短編②
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「ベンさん、この本なんですけど・・・・」
「ああ、お頭からだな。もらっておく」
「有難う御座います・・・・あと、あの」
「ん?」
「お頭が・・・・・俺にはお前が居るからいい、って」
控えめに伝えればベンさんの顔が強張ったのがわかった。
それからすぐに小さくため息。
「まったくあの人は・・・・すまないなアコ」
「いえ・・・・」
・・・・有能な副船長。
ベンベックマン。
この人が居るからこの船はやっていけてる気がする。
勿論お頭もすごい人だし、尊敬してるけど。
・・・・・ベンさんが、好き。
言わないけど。
ちらりとベンさんの手元を見る。
・・・また手紙書いてる。
誰に宛てて書いたものかはわからない手紙。
返事が来てるところは見たことないけど。
いつも大事そうに持ってるのを見るから、きっと大事な人なんだろう。
きっと・・・・私なんかじゃ敵わないくらいの美人なんだ。
素敵な恋なんだ。
だから私の気持ちは口にしないでおこう。
「ああ、アコ」
「はい?」
「お頭のところに戻るならこれを渡しておいてくれ。それから逃げるなよ、と伝言も頼む」
「・・・・はぁい」
書類を受け取って返事して踵を返した。
・・・・・・別にお頭のところに戻る予定なんてなかったんだけど。
何でベンさん私がお頭のとこに戻ると思ったんだろう。
・・・・ま、いっか。
「これベンさんからです」
「・・・・・それは見なかったことにしていいか?」
「駄目ですよ私が怒られちゃいますから」
お頭は渋い顔で書類を拒否。
そんなお頭に無理やり書類を渡したら、
「アコはベンが大好きだもんなー」
とニヤニヤ。
「・・・・・・はい、大好きです」
思い切って開き直ってみたら今度は苦笑された。
「それは俺じゃなくてベンに言ってやれ」
「言えませんよ」
・・・・すまん、なんて困り顔。
させたくないし。
「喜ぶと思うんだがなァ」
「・・・・・いいんです、これで」
「・・・・・ったく」
書くだけ書いて渡せない手紙に意味はあるのか。
・・・・否、ないだろうな。
わかってはいても口にすることは出来ず、
結局こんなものに頼る。
・・・・わかっちゃいるのさ。
アコがお頭を思ってることくらい。
お頭にバレたら笑われそうだ。
今日の手紙も・・・・しまっておくか。
「あ、ベンさん」
「・・・どうした、アコ」
向けられた笑顔に口角が自然と上がる。
「ベンさん、この本なんですけど・・・・」
おずおずと差し出された本は以前お頭に読んでおけと渡したものだ。
「ああ、お頭からだな。もらっておく」
「有難う御座います・・・・あと、あの」
「ん?」
「お頭が・・・・・俺にはお前が居るからいい、って」
・・・・・読んじゃいないってことか。
そんなことだろうとは思ったが。
それをアコ伝いに俺に寄越したのはあの人の策略か?
「まったくあの人は・・・・すまないなアコ」
「いえ・・・・」
苦笑を浮かべながらも何処か愛おしそうな表情に見えるのは、
アコがお頭を好いてるからなんだろう。
「ああ、アコ」
「はい?」
「お頭のところに戻るならこれを渡しておいてくれ。それから逃げるなよ、と伝言も頼む」
それなら俺に出来ることは1つだ。
「・・・・はぁい」
お頭に渡さなければいけない書類をもう1つ忘れていたことに気づき、
頃合いを見計らって、部屋に行くことにした。
「・・・入るぞ」
部屋に頭が居ることは期待してなかったが、
「・・・・・俺は何も見てないぞベン」
予想外なことにお頭は部屋に居たどころか真面目に仕事をしてるようだった。
「てっきり部屋には居ないものだと思ってたんだがな」
「アコに言われちまったからなァ」
「・・・・・何て言われたんだ?」
「真面目にやって下さい、ベンさんを困らせないで、ってな」
「アコの言うことなら何でも聞く、か」
・・・・・応援の必要も、ないか。
「アコが可愛いもんでつい聞き入れちまう。お前もそうだろ?」
「・・・・・違うとは言えないが」
「好きだって言って抱きしめるくらいしちまえばいいだろうに」
「あんたなら出来るだろうな」
「・・・・・・似た者同士だな」
「何処がだ。俺とあんたじゃ似ても似つかんだろうが」
・・・・俺がお頭と少しでも似ていたら、
アコは俺を好きになっていたか、と頭に浮かび、
すぐに消した。
・・・・・もう諦めると決めたんだ。
「俺じゃねェ、アコとベンちゃんがって話しさ」
「それこそあり得ない話だと思うがな・・・・」
「お前さんにその気がないんなら俺がもらうことになるが?」
「選ぶのはアコだ」
「アコが俺の女になったら泣かせちまうかもなァ」
・・・・お頭の安い挑発だ。
それくらいわかってる。
ちゃらんぽらんだが仲間や大事な人間を泣かせて喜ぶような奴じゃない。
「それでもアコが好きだと思えるならそれでいい」
「なァベン・・・あくまで言う気はねぇのか、本当に」
「ない」
「・・・・っとに強情だよなァ」
「アコが好きな奴と一緒になるのが1番だ、あんたならいいさ」
これで、いいんだ。
自分自身にそう言い聞かせた瞬間、
「ちょっと待ったー!!」
ここに居るはずのない、愛しい声。
「・・・・・・どういうことだお頭」
俺もだ、何故今まで気づかなかった。
「お頭に・・・っ面白いもの見せてやるからここに居ろって・・・言われて」
物陰から出て来たアコの姿に必死に動揺を隠す。
「アコ、あとはこいつに直接言ってやれ。その方がもっと面白い」
お頭はそう言ってカラカラと笑いながら部屋を出て行った。
・・・・残された、俺とアコ。
「・・・・・アコ」
俺は、何て言えばいいんだ。
先に口を開いたのは彼女の方だった。
「今ここでこんなこと言うの・・・卑怯かもしれないですけどっ!!」
顔を真っ赤にして、必死な姿で。
何を言うのかと思えば。
「私は誤解されたままじゃ嫌なので言います!!私が好きなのは・・・・っあなたです!」
「・・・・・・・は?」
我ながら何て間抜けた返事をしたもんだと思う。
だがそれ以外に言葉が出てこなかった。
「ベンさんが・・・っ私が好きな人と一緒になるのを望んで下さってるなら・・・・っ」
私と一緒になって下さい!
・・・・悲鳴のような、叫び声。
「・・・・・・参った」
・・・・こんなことになるとはな。
「・・・そ、そうですよね。ベンさんには好きな人が・・・・っ」
「ああ、いる。ずっと好きだったんだが・・・一緒になってくれるか?アコ」
「・・・・・・・へ?」
・・・・・アコの反応を見て、
ああさっきの俺もこんな感じだったのかと冷静に思った。
お頭の言う通り似た者同士だった、ってことか。
「俺は海賊なんでな。卑怯大歓迎なんだ」
「ベンさん・・・・私・・・・っ」
「愛してる、アコ」
「・・・・・・・・私もです・・・・っ!」
書類が足りないことに気づいたお頭が、
俺が部屋に来るだろうと予測してアコを引き留めていたらしい。
・・・まったくあの人には敵わない。