短編②
夢小説設定
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ぴんぽーん。
チャイムの音とほぼ同時に足音。
「お邪魔します」
丁寧なお辞儀をしてうちに入って来たのは、
恋人のエース。
「いらっしゃい」
「今日は泊まってっていいんだよな?」
「うん。今日の夕飯はから揚げだよー」
「お、美味そう!」
エースとは付き合って3年。
今はたまにエースが泊まりに来るような、そんな関係。
「そーいや今日芸能人見たぜ」
「へー誰?」
「ん。今日の肉美味いな、高かっただろ?」
「高級肉が特売。・・・・で、誰見たの?」
「・・・・あー誰だっけ」
「ちょいちょい。しっかりしてよー」
「にんにくたっぷり最高だな、コレ」
「はいはい、ありがと」
こっちはエースが見たっていう芸能人が知りたいのにエースは興味なさそうにお肉を頬張ってる。
・・・・・・・・や、それはそれで嬉しいんだけどさ。
と、突然エースがもごもごと何か言い出した(口いっぱいに肉があるから何言ってるかわからない)。
「ん、何?どしたのエース」
問いかける私にエースはテレビを指さした。
「これだよ、こいつ」
「何が?」
「今日見た芸能人」
「あーこの人かぁ」
最近売れてる渋めの俳優さん。
画面の中で彼は花束を持ってそれはそれは美しい女優さんに差し出している。
そして・・・・女性は受け取って、涙を流して喜ぶのだ。
「最近このCMで売れてるみたいだもんね」
このCMは、
『僕と結婚、してください』
結婚雑誌のCMだ。
「みてェだな。女に囲まれてきゃーきゃー言われてた」
「だろうねえ。私はタイプじゃないけど」
「アコのタイプは俺だもんな」
平然と言ってのけるエースにちょっと赤面。
・・・・・・いまだにこういうとこ慣れない。
「・・・・私、このCM好きじゃないし」
「・・・・・・・・好きじゃねェの?何で?」
「プロポーズされた女性が皆泣いて喜んで受けると思ってるみたいで」
馬鹿みたい。
そう言ったらエースが変な顔をした。
「・・・・・アコは嬉しくねェってことか?」
「私は・・・・どうかなあ。でも、世の中にはまあ嬉しいわって素直に受け入れられない事情の人も居ると思う」
「・・・まァな」
結婚、かあ。
エースとの結婚は考えたことがない訳じゃないけど、想像出来ないっていうのが正直な感想かもしれない。
私は・・・・もしエースにプロポーズされたら、どうするんだろう。
どんな反応するんだろう。
ちょっと考えてみたけど、
やっぱりエースのプロポーズっていうのも想像出来なかった。
エースは・・・結婚とか、考えてるのかな。
今まで1度もそんな話出たことないから。
「でも好きな奴とはずっと一緒に居たいって思うだろ?」
「思うけど・・・結婚しなくても一緒に居られるじゃん」
「そうだけどよ・・・・」
エースは何故か悩むように頭を抱え込んで、
しばらく唸ってると思いきや、
「じゃあ理想のプロポーズとかねェのか!?」
必死に叫ぶ。
な・・・なんなのこの気迫は。
「理想のプロポーズ・・・・?」
急に言われても・・・!
「うーん・・・・・・うーん・・・・」
「・・・・・・・ねェのか」
急に低くなった声音はエースが不機嫌になった印。
そ・・・そんなこと言われてもなあ。
「あんまり・・・これからプロポーズしますよ、みたいなのはちょっと」
「駄目なのかよ」
「身構えちゃうっていうか・・・こう、さらっと言って欲しい」
素直に言ったら、
エースがぶはっと噴出した。
「・・・・・・何で笑うの」
「だってよ、お前さらっと言ったら絶対聞き流すだろ?」
「・・・・・・そうかなあ」
「絶対ェ流す。したら俺が不憫だ」
途端ご機嫌になったエースに、
「・・・・・・・・してくれるの?」
「あ?」
「・・・・・・・・・・プロポーズ」
聞いてみた。
エースは顔を赤くして、
「・・・・・・・聞き流せよ」
小さい声。
「え・・・えと、ごめん。き・・・聞かなかったことにするね」
「・・・俺が馬鹿みたいじゃねェか」
「・・・・・・・エース?」
エースは、それはそれは盛大なため息を吐いて。
「色々考えてたのによ・・・」
「・・・・何を?」
「プロポーズ・・・に決まってんだろ」
じっと、私を見つめた。
「・・・・え、あ、えと」
「・・・・・・・・言うぞ」
「あ・・・・・・・・・はい」
あれよあれよと言う間に、ただの食卓が緊張の時間に変わった。
「アコ。絶対幸せにするから、俺と結婚してくれ」
「・・・・・・・っ」
その瞬間、頭の中を一気に色んなことが駆け巡ってパニック。
でも、
「でもって返事は、はいしか聞かねェ」
力強いエースの声に我に帰った。
「え・・・・わ・・・私の気持ちは」
「お前の気持ちは俺の方が知ってんだよ。難しい事情とかよくわかんねェのは俺がぶち壊す」
「は・・・・・・・・」
ぽかんと開いた口が塞がらない。
「だから・・・言えよ。俺と結婚、するって」
「でっでも私なんか、」
可愛くもないし料理上手でもないし、
「返事はハイ。・・・だろ?」
真面目な顔で言うエースがおかしいやら可愛いやらで笑ったら、
腕をひかれて抱きしめられた。
「・・・・・はい、旦那様」
「い、いいのか?」
いいのか、って。自分で返事はハイしか聞かないって言ったくせに。
「不安も悩みもぶち壊してくれるんでしょ?」
「・・・・おう。別に結婚しなくても一緒にはいられるけどよ。やっぱり俺はしたい」
「・・・・・・うん」
「俺が幸せにするっていう約束になる」
「私今でも幸せなんだけど」
「一生幸せにするって約束。俺が勝手にしてェだけ」
だから気にすんな、と。
エースは私の頬に口付ける。
「違うよエース」
「え?」
「結婚っていうのは、お互いに約束なの。だから私もエースをずっと幸せにするって約束、する」
「・・・・・ありがとなアコ」
「こちらこそ」
何気ない日の、
さりげないプロポーズは。
とてもとても、
思い出になった。