短編②
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ガチャリ、とドアが開いた音がした。
「ただいま、アコ」
「おかえり、シャンクス」
ちょうど夕飯の準備を終えたいい頃合い。
「変わりは?」
「何も。ちょうど夕飯出来たとこ」
大手会社の社長のシャンクス。
お見合いで意気投合し、結婚して1年目。
何とか慣れて来た。
「今日のメニューは?」
「生姜焼き」
答える私の胸元にシャンクスは顔を近づけて。
「いい匂いがするな」
「・・・・しょうがの匂い?」
「いや、良く出来たぬかの匂いだ」
「あ、今日は大根ときゅうり漬かってる」
「いいな。楽しみだ」
「うちの母から受け継いだぬか床ですから。それに今日は特別なのもあるよ」
「特別なもの?」
「ふふん。秋田のいぶりがっこー!!!」
「ほーすごいな。どうしたんだ?」
「友達が秋田土産でくれたのー!!最高でしょ!?」
「ああ、最高に可愛い。アコがな」
と、シャンクスは私の頬にちゅ。
「・・・・・嬉しくない?いぶりがっこ」
「勿論嬉しいさ」
「だよね!いぶりがっこは炒め物にも和えものにもはたまたピラフやパスタにも使える万能なコだもの!」
嬉しくない訳がないよね!!
何て言ったって私もシャンクスも漬物大好き人間。
私がシャンクスとの結婚を決意したのも漬物が決め手だったし。
「酒は?」
「冷蔵庫に冷え冷え。あ、ついでに枝豆も出すね」
「・・・・ああ」
シャンクスのああ、が気になったので、
「シャンクス?どうかした?」
聞いてみた。
瞬間ふわりと抱きしめられて。
「アコと結婚して良かったと実感してるところだ」
「そう?」
「美味い漬物が毎日食える」
「漬物ある人生って幸せだよね・・・!!わかる!!」
「しかしぬか床を毎日混ぜてたら手が荒れるんじゃないか?」
「ところがどっこい。逆に綺麗になるんだよー」
ほら、と手を見せれば、
「ああ、本当だな」
と言いながら手にも口づけを落とすシャンクス。
「ぬか最高」
「よし、じゃあ」
「頂きましょう!」
「頂きます」
幸せの食事タイム。
正直漬物大好きってだけで結婚したから不安ではあったけど。
シャンクスは優しいし楽しく過ごせてる。
「・・・・アコ、これは」
「気づいた!?」
「枝豆のぬか漬けか?」
「正解!どう?」
「酒のツマミに完璧だ」
「でしょでしょ?それと今ゆで卵も漬けてるから明日のお楽しみ」
「そりゃあ明日が楽しみだ。生姜焼きも美味い」
「シャンクス明日は休みだよね?」
「ああ、片付けと洗濯はやっておく」
「有難う・・・じゃなくて。某デパートで漬物市やるんだけど!!」
「勿論行こう」
シャンクスは私に家事をすべて任せるようなことはせず、
結婚前の約束通り私の苦手な家事を補ってくれる。
結婚して半年たったころ、
『釣った魚にも餌くれるんだねえ・・・』
なんて冗談半分で言った私に、
『結婚詐欺じゃなかっただろう?』
と返してくれたシャンクス。
「今日持ち込みの仕事は?」
「ない。一緒に寝れるな、寝顔も見れる」
「・・・毎日見てるじゃん」
「一緒に寝て見るのともう寝てる姿を見るのとじゃ違うんだ、勿論両方可愛いことに変わりはないが」
「・・・さいですか」
私は母親に無理やり、だったけど。
シャンクスが私とのお見合いを決めた理由は、
母親に盗撮された寝顔の写真が決め手だったらしい。
恥ずかしいけどもう慣れた。
「楽しみだな、明日」
「試食しまくって買いまくる!!」
幸せだなぁ。
次の日、
デパートの漬物市。
思った以上に広くて、
漬物市だけじゃなくシャンクスの服や、
夕飯の買い物もしてきてくたくたで帰宅。
しかも、戦利品は。
「・・・・これだけ」
漬物3つ。
あれやこれやと試食したけど、
「普段からアコの漬けたものを食ってると、どうもな」
とシャンクスも苦笑。
「化学調味料使いすぎ。本物は少ししかなかったよぅ」
ロクな漬物を食べれず、買うことも出来ず。
2人で肩を落として終わった1日。
そして次の日、いつものように和食の朝ごはんを一緒に食べてシャンクスを送り出して。
気づいたのは夕方だった。
「・・・・・・・・・・・やっちゃったよ」
すっかり忘れてた。
毎日混ぜてたぬかも、昨日は混ぜ忘れてた。
・・・・・というか。
漬けてたきゅうりに大根、
ゆで卵。
・・・・・・取り出すの忘れてた。
昨日で出さなきゃいけなかったのに!!
