短編②
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「ねぇねぇ、どう思う?」
「・・・・・と、言われてもな」
「・・・・わかんない?」
急に部屋にやってきた彼女は、にこにこと可愛らしい笑顔で俺を困らせる。
・・・・わかんない?と聞かれても。
正直なところまったくわからねェ。
何処が変わったと思う?なんて、男が1番困る質問だ。
コアラに愚痴を言ったら恐らく普段からちゃんと見てないのが悪いんですぅ、とか言われそうだ。
・・・・と考えている場合でもない。
改めてまじまじと俺の恋人を見つめる。
抱きしめようとしたら拒まれたのを考えると、ここが本気で答えないと後が恐ろしい。
髪・・・・切った訳じゃねェよな。
眉も目も変わってるようには見えないし。
唇はふっくらとして艶めいていて、
俺を誘っているようにすら見える。
・・・・キスしてェ。
・・・・おっと、今はそんなことしてられねェや。
・・・胸が少し大きくなったとか?
なんて言ったら殴られるな、確実に。
となると。
「少し痩せたか?」
これしかない。
割と自信を持って発言したつもりが、
ぺし。
頭に軽くチョップが入ったところを見るとどうやら違ったらしい。
・・・・・それでもアコはまだ、笑顔のまま。
逆にそれが怖い。
アコの変化に気づかない、それがそこまで怒らせることか?
いや、コアラならともかくアコはそんなことでそこまで怒るような女じゃない。
じゃあ何が原因だ?
「もう、ホントにわかんないの?サボ」
「・・・悪い」
「正解は睫毛。マスカラつけてみたの」
言われてから改めて見れば、確かに。
「気づかなかった・・・可愛いよアコ」
彼女が好きだと言っていたので、
言いながら頭を優しく撫でた。
するとアコの手も俺の頭に乗った。
「アコ?」
「えいっ」
ぐわし。
力強く掴まれた俺の髪が、彼女の手によって乱暴にかき回された。
「・・・・今度は何がしたいんだ?アコ」
「サボの髪って高くで売れるかなぁって」
「おい」
思わず突っ込んじまったけど、アコの目は本気だ。
「とりあえず100本くらい私に頂戴?」
「1本くらいならやるよ」
「1本じゃ駄目」
・・・・どうすりゃいいんだ、これ。
「・・・・とりあえずそろそろ抱きしめてもいいか?」
目の前に恋人が居るってのに抱きしめられねェなんて冗談じゃない。
「駄目」
「・・・駄目なのか」
何故だ。
睫毛に気づかなかったからか?
・・・・何だよチクショウ。
「じゃあキス」
「駄目ですー」
アコはあくまでもずっと笑顔だ。
あー・・・・可愛いんだけどな。
アコは俺の髪を綺麗とよく言うが、
アコの黒い髪の方が好きだ。
さらさらで、触り心地が良い。
我慢出来なくなって、アコの髪を一房手に取り、口づけた。
ん、アコの匂いだ。たまんねェ。
「・・・・え、アコ?」
不意に顔を見ればアコの笑顔が固まっていた。
マジでどうしたんだ、おかしい。
おかしすぎる。
「・・・・・サボの髪、ぐしゃぐしゃだよ」
「・・・アコがしたんだろ?」
「鳥の巣みたい。・・・・あはは、あははっ」
・・・・ああ、もう駄目だ。
「アコ。降参だ。頼むから何に怒ってるのか聞かせてくれ」
愛しい恋人のこんな顔をもうこれ以上見ていられる訳がない、と懇願すれば、
「何のこと?」
笑顔できょとん。
「・・・・アコ」
名前を呼ばれて胸が痛んだ。
私何してるんだろ。
・・・・・・サボ困らせて。
笑顔でいれば大丈夫、って思ってたのに。
でも本当のことなんて言える訳ない。
「怒ってなんかない、ただ会いたかっただけ」
そう、会いたかっただけ。
顔を良く見ておきたかっただけ。
だから抱きしめられたくないの。
抱きしめられたらサボの鍛えられた胸板に顔を押し付けられるから。
キスは近すぎて見えないから。
・・・・今は1秒でも多く長く。
サボを見つめていたいだけ。
サボに私の笑顔を記憶して欲しいだけ。
・・・・・・それ、だけ。
「わかった」
サボは真剣な顔で呟いて、
強い力で私をその腕に閉じ込めた。
「・・・サボっ嫌」
「離して欲しい?」
「・・・・・・うん」
嘘。
ホントは離さないで欲しい。
ずっと、ずっと・・・明日になってもこのままがいい。
・・・言わないけど。
「離さねェ」
「・・・・言うと思った」
「無事に帰る。約束する」
「・・・・なに、言って」
いきなり何を言い出すの、サボは。
「連絡も出来るだけするよ。不安になったらアコからもしてくれ」
「・・・・・・別に心配なんて、サボ強い、し」
「ずっとアコを思ってる」
「・・・うん」
「だからこのまま離さない」
「・・・・・・・ん」
「・・・・もう、いいだろ?我慢するな」
サボの優しい声に身体中の力が一気抜けた。
そのせいで目から大粒の涙がぽろ、と零れ落ちた。
それを皮切りに、
「だ・・・・・だって・・・・っマスカラしてるのに・・・・ぃ・・・っ」
次々と涙が流れて来た。
「どうせ俺には見えねェし。気にする必要ないだろ?」
「パンダになりたくないぃぃ!!」
「パンダになったアコも可愛いよ」
「見てないくせにー!!」
泣かないようにマスカラつけてきたのに。
・・・・・・明日から長期遠征に行くサボに、
笑顔で見送るつもりだったのに。
サボの手は私の背中であやすようにぽんぽん、と2回優しく叩く。
「見なくてもわかる。アコなら何でも可愛い」
「・・・・嬉しくない」
「そう言うなって。笑ってる顔も好きだけど、無理して笑ってる顔は好きじゃねェからな」
・・・全部バレちゃうなんて。
「泣いたら困ると思って笑ってたのに!」
「あっちの方が困るっての。むしろ泣き顔レアだから良し」
「良くない」
「・・・・・で?」
「・・・・何が?」
この流れで何が、で?
「俺に言いたいことあるんじゃないのか?」
顔を上げればにこにこと嬉しそうなサボの顔。
・・・・・この状況でそれを言うのは悔しいものがあるんだけど。
っていうかホントこの状況無理だ。
思いっきり顔を背けた。
「ない」
「・・・・可愛くないなァ、アコ」
「さっき私なら何でも可愛いって言った人は誰ですかー?」
「可愛くないアコも可愛い。・・・でもこれ以上好きにさせる訳にはいかないな」
「あ」
ぐりん、とすごい勢いで首が回った。
かと思ったら、
「ん・・・・・・」
あっという間に唇が塞がれた。
ちゅ、ちゅ、と啄むようなキスが繰り返される。
「涙味」
にんまり、といった表現がぴったりの笑い方。
「・・・・・・・・・・・サボが触れると思いが強くなって」
泣きそうになった。
・・・・笑っているのが辛くなった。
言いたくて、言いたくて。でも言いたくなかった。
困らせるだけだってわかってたから。
どんなに離れることがあっても今まで言ったことなんて、なかったのに。
「言えよ、アコ」
「・・・・・・・・・・・・・っ寂しい」
・・・言ってしまった。
「ああ、ごめんな。寂しい思いさせちまうけど」
「・・・・ドラゴンさんの右腕だもんねサボは」
仕方ない。わかってるんだよそんなこと。
「帰ってきたら誓うよ」
今度はサボが私の頭に手をやって、
わしゃわしゃ。
「かっ髪が・・・・!!」
「さっきのお返し。可愛いから問題はない」
「・・・・・・・ホントに?」
「ああ。だから帰ってきたら、」
俺だけの可愛い奥さんになって下さい。
永遠の愛を誓うからさ。
悪戯っ子のような彼の笑み。
「今度はアコが困る番?」
「困る訳ないじゃん・・・・!!」
返事はYESに決まってるんだから!