお前」
「へ」
目の前のエースは見るからに不機嫌で。
あ、何かこれデジャヴ。
「何かむかつく」
「え、エース?」
でも記憶が戻った様子はなくて。
「・・・・・・・・本能的にヤキモチ焼いただけかよい。そんなに好きなら泣かせんなってんだい」
「な、泣いてないですよマルコさん」
「そんなに涙目にいっぱいためてりゃ流れんのも時間の問題だろうが」
「・・・・・・・・・っ」
だって。
だって、悲しいじゃないですか。
だって悔しいじゃないですか。
・・・・・・・だってむかつくじゃ、ないですか。
そしてそのまま涙が溢れた瞬間。
ぎゅう、っと力強く抱きしめられた。
安心する匂いに。
「絶対、思い出すから。だから・・・・他の奴のとこになんか行くな」
耳元で響く声は、力強い言葉なのに何処か不安が混じってた。
何とか、しなきゃ。
私が泣いてる場合じゃないじゃん。
私はエースの身体を押して、離れた。
「・・・・・アコ?」
「サッチさん、台所借りてもいいですか?」
「へ?いいけど」
「有難う御座います。エース、ちょっと待ってて」
「え、ああ」
呆然とする皆を残して私は今度はキッチンに向かった。
そこですることはただ1つ。
「はい、エース」
「・・・・・・・・・・・・・美味そう」
「初めて私がエースに作った料理。これ食べたら思い出すかもって」
思い出して欲しい。
そう願って作った、野菜炒め。
私の嫌いな野菜が入ってて。
・・・・・エースが食べてくれた、あの時と同じ。
「食っていいのか?」
「食べて」
皆が見守る中、エースがお皿に手を伸ばす。
「・・・・・・・・・・・・美味ェ」
けれどエースの口から出た言葉は普通の味の感想。
普段なら嬉しいはず、なのに。
そうがっくりと肩を落とした私に、
「アコ、料理上手くなったな。おふくろさんと同じ味だ」
ふ、と柔らかく笑ったエース。
「・・・・・・・・おかあさんと同じ、って」
「前も美味かったけどな」
そしていつものように、にし、と笑った。
「思い出したの?」
「・・・・・・・・・おう」
ああ、いつものエースだ。
そう思ったら自然に腕が伸びていた。
掴む先は、
エースの頬。
「・・・・・・あにすんだアコ」
「何すんだじゃないでしょ!?私がどんっだけ心配したと思ってんの!?」
「あァ・・・・・悪かった」
言いながら頭を撫でくれたエースに、段々と消えていく胸のもやもや。
「わたし、もうエースに思い出してもらえないか、って」
「わかってる。だからもっと泣け」
「・・・・・・・バカエース」
好きな女に泣け、なんて。
エースくらいのもので。
思い出す、エースの言葉。
『俺にだけ全部見せとけ』
とそこで。
「人前でいちゃつかないで欲しいなー」
「!?」
「・・・・・この借りはいつか返してもらうよい、エース」
「っ!?」
「・・・・・あれ、演技だよな?マルコ」
「ったりめえだろい」
恥ずかしさといたたまれなさで何も言えない私とは反対に、
エースは平然とマルコさんと会話してる。
「んじゃま、後は2人でごゆっり」
「え、あ、」
改めて皆が行ってしまったのを見送って。
「アコ愛してる」
幸せな涙味のキスをした。