この時期は1日でも長く漬けるとしょっぱくなるのに!!!
「アコ?ただいま」
「あ・・・・・おか、えり」
ショックを受けてるところにシャンクスが帰宅。
私はとっさにぬか床を隠した。
「・・・・どうかしたか?」
「・・・・何でもないよ。まだご飯出来てないから、先にお風呂入っちゃって?」
「たまには一緒に入らないか?」
「ご飯誰が作るのソレ」
「後で俺も一緒に作るさ」
そんなことになったら漬物の失敗がバレる!!
「・・・・また今度ね」
「そうか、残念だ」
と、さして残念そうでもない顔でシャンクスはお風呂へ向かった。
シャワーの音が聞こえて来たところで、そっと大根ときゅうり、茹で卵を出してみる。
切って、一口。
「・・・・・むぅ」
塩分過多もいいところだ。
漬物失敗なんて・・・!!シャンクスに言える訳がない!!
シャンクスの好きな(私もだけど)漬物を上手く漬けられるのが私の役目なのに。
・・・・洗濯掃除苦手で、
料理もそこそこしか出来ない私が、
唯一シャンクスを喜ばせてあげられること、だったのに。
とりあえず今日のところはもらったいぶりがっこと、
昨日買った漬物出して誤魔化しておこう。
「頂きます」
「今日も美味そうだ」
「揚げたてトンカツですから!」
ほかほかご飯に揚げたてのカツ!
そして漬物!
・・・・は今日は自家製じゃないけど。
気づかないよね、気づかないでねシャンクス。
「揚げ物にも合うな、いぶりがっこ」
「ね。美味しいよね」
「マヨネーズがないな、取って来る」
「駄目っ!!」
「駄目?」
冷蔵庫には処分に困ってとりあえずパックに入れた漬物達が!!
立ち上がったシャンクスの前に私も立ちはだかる。
「あ・・・・シャンクス疲れてるんだから駄目。私が行く」
「気にするな」
「気にする!!すごいする!!」
「・・・・・・・気になるな」
あ。やぶへびった。
「あ、えっと。・・・・・えーっとぉ」
えーい、こうなったら!!
勢いのままシャンクスに思い切り抱き着いた。
「・・・・・アコ?」
「・・・・何も聞かないでもらえませんかね」
正直に懇願してみる。けど。
「・・・言いたくねェならいい、と言いたいところだが。アコ、俺達はもう夫婦だ」
「・・・・うん」
「愛しい妻が悩んでいるのならそれを解決するのは夫である俺の役目だ」
頼もしい声に、
「・・・・この間漬けたきゅうり大根ゆで卵。失敗しました」
吐いた。
シャンクスは優しく抱きしめてくれて、
「そりゃあ残念だったな。・・・食えないのか?」
「すんごいしょっぱい」
「どれ」
「あ、ちょ、・・・・・ああああ」
シャンクスはあっという間に冷蔵庫からブツを取り出し、
大根をぱくり。
「ああ、問題ない」
「え、そう?」
「米や酒に合わせるにはこれくらい問題ない。単体で食べるから塩辛く感じるんだ、ほら」
不意に口に入れられたほかほかのご飯。と大根のぬか漬け。
「む。・・・・・食べられなくはないかも」
「俺は仕事で汗をかくから塩分もあっていい。・・・出していいな?」
「・・・・大丈夫?」
「俺はこれが食いたい」
「・・・・一応ミ◯ラル麦茶も用意しておくね」
「俺は世界一幸せな旦那だな」
ちゅ、と軽い口づけ。
「・・・私の方が。シャンクスに出会えて漬物の世界が広がって、幸せ」
感謝してる、すごく。
「今度の休みは何処か食べに行くか」
「じゃあ◯屋で」
「牛丼大盛り卵味噌汁漬物で?」
「勿論!!」
「漬物は持ち込みたいくらいだな」
「わかる。あれだけじゃ足りないよね」
2人で顔を見合わせて、笑った。
私たちはきっと、
漬物で繋がった、
世界一幸せな夫婦だ。