短編②
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「あ。髪・・・・切ったんですね、エースさん」
「あァ・・・・まあ、今日が出港だしな」
「・・・・そっか。もう行っちゃうんですね」
小さな島にある、
小さな村の、
小さなカフェ。
そんなとこに、白ひげ海賊団のエースさんはよく来てくれてた。
初めに来た時、
『美味ェ。あんたの作る飯、好きだ』
私の作ったピラフを食べて満面の笑みを浮かべた彼は。
それから毎日のように来てくれて、
私の作ったご飯を食べて、
私の淹れる珈琲を美味しいと飲んでくれた、彼は。
・・・・・今日、海に出て。
もう帰って来ないらしい。
「・・・・今まで、ありがとな。美味い飯。・・・と珈琲」
「いえ、そんな。こちらこそ有難う御座いました」
火拳のエースの食い逃げに気を付けろ、なんて噂があったけど、
食い逃げなんてすることなく、
毎日笑顔でお店に来ては、
ちゃんとお金を払っていてくれてた。
「ちゃんとした礼も出来なくて・・・悪いな」
「ご飯、食べてくれて嬉しかったです。・・・短くなった髪も、よくお似合いですよ」
「あー・・・これはまァ、なんつーか」
「・・・・今日出港だから気合入れたんですよね?」
「・・・・間違っちゃいねェけどよ」
「あれ、違いました?」
エースさんは気まずさそうにがしがしと頭をかいて、
「・・・違わねェよ。合ってる」
何故か苦笑いを浮かべて、何処か寂しそう。
「気を付けて下さいね、これからの旅」
「・・・ああ、有難う」
「白ひげ海賊団の2番隊隊長さんに言うことじゃないかもしれないですけど・・・」
彼の強さはよく聞く。
だからあまり心配はしてない。
ただ・・・・寂しいけど。
「なァアコ」
「はい?」
「・・・・何か、食わせてくれねェ?」
「勿論、喜んで。何がいいですか?」
「何でもいい。・・・アコが、好きなやつ」
「かしこまりました、お待ち下さいね」
大事な出港の日。
ふさわしい料理を作りたいなあ、と考えた末。
出来たのが、
「お待たせしました、どうぞ」
「美味そうだな。・・・カレーか」
「はい、召し上がって下さい」
「いただきます」
エースさんは今までも丁寧に挨拶をして食べてくれてたけど、
今日はより丁寧に見えた。
「・・・・ん、レンコン?」
1口食べて、気づいてくれた。
「はい、レンコンカレーです。レンコンって穴が開いてるでしょう?」
「ああ、開いてんな」
「だから未来の見通しが良いって縁起が良い食べ物なんです」
「・・・・今日旅立つ俺の為に作ってくれたって訳か」
「はい。いかがですか?」
「美味ェ。ここで食った飯ん中でも1番だ」
「あら、有難う御座います」
良かった、とほっとしたのもつかの間。
ごつん!と音がして、
目の前のエースさんがテーブルにつっぷしていた。
あ、また寝ちゃったのね。
・・・・・エースさんは食べてる最中によく寝る。
可愛い寝顔。
もうこれで見納めなのかな。
そう思ったら寂しくなった。
よく、見ておこう。
この寝顔。
この・・・優しい顔を。
そう思ってじっと見つめてたら、
突然エースさんの目がぱっと開いた。
「え、」
そしてそれは、一瞬のことだった。
目を覚ましたエースさんの顔が一気に近づいたと思ったら、
唇と唇が、触れた。
柔らかい、感触。
「な・・・・え?」
何が起きたのかわからない。
エースさんは何事もなかったかのようにじっと私を見つめる。
「エース・・・さん?」
「起きた」
「・・・・・わかります」
見ればわかります・・・!
・・・・寝ぼけてたのかな?
恋人とか・・・好きな人と、間違えたのかな。
こんなこと、今までなかったのに。
「・・・・あのさ」
「はい」
エースさんは真面目な顔で何かを言いかけて、
「・・・・やっぱいいや」
口を閉ざして続きを食べ始めた。
「・・・・珈琲、飲みます?」
「ん、頼む」
ガチャガチャ、とエースさんがスプーンでカレーを掬ってる音、
コポコポ・・・と私が珈琲を注ぐ音が響く。
・・・・エースさんに珈琲を出すのも、これが最後。
エースさんの美味い、が聞けるのも。
笑顔が見れるのも。
寂しく・・・・なるなぁ。
「はい、珈琲どうぞ。今日は特別にクッキーも」
「・・・サンキュ」
エースさんも、寂しいと思ってくれてるのだろうか。
心なしか寂しそうな笑顔に見える。
「・・・エースさん居なくなっちゃったら、お店の売り上げ減っちゃいますねえ」
このブルーな空気をぶち壊したくて、
冗談めかして言ってみたけど、
あれこれじゃあ私金の亡者みたいじゃない?
ていうかエースさんのお金だけが嬉しかったみたいじゃない?
「・・・・ここなら、アコなら大丈夫だろ」
案の定エースさんは真顔。
ああ、最悪。
「・・・・駄目ですよ」
「え?」
「エースさん居なくなったら、駄目です」
「・・・・なァ」
「あ、ごめんなさい。今日出港なのに。ちゃんと笑顔でお見送り行きます、ね」
「・・・・・いや」
思わず呟いていた本音に慌ててフォロー。
でもエースさんの表情は暗いまま。
・・・・どうしよう。
絶望したままお互い無言になってしまって。
何か言わなきゃ、でも何を言ったらいいのか。
戸惑う中、先に口を開いたのはエースさんだった。
「・・・・ホントはさ。髪切ったの、別の意味があるんだ」
「・・・え、そうなんですか?」
「ある意味気合の為なんだけどな。覚悟っつーか」
「・・・覚悟?」
「情けねェよな・・・ガキみてェ、俺」
自嘲気味に笑うエースさんに胸が痛む。
「何か悩んでるなら言って下さい、微力ながらお力添えします」
「悩みっつーか・・・話、聞いてくれるか?」
「はい!」
「俺は海賊だし・・・次いつここに来れるかもわからねェ」
「・・・・はい」
「だから待ってろ、とは言えねェ」
「・・・・・え?」
「言わねェから・・・・来いよアコ」
「・・・・・・・え、と?」
話・・・って、私のこと?
「俺と一緒に海に出ようぜ」
「わ・・・・私、」
「店があるのはわかってる。それでも俺は連れて行きたい」
急な展開に頭はパニック。
「ちなみに言うとさっきキスしたのも寝ぼけてた訳じゃねェからな」
「ええええ!?」
「好きだからしたんだ」
ただ、呆然。
どうしたらいいのか迷ってると、
「うし、スッキリした!アコ、カレーおかわり」
「え、あ」
カレーおかわりとかしてる場合じゃないですよね!?
そんな頭で何とかカレーをよそって出したら、
エースさんはカレーの中からレンコンを取り出して、私の前に突き出す。
そしてレンコンの穴を、覗いた。
「俺の未来にお前が見えるぜ」
・・・・・っそれは、
最高の口説き文句。
「・・・はい、私の未来にも。エースさんが見えます」
2人の未来を、
見てみたい。