短編②
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『アコ、好きだ』
そう言って笑った彼の顔が忘れられない。
・・・・・私だって好きだよエース。
まだ、好き。
・・・・・ずっと、好き。
だって私たち恋人じゃない。
・・・・・・・忘れられる訳、ない。
「アコ・・・やっぱり連れて行くべきじゃなかったのよ」
「仕方ないわ、あの状況じゃあね・・・」
ひそひそ声のナースさん達の声が聞こえた。
・・・・マリンフォード。
もう2度と行くことはない。
もう名前を聞くのも辛い。
あれは全部夢だった、そう思いたかった。
・・・・エースが、死んだなんて。
捕まったって、皆が助けに行くんだもん、きっと助かる。
・・・・・そう信じて疑わなかった。
馬鹿、って言ってエースに怒って。
エースは笑って悪ィ、って言って。
それでまたいつもの日常に戻るんだと。
・・・・・・そう、思ってた。
こころから。
ああ、ご飯も喉を通らない。
サッチさんのご飯が食べたい。
・・・・エースの隣で、エースの笑顔を見ながら、
寝顔を見ながらごはんが食べたい。
「アコ・・・・」
「マルコ、さん・・・・」
隣にマルコさんが座った。
マルコさんは変わらずここに居るのに、エースはもう居ない。
・・・・父さんも。
「連れて行くんじゃなかったよい」
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
「謝ってほしい訳じゃねェよい。ただの俺の後悔だい」
「・・・・はい」
「むしろ謝らないといけねェのは俺だからよい」
「・・・・・マルコさん謝ることなんて、なにも」
「俺が居たのに・・・・よい」
お酒を煽りながらマルコさんは遠い目。
「マルコさんが居たから・・・きっとあの子は無事だと思います」
エースの弟。
麦わらのルフィ。
散々聞かされた、俺の弟だって。
・・・・ねえいつか3人でご飯食べようって話してたのに。
あんな形で会いたくなんてなかったのに。
・・・・ねえ、エース。
「エースが・・・守ったからだよい」
・・・・・エースが命をかけて守った、あの子だけは。
絶対無事であって欲しい。
「・・・・・会いに行きたい」
思わずぽつりと声に出ていた。
それは、
「それは麦わらにかい?それとも・・・・エースに、かい?」
・・・・・どっちに?
「・・・・・・・・エース、に」
海に落ちたらエースに会えるだろうか。
火に焼かれたらエースのところに行けるかもしれない。
ああ、いっそエースに包まれてるみたいになれるかも。
なんて真剣に考える日々。
「悪ィがそれはさせられねェよい」
「だって私はもう・・・・っ」
エースが居なきゃ意味ないのに。
「もう?何だい、エースが居なきゃ生きてる意味がねェって言いたいのかい」
「・・・・・だって」
「なら俺が意味になるよい」
「・・・・・・・どういう」
「俺じゃアコの生きる意味にはなれねェかい?」
ふ、と柔らかい笑みは寂しそうに見えた。
・・・・いつも厳しくて真面目なマルコさんらしくない表情。
心臓が締め付けられた。
「わっ私は」
「別にエースのことを忘れろとは言わねェ。・・・ここに居る全員忘れたりするはずもねェんだ」
「・・・・・・っはい」
「それでも俺は・・・・好きなんだよい、アコが」
「・・・・・・・・・・・・・・どうして」
どうして今、そんなこと。
「今言うのがどんだけ卑怯かはわかってるが・・・・それでも撤回はしねェよい」
「嘘です」
「嘘じゃねェ」
「だってマルコさん今までそんなこと・・・・っ」
1回も言わなかったし、そんな様子微塵も見せなかったのに。
「エースならアコを任せるに足る男だったからねい」
「・・・・っ、エース・・・・」
名前を口にしただけで涙が零れた。
ぽん、と頭に置かれた大きな手。
「・・・・ゆっくりでいい、考えてくれんなら有難ェよい」
・・・・・どうしたら、いいの。
マルコさんにまさかの告白をされて数日が過ぎた。
答えはまだ出なくて、でもどうしたらいいかなんてわかんなくて。
人数の少なくなった船の甲板でぼーっとしていた。
穏やかな海を見ていたら。
くらり。
目眩がして、
「あ」
あ、落ちる。呑気にそう思った。
やばい、とも思ったけど同時に安心もした。
これで楽になれる。
・・・そう、思ったのに。
「・・・・させねェって、言ったろい?」
太くて逞しい腕が私を引き上げた。
「・・・・・・・そんなつもりじゃ」
「なかったって顔でもなさそうだよい」
「・・・・・・半分正解です」
「今会いに行っても怒られるだけだよい」
言いながら顔が強張ってるマルコさんの方が怒ってる気がする。
「・・・・私に会いたくないですかね」
「しわくちゃの婆になってから来いって怒るだろうよい」
「・・・・そうかも」
ああ、何だかそんなエースが想像出来てしまった。
笑えるような、泣けるような。
瞬間ぎゅう、と力強く抱きしめられた。
「・・・・マルコさん、駄目です」
違う、エースじゃない。
そんなことがこんなにも悲しい。
・・・・でも、
「嫌、とは言わねェのかい」
・・・・嫌じゃない自分がもっと悲しい。
ここ数日考えてて気づいた。
寂しくなった時、
死にたくなった時。
気が付いた時にマルコさんが居てくれてたこと。
「・・・言われたいんですか?」
そう聞いたらマルコさんが、
「そんな訳ねェだろい?」
・・・・また寂しそうに笑った。
・・・・・・・笑って欲しい。
もっと強く抱きしめて欲しい。
そう思ってしまった自分が、苦しい。
・・・・苦しいよ、エース。
アコを苦しめることをわかっていても、言わずにおれなかった。
抱きしめずに、いられなかった。
卑怯なのは承知だ。
それでも、もう後には引けねェ。
引くつもりもないが。
本当はアコもわかってるはずだ、このまま自身が苦しんでいることをエースが望んでなどいないことを。
・・・・わかっちゃいても、気持ちがついていくまでに時間はかかるだろうがよい。
わかってる。
私がこのまま苦しみ続けることをエースが望んでる訳ない。
エースはそんな人じゃなかった。
マルコならいいんじゃねェ?って、きっと笑って許してくれる。
マルコさんのことは兄として慕ってきたけど、それでも大事な人であることに変わりはない。
そんなマルコさんをこれ以上苦しめる訳には。
「俺のこと考えてるだろい」
「・・・・・何で」
「わかるよい。伊達に見て来ちゃいねェ。俺が苦しんでるって?」
「私が答え、出さないから・・・」
「元々アコを苦しませてんのは俺だよい」
「違う」
違うよマルコさん。
もうわかってる。
「違わねェ、隙があったからモノにしちまおうと思っただけだい」
「・・・・・・はい、してください」
そう答えた瞬間マルコさんの顔が面白いことになった。
「・・・・・・アコ?」
「私が壊れないように守ってくれたんですよね」
「・・・・・そんないい奴じゃねェよい」
「私だって・・・まだエースのこと好きです。ただ・・・甘えたいだけ、なんですきっと」
「・・・・それで十分だい」
ぎゅ、としがみついたら。
温かい風が頬を撫でた。
・・・・涙が止まらなくなって、
そんな私をマルコさんが包み込んでくれて。
・・・・・大丈夫だよエース。
私は生きて前に進む。
生きて、エースが守った命がどうなっていくか見届ける。
苦しむけど、平気。
マルコさん笑わせて、
私も笑って。
・・・・・・・・・生きるよ